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「ピークアウト」と'peak out'、ついでに'peek out'

不幸中の幸いにも先日の台風10号は迷走を重ねたあげく想定していたよりは「ピークアウト」が早かったわけですが、こういう台風とかコロナ禍などの文脈で耳にする「ピークアウト」。なかなか興味深い日本語と思いましてnoteします。

まずこれは英語の'peak out'から来ているのですが、それを「ピークを過ぎる」の意味で使うのは和製英語で、英語としては自然な表現ではないとされています。けれども現代日本語で「ピークアウト」は、もっぱらこちらの意味で使われていますよね。

先日観ていた麻雀遊戯王のYouTubeでもこのニュアンスで使われていました。

なので、「台風10号は本州に上陸後、ピークアウト(ピークを過ぎた)した」を英語にすると、

Typhoon No.10 started to weaken after making landfall on Honshu.

くらいの表現にしなければなりません。

それにしても英語に存在しない、それでいて意味があまりにもそれっぽい和製英語として使われているのは不思議ではあります。どういう経緯で使われ出したんだろう?fade out「次第に消える」とかphase out「段階的に止める」とかからの誤った類推なのかなあ?

ところが、同じ「ピークアウト」でも「ピークに完全に達する」という意味でなら、英語peak outでも使わなくはないんですよね。ここでのoutは副詞で動詞peakの単なる強調。といっても手元の辞書には載っていないレベルではあるのですが、YouGlishなどにかけてみるとこの実例もいくつか出てきます。ただChatGPTに聞いてみるとそういった表現はやや冗長であると指摘されたりはしますが。

「The athlete’s performance peaked out during the final lap, giving her the gold medal.」という英文は、文法的には正しいですが、「peaked out」という表現がやや不自然に感じられる場合があります。通常、英語では「peaked」(ピークに達した)という表現だけで十分な場合が多く、「peaked out」と言うとやや冗長に聞こえるかもしれません。「peaked」や「reached its peak」のほうがより一般的で、自然な表現になります。

自然な英語にすると、例えば次のようになります:

• “The athlete’s performance peaked during the final lap, giving her the gold medal.”
• “The athlete reached her peak performance during the final lap, securing the gold medal.”

【日本語訳】
その選手のパフォーマンスは最終ラップでピークに達し、金メダルを獲得した。

この「ピークアウト」という日本語の2つのニュアンスについて翻訳家の越前敏弥先生が以下のサイトで、「ピークアウト」を正しい英語の意味で使っている人は2割くらいだろうと述べられていて興味深かったです。

ただ個人的には2割もいるかなあ?というのも正直な印象ですが。。

こう考えてくると麻雀Mリーグをモデルにした塚脇永久先生の漫画『ピークアウト』は、

当初タイトルを聞いたとき、持たざる無名の若者が麻雀一つで成り上がっていく漫画なのになんで「ピークアウト」なのかと怪訝に思っていたのですが、この英語的に正しい「完全にピークに達する」の意味ならば納得いきますね。それか、この後の連載で彼らがピークを過ぎていく和製英語的な意味での「ピークアウト」な展開まで描かれるのでしょうか!?続きが楽しみです。

【おまけ】
peak outには同音異義語でpeek out「ちらりとのぞく」というのもありますね。先日読んでいた"No Longer Human"に出てきてある意味印象に残ったので引用・紹介しておきます。なるほど、そういう文脈で使うのかと。。

When the photo was developed, everyone laughed even harder because my small manhood was peeking out from the sarong (which was actually a patterned furoshiki cloth) I wore around my waist. This, too, turned out to be another unexpected success for me.

—『No Longer Human』Osamu Dazai著

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