「前負荷」と「後負荷」を考えるときに、右心系と左心系を分けて考える必要はあるか?
とても良いご質問をいただいたので、その内容をもとに、記事作成に至りました。みなさんのスキとコメントが僕のモチベーションにつながります!
上記タイトルの答えは
「右心系がよほど悪くない限り、右心系と左心系を分けて考える必要は、ない。そして『右心系だけが悪い』ことはめったにない。」
です。
右心系が先に悪くなることは結構レア
先に後半について述べます。左心系よりも右心系が主に悪い患者さんというのは、多くの場合は重度の肺気腫(COPD)のような、肺疾患による肺高血圧が原因です。
右心系が先に悪くなるのは、心疾患の中では珍しい疾患が多いですね(たとえば右室梗塞の合併って意外と少ないですよ。まして不整脈原性右室心筋症はかなりレアです)。
「エコーで血行動態を予測しましょう」の記事でも説明しましたが、右心不全の最多原因は左心不全です。右心系は左心系が悪くなってから、引き続いて悪くなることがほとんどです。
「心臓の前負荷と後負荷」を深堀りすると?
「心臓に前負荷と後負荷がある」
ということを紐解いていくと、「左心系に前負荷と後負荷があり、同じように右心系にも前負荷と後負荷」があるわけですね。
右心室も左心室も「心筋」である以上はフランク・スターリングの曲線のような特性があります。つまり右心室も左心室も、ともに前負荷が増えれば増えるほど心拍出量は増える、という特徴をもちます。
いったん、右と左とに分解して、「ざっくり」考える
ざっくり考えましょう。難しく考えるのは基本が理解できてからです。
右室の前負荷は静脈還流。
右室の後負荷は肺血圧ですね。これはエコーのTRPGで推定するしかありません。
左室の前負荷は、肺静脈からの還流。
左室の後負荷は、体血圧です。
・・・気づきましたか?
前負荷として僕が意識しているのは、「量とか体積」のニュアンスです。
そして後負荷として僕が意識しているのは「圧」です。
学生時代に習った
「容量負荷」が前負荷に、
「圧負荷」が後負荷に
当たると考えましょう。そして、定常状態では全身を巡っている血流量「心拍出量」は一定ですから、①右室前負荷である静脈還流量と②左室前負荷である肺静脈からの還流量はイコールになります(瞬間的には、差が出ることはあります)。
その意味で、前負荷を「右」と「左」とで分ける意義は少ないと考えています。左心系にとって前負荷過剰(肺水腫)ならば、前負荷は減らすべきです。左心系にとって前負荷に余裕があるならば、前負荷を増やすアクションをとって良いと考えます。
では、後負荷はどうでしょうか。前半で述べたように、左室後負荷が高すぎる場合、左心不全になることがあります。その結果として肺高血圧が起こると、右心系の後負荷も増えます。原因である「左室後負荷」を減らすことに成功すれば、自然と右室後負荷も改善されます。
右室の後負荷「だけ」が高い病態というのは、肺高血圧の原因が「左心不全」以外の場合です。そして、これは「肺気腫」などの肺疾患以外ではまれでした。ですから、心臓の前負荷と後負荷を「右」と「左」に分解して理解することは、慣れるまではオススメしません。
難しく考えてしまっていた人たちにとって、「なーんだ、最初は難しく考えなくて良いのか」と励みになれば幸いです!