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「正論を言っても響かない理由」人を動かす伝え方の科学
「いや、それは違うよ。こうすればいいんじゃない?」
「論理的に考えれば、こうするのが正解でしょ?」
「なんでこんなに正しいことを言ってるのに、伝わらないの?」
そんなふうに思ったこと、ありませんか?
職場や家庭、友人関係で、「ちゃんとした意見を伝えているのに、なぜか相手が納得しない」 という経験は、多くの人が持っているはずです。
でも実は、心理学的に見ると 「正論は、そのままでは響かない」 ことがわかっています。
今日は、なぜ正論が伝わらないのか、そしてどうすれば 「人を動かす伝え方」 ができるのかを、科学的に解説していきます。
① なぜ「正論」は響かないのか?
「こんなに正しいことを言っているのに、なぜ受け入れてもらえないのか?」
その理由は、心理学でいう 「防衛的認知(Defensive Cognition)」 にあります(Festinger, 1957)。
✔ 人は「自分が間違っている」と認めたくない生き物
✔ たとえ論理的に正しくても、感情が納得しないと受け入れられない
✔ 正論が攻撃的に聞こえると、相手は反発する
たとえば、
「あなたのその考え、間違ってるよ」と言われると、
たとえ本当に間違っていたとしても 「いや、そんなことはない!」 と反発したくなりますよね。
これは、「認知的不協和(Cognitive Dissonance)」 という心理作用が働いているからです。
人は、自分の考えと違う意見を突きつけられると、「自分が間違っていた」と認めるのが苦痛 なので、無意識に「相手の話を聞かない」「否定する」方向へ進んでしまうんです。
つまり、どんなに正論を言っても、相手が「自分が間違っている」と感じる伝え方では響かない のです。
② 「正論」を受け入れてもらうための3つの伝え方
では、どうすれば 「正しいことを伝えて、相手に受け入れてもらう」 ことができるのでしょうか?
実は、科学的に証明された 「人を動かす伝え方」 があるんです。
1. 「Yes, But法」で、相手を受け入れながら伝える
「Yes, But法」とは、まず相手の意見を肯定してから、自分の意見を伝える方法 です(Fisher & Ury, 1981)。
✔ ✕「いや、それは違うよ!」(ストレートな否定)
✔ 〇「その考えもいいですね。でも、こういうやり方もありますよね」(Yes, But)
たとえば、職場で「今の方法で十分うまくいっている」と上司が言っているとき。
✔ ✕「いや、もっと効率のいい方法があります!」 → 相手は防衛的になり、話を聞かない
✔ 〇「たしかに今のやり方も成果が出ていますね。でも、こうすればもっと良くなるかもしれません」 → まず受け入れてから、新しい考えを提示する
人は 「自分を否定された」と感じると、どんな意見も聞かなくなる ので、まずは「Yes(受け入れる)」を入れることが重要です。
2. 「ストーリー」を使って伝える
正論は、そのまま伝えると冷たく聞こえてしまう ことがあります。
でも、「ストーリー(物語)」 にすると、相手は感情的に共感しやすくなるんです(Green & Brock, 2000)。
✔ ✕「健康のために運動すべきです!」(冷たい正論)
✔ 〇「実は、私の知り合いがずっと運動を避けていたんですが、最近軽いウォーキングを始めたら、体調が驚くほど良くなったそうです」(ストーリー)
ストーリーを入れるだけで、「自分にも当てはまるかも」と相手が感じやすくなる んです。
3. 「相手に質問する」と、相手は自分の考えを変えやすい
人は、「押しつけられた意見」には反発しますが、「自分で気づいた答え」には納得しやすいもの。
そのため、正論を伝えるときは、「質問の形」で投げかける と効果的です(Kahneman, 2011)。
✔ ✕「これは絶対にこうすべきです!」(押しつけ)
✔ 〇「この方法のほうがメリットが多いと思うんですが、どう思いますか?」(質問)
たとえば、友人が「今の仕事を辞めようか悩んでいる」と言ったとき。
✔ ✕「絶対に辞めるべきじゃないよ!」(一方的な意見)
✔ 〇「辞めたら、どんなメリットとデメリットがあると思う?」(質問)
質問されると、人は自然と考えます。
「もしかしたら、この考え方のほうがいいかも…」と 自分で納得しやすくなる のです。
③ 「伝え方」を変えるだけで、人は動く
正論が響かない理由は、「相手の防衛本能が働くから」。
でも、伝え方を少し変えるだけで、人は驚くほど受け入れやすくなります。
✔ 「Yes, But法」で、相手を受け入れてから伝える
✔ 「ストーリー」を使って、感情に訴える
✔ 「質問」を投げかけて、相手に考えさせる
この3つを意識するだけで、
✔ 上司や同僚が、あなたの提案をすんなり受け入れてくれる
✔ 友人や家族が、素直に話を聞いてくれる
✔ 「伝わらないストレス」から解放される
正論を言っても伝わらないのは、あなたの意見が間違っているからではなく、「伝え方」に原因がある んです。
今日から、この3つのテクニックを試してみてください。
驚くほど、周りの反応が変わりますよ。
参考文献
Festinger, L. (1957). A Theory of Cognitive Dissonance.
Fisher, R., & Ury, W. (1981). Getting to Yes.
Green, M. C., & Brock, T. C. (2000). The role of transportation in the persuasiveness of narratives. Journal of Personality and Social Psychology, 79(5), 701-721.
Kahneman, D. (2011). Thinking, Fast and Slow.