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定年。

1500ccの大型バイクが、店の駐輪場に入って来た。
ロングストロークのVツインサウンド。
ゲンさんだ。

いつも日曜日に来るのに、平日の来店。
どうしたのかな。

エンジン音から異常は感じられない。
転倒でもなさそうだ。
ヘルメットを脱いで、グローブを外しながら歩いて来る姿に、元気がない。
バイク以外で、何かあったのかな。

いらっしゃいませ。ゲンさん。コーヒー淹れますね。
「おう。」
カウンターに座る表情が曇っている。
元気がない理由は、バイク関係じゃないみたいだ。

ゲンさんは、コーヒーに砂糖とミルク。両方入れる派だ。
湯気の立つ熱いコーヒーにチョコレートを添えて出す。
どうぞ。
「おう。ありがとな。」

他にお客さんはいない。
何も訊かずに、ゲンさんが話すのを待ってみよう。

コーヒーを飲みながら外を見て、ため息。
「参ったよ。」
ゲンさんが、話し始めた。

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