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心エコー所見2〜慣れてきたら血行動態を予測しよう〜

 前回の「ざっくり」初心者向け心エコー所見はご覧頂きましたか?かなり大雑把で初学者向けに書いてみました。

 まずは左心系をみよう。EFは大事だよ。弁膜症は重度(severe)以外は一旦様子見ていいよ、というようなことを述べました。今日は、「エコー所見から血行動態を予測しよう」というテーマです。

今日の内容まとめ

① LVOT-VTIで心拍出量を予測しよう!(15以上あればOK!)
② E/e'で左房圧が高くないかみよう!(15以上は要注意!)

③ TRPGで肺高血圧がないかをみよう!(40以上は肺高血圧と考える)
④ IVCで右房圧が高くないかみよう!(ハリがあって呼吸性変動がないなら、高いと考える)

+α ついでに肺をざっと4箇所みて、B-lineがいっぱい見られないかチェックして「肺水腫」がないかチェックしよう(自分で当てるなら)


血行動態の評価といえば、右心カテ(Swan-Ganz)だった

 昔は(といっても、僕が医師になった時点ではほとんど使用される患者はレアでしたが)右心カテーテル(肺動脈カテーテル)というのを留置して、心血管系の各部位の「圧」と「心拍出量」を見ていました。これらが血行動態評価の基準に使用されたからです。

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 過去の記事にも書いていますが、この右心カテというのは混合静脈血酸素飽和度(SvO2)というのも経時的に記録でき、「循環動態評価の要」となります。しかし、ルーチンでの使用は否定的になり、今では心臓血管外科の術後か、心肺停止後のVA-ECMO管理(PCPS)管理中くらいしか留置されているケースを見なくなりました。なぜでしょうか?
 それは、「心エコーが非侵襲にも関わらず、血行動態予測に非常に有効だから」です。エコーが世界観を変えてしまったわけですね。

心エコーを、EFとIVCをみるためだけに使っていないか?

 そんなに有用な心エコー所見を、利用せずにいるのはもったいないですね。今日は、「血行動態の予測に有効なエコー所見」を紹介していきます。もちろん厳密な話とか、細かい話は、今日は「あえて」しませんので安心してください!!

今日の内容まとめ(再)

① LVOT-VTIで心拍出量を予測しよう!(15以上あればOK!)
② E/e'で左房圧が高くないかみよう!(15以上は要注意!)

③ TRPGで肺高血圧がないかをみよう!(40以上は肺高血圧と考える)
④ IVCで右房圧が高くないかみよう!(ハリがあって呼吸性変動がないなら、高いと考える)

+α ついでに肺をざっと4箇所みて、B-lineがいっぱい見られないかチェックして「肺水腫」がないかチェックしよう(自分で当てるなら)

 まずはこの4点(+α)を押さえてください。では、ちょっとだけ詳しい、個別の話に入っていきますよ!


① LVOT-VTI 〜心拍出量(CO)の代用〜

 これは、技師さんもあまりレポートに書いてくれていないことが多いです。とはいえ、われわれ循環器医としては気になる項目です。
 LOS(低灌流)かな?と思ったときにCO(心拍出量)を知りたいですよね。いつも述べているように、生体としては、心拍出量(CO)は「何が何でも維持したい」ものです。ですから、基本的には「ありとあらゆる代償機構を使ってでも維持しよう」とします。それでもCOが保たれていないということは緊急事態です。これも繰り返し述べていますが、低灌流というのは、診察所見以外から見抜くのは難しいです。血圧が保たれていてもLOSということがあるからです。

 そこで、このLVOT(左室流出路)のVTIという項目を参照します。技師さんに依頼するときに、「LVOTのVTIも記録お願いします。」といえば十分です。厳密なことを無視すれば、VTIは15以上、できれば20以上あれば十分です。理屈よりも、まずは覚えてしまいましょう!

② E/e'(もしくはDcT) 〜左室の充満圧は高い? 〜

 次に、我々が気になることは、左室の充満圧です。
 左室は心拍出量(CO)を保つためにありとあらゆる「無理」をします。その「無理」の典型が「前負荷を過剰にしよう」とする反応です。
 前負荷が左室にとって大きすぎると、左室の充満圧(≒左房圧)は高くなります。これが、「肺水腫」を起こします。

 逆に言うと、「肺水腫の原因に、『心不全』要素(前負荷過剰)があるかどうか」をみるのに、左室充満圧(≒左房圧)が高いかどうかを知る必要があります。

 ※ ちなみに、「肺水腫の有無」は肺野全体にB-lineという所見があるかどうかで判断します(B-lineって何?という人は読み飛ばしてください)。

 ではなぜ、「心不全」要素があるかどうかをみる必要があるのでしょうか。それは、「心不全要素があるなら、前負荷を取り除くことで低酸素血症が改善する可能性があるから」です。ここまでの内容にわからない点があっても大丈夫です。「E/e'の使い方」がわかればOKです。

 E/e'は信頼性はそこまで高くありませんが、15-16以上あれば、低酸素血症の原因として心不全要素があると考え、前負荷を減らすアクション(血管拡張薬・利尿薬)をとってみて良い、ということになります。周術期患者さんであれば、「そろそろ輸液は控えておけ」というサインだと捉えてもらっても良いと思います(逆に、8以下ならまだ輸液しても大丈夫かな、というイメージです)。
 DcTという項目も本当はお伝えしたいところですが、初学者にとっては「お腹いっぱい」だと思うので、次にいきましょう!

③ TRのPG(TRPG) 〜肺高血圧がないか〜

 TRPGとIVCは、研修医や他科のドクターでも見ている人が多いかもしれません。これらは分かりやすい指標ですね。
 TRPGが教えてくれるのは、40mmHg以上あればだいたい「肺高血圧」があるということです。そして「肺高血圧の原因のほとんどが左心不全」だから、輸液を控えるかどうかの指標にしている方も多いのではないでしょうか。
 多くの場合それでうまくいくものの、注意すべきこともあります。TRPG高値が教えてくれるのは「肺高血圧がある」ことだけです。
 肺高血圧の原因は左心不全だけではありません。慢性肺疾患(COPDや間質性肺炎)により肺高血圧になっている可能性もあります。TRPGだけを盲信しないようにしましょう(「TRPGが高いから利尿薬」は間違えることがあります)。
 また、TRがひどい(severe)場合は、TRPG値を参考にしてはいけません(TRPGを予測する計算式が使えないからです)。

④ IVC 〜右房圧が高くないか〜

 いわずと知れた下大静脈です。IVCは「チョイ当て」エコーで十分観察可能ですので、どんな診療にたずさわる方でも、解釈できると便利です。
 まず、虚脱していれば高い確率で血管内脱水が予想されます。血圧が低い、もしくはショックのときは、「まずガンガン輸液」しましょう。輸液を絞るタイミングは「後で考えれば良い」です。
 逆に「ハリがある」場合は、右房圧が高い可能性があります。「呼吸性変動の有無」も参考になります。右房圧が高い(右心系の前負荷に余裕がない)場合は、呼吸性変動が低下します。

実例

 呼吸不全の患者さんが来院。レントゲンで肺水腫。エコーで心拡大なくEFも60%と保たれていて特別心疾患はない。しかしE/e' > 15、TRPG > 40。IVCはパンパンに張っていて呼吸性変動もない。そんな場合は、「前負荷過剰」の可能性が極めて高いです。まず血圧(高ければ)を下げ、利尿薬を使用しましょう。
 逆に、呼吸不全患者さんで「これらの所見が揃っていない」ときに前負荷を下げる行為は必ずしも病態を良くしない可能性があります。肺疾患や肺炎など別の理由を探しましょう。


 LVOT-VTIが保たれていないケースは何度も言いましたが一般病棟ではレアケースではあります。ただ、心臓が無理をして(過剰な前負荷によって)心拍出量を保っているケースは多々あります。これを心不全といいます。充満圧が上昇している所見がないか、今日から、E/e'やTRPG、IVCに興味をもって見てみてください!


オススメ書籍

 前回と同様、3年目以上のドクターなら下記書籍をオススメします。

参考記事

 エコー所見が、輸液をするかしないかの判断に使用されることがあります。これは、前負荷を予想するのに「役立つ」からです。もちろん絶対的な指標はありません。輸液反応性について力説した記事があるので参照してください!


 前負荷の考え方、コントロール方法については、下記の記事を参照してください


 急性心不全の治療についてはこちらです。血管拡張薬と利尿薬をどう使い分けるかがわかると思います!





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