【英語本】『英語の思考法 -話すための文法・文化レッスン』井上逸兵【ブックレビュー】
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筆者の井上逸兵さんは堀田隆一さんと共にYouTubeチャンネルをされたりもしている社会言語学の先生。
本書は、英語を単に純粋に語学として捉えるのみならず、社会や文化といった広い枠組みの中で位置付けようとする試み。
といっても学者先生のお堅い論文調ではなく、それこそYouTubeでお話されている気楽な口語体で、さまざまな社会と言語の接点を切り結ぶエピソードや言語事象が軽快に紹介されている。正直いささか総花的な印象はあるものの、個人的に気付きや学びも多くあった。例えば、『英語は決まり文句が8割』のレビューで私もあげた日本語の定型表現の多さとその特徴や、
take a walkのような軽動詞構文やworthを形容詞とする解釈、眠るときにsheepを数える理由や短縮形の意義、英語にだってタテマエや婉曲表現があることなどなど。
ただ一点、読んでいて個人的にどうにも引っかかったところをあげると、日本文化の特徴を「エンパシー」として繰り返し強調するくだり。日本文化の本質的特徴を言うのにわざわざカタカナ語の「エンパシー」を持ってくるのがそもそも疑問なのだが、私の理解では、ビジネスでのリーダーシップ論や心理学での生き方論など様々な文脈でempathyの重要性はどちらかと言うとむしろ近年英語圏から輸入されているのでは?ということだ。
例えば、TEDやNetflixでの講演で有名なブレネー・ブラウン(Brené Brown)はsympathyと区別してempathyの重要性を以下のように説いているし、
またビジネスの文脈だと以下のようや記事が典型的な「エンパシー」の強調だろう。
本書においてカタカナ語の「エンパシー」で日本文化の特徴として挙げられているものの大半は、ルース・ベネディクト以来の日本社会論で、妥当性はともかくさんざん言われてきた「人情」とか「村社会」とか「空気」(山本七平)などで事足りる話なのでは?というのがこの点についての私の率直な感想です。。
と少しく疑義を呈しましたが、とは言っても、日本において英語の学習というととかく大学受験やTOEICなど資格試験に向けた無菌室の「英語」になりがちな中で、社会言語学的アプローチは野生の英語に向き合うための貴重な学びとなるのは間違いない。特に後半のポライトネスに関する章はおぼえればすぐ実践できる表現ばかり集められていて、実用性にも富むものとなっている。