
apple watch時代の心電図
apple watchに心電図記録機能がついて久しいですね。「情報収集しておかないとな」と思いながらも「日本で使えなかった」時期がありサボっていました。
apple社の公式HPを確認し、一般の方がこの心電図記録機能とどう付き合うか?を考えてみました。
❐ apple watchは「心房細動」が出ていないかチェックできる
結論から言えば、apple watchでの心電図記録は「心房細動」という不整脈の検出に有用です。
では、「数ある不整脈のうち『心房細動だけ』で大丈夫なのか?と疑問を持つ方も多いでしょう。
確かに大丈夫と断言はできません。
しかし、この「心房細動だけでも分かる」というのは、非常に大きな意味をもちます。
※ 理由は別記事にて解説しています。興味があればご参照ください。
❍ apple watchの心電図記録appは、健康診断の心電図とは根本的に違う
まず、apple watchで簡便に記録できる心電図は「健診の心電図」とは違うということをおさえておきましょう!
「え、心電図にも種類があるの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
そうです。種類があり、ここでは2種類に分けて説明します。
①健康診断の心電図:12誘導
実は、①12誘導心電図と、②モニター心電図というのを我々医療従事者は区別しています。実は、健康診断のときに実施されている心電図検査がいわゆる「12誘導」というヤツです。
健康診断のときに、手足にクリップみたいなものを取り付け、胸に吸盤みたいなのを貼り付けられた記憶のある方も多いのではないでしょうか?「では、力を抜いてくださいねー、ハイ、終了です。」
あんな風に、「きちんと準備して記録する」イメージがあるのが12誘導心電図です。そして、記録時間は短くて、数秒程度で終わるイメージですね。実は、あの検査で12種類(12方向)の心電図がほぼ同時に記録されています。
心電図とはいっても、心臓に直接流れる電気を見るわけではありません。「所詮、体表面に貼った電極同士の電気を見ているだけ」ですので、「12誘導」といって、12方向から心臓を見るようなイメージで情報を記録して、我々医療従者は少ない情報からでも異常の発見をしようとしています。
循環器疾患の大半は、この「12誘導」心電図が診断の糸口になります。検査の中でも、装置と環境さえあれば手軽で痛くない検査です。
②モニター心電図(apple watchはこちらに近い)
では、他方の②モニター心電図とはどのようなものでしょうか?特徴をまず述べると、以下の3つが思いつきます。
・12誘導より手軽
・ちょっとくらい動いても問題ない
・リアルタイムに(ずっと)記録されている
病院に入院するとシールを数枚、胸に貼り付けられ、それに加え送信機のようなものを首からぶら下げさせられた経験をされた方もいらっしゃるかもしれません。赤・黄・緑などの色のついたケーブルもついていますよね。
実は、あれは「リアルタイムに心電図」をモニター(監視)するためのもので、「モニター心電図」などと呼びます。
特に心疾患の患者さん、そして手術後の患者さんで貼り付けられることが多いです。リアルタイムに心拍数が確認できるという特徴があるからです。装着されていると、みなさんの心電図は、ナースステーション内でリアルタイムに確認できます(とはいえ、常時誰かが心電図をじーっと見ているわけではありません)。
かなり極端な話、「いきなり心臓が止まったらすぐ分かる」くらいの感覚でついていることが多いです。健診のときほど大げさではなく、また「つけてさえいれば動き回っても良い」のが特徴ですね。
健診のときと違い、手軽ですよね。理由は、心電図をとりあえず一方向から見るだけでも十分だからです。体中に電極を付ける必要がないのです。
12方向すべての心電図を常時把握しなければならないような患者さんは稀なわけです(カテーテル治療室内くらいです)。
❍ apple watchは手軽な分、「1方向だけ」の心電図記録
apple watchも、上記の入院中の心電図モニターと同様に、1方向のみの心電図記録ができます。つまり役割としてはモニター心電図に近いです。
ですが、大きな注意点があります。それは「リアルタイムに常時記録」しているわけではないということです。「アプリを使って気になったときに記録する」仕組みです。腕に巻き付けた時計ひとつで、心電図は記録できません。心電図を記録しようとすれば最低でも、「両手」が必要です。
❐ 心電図Appは、「自分が心房細動じゃないか?」と心配なときに
2021年のapple社の公式サイトでは、以下のように記載があります。
心電図 App で記録した心電図が心房細動や洞調律という結果に分類された場合の精度を、約 600 人の被験者による臨床試験でテストした結果、これらの分類結果に関し、洞調律については特異度 99.6%、心房細動については感度 98.3% となりました。
「特異度」とか「感度」という言葉が出てくるので一般の方には「読みにくい」と思います。ですので、かなりざっくり翻訳すると、
心電図Appを使って
・「正常」と分類された場合は、ほぼ正常
・「心房細動じゃない」といわれた場合は、高確率で心房細動ではない
ということになります。つまり、自分がいま心房細動なのではないか?と心配な人が「安心」するためにはかなり有用です。また、「正常(=洞調律)」と分類された場合はさらに安心です。
リアルタイム心拍数監視も、ある
とはいえ、apple watchは心電図以外の方法でリアルタイムに脈拍数は見てくれているようですので、通知を受けたときは素直に心電図Appで心電図記録を試してみてください。心房細動では「急に脈拍数が変わる」のが特徴なので、脈拍数の変化で分かることが期待されます。
要するに心房細動が心配な中高年向け
以上、apple watch心電図時代の心電図記録との付き合い方を見てきました。
結局「心房細動」が心配な中年以降の方々が、ときどき確認して安心できるというような用途になる気がします。逆に言えば、心電図機能「だけ」を目的に、10-30歳代の方がハイエンドモデルや最新バージョンを購入する必要はさすがにないだろうというのが私の意見です。
ちなみに、下記の医療従事者向け記事にも、興味のある方は目を通してみてください!