ワインソムリエ講座5/コート・ド・ニュイ
コート・ド・ニュイ(Côte de Nuits)は、フランスのブルゴーニュ地方に位置し、赤ワインの最高峰と称される産地です。ブルゴーニュ地方は、北から南へ細長く広がるワイン生産地帯で、コート・ド・ニュイはその中の「コート・ドール(Côte d’Or)」と呼ばれるエリアの北部を占めます。
この地域は、主にピノ・ノワールを使用した赤ワインの生産地として知られており、多くの著名なグラン・クリュ(特級畑)が存在します。また、限られた量ですが、シャルドネを使った白ワインやスパークリングワイン「クレマン・ド・ブルゴーニュ」も生産されています。
地理と気候
1. 位置と地形
コート・ド・ニュイは、ブルゴーニュ地方の中心部に位置し、ディジョンの南からニュイ=サン=ジョルジュまでの約20kmにわたる丘陵地帯を指します。この地域は丘の斜面に広がるブドウ畑で有名で、適度な標高と日当たりの良さが、ピノ・ノワールの栽培に理想的な条件を提供しています。
2. 気候
気候は、冷涼な大陸性気候です。夏は比較的温暖ですが、冬は非常に寒く、春先の霜害や夏の雹(ひょう)がブドウ栽培に大きな影響を与えることがあります。この冷涼な気候は、ピノ・ノワールの果実に酸味と複雑さを与え、ワインに長期熟成可能な骨格をもたらします。
3. 土壌
コート・ド・ニュイの土壌は、主に石灰質を多く含む泥灰土(マルル)と、石灰岩で構成されています。この土壌は、ブドウ樹が深く根を張り、必要な栄養分とミネラルを吸収するのに適しています。また、石灰質の土壌がワインに独特のミネラル感と洗練された質感を与えます。
コート・ド・ニュイの村々
コート・ド・ニュイには、数多くの著名な村が点在しており、それぞれが独自の特徴を持つワインを生産しています。以下に主要な村を解説します。
1. ジュヴレ・シャンベルタン(Gevrey-Chambertin)
コート・ド・ニュイの最北部に位置し、「王のワイン」と称されるワインを生み出す村です。9つのグラン・クリュを有し、シャンベルタン(Chambertin)やシャンベルタン・クロ・ド・ベーズ(Chambertin Clos de Bèze)などが特に有名です。これらのワインは、力強さと複雑さを兼ね備え、長期熟成に耐えるポテンシャルを持っています。
2. モレ・サン・ドニ(Morey-Saint-Denis)
ジュヴレ・シャンベルタンの南に位置する村で、クロ・ド・タール(Clos de Tart)やクロ・サン・ドニ(Clos Saint-Denis)といったグラン・クリュを擁します。この村のワインは、ジュヴレ・シャンベルタンの力強さとシャンボール・ミュジニーの優雅さを併せ持つと言われています。
3. シャンボール・ミュジニー(Chambolle-Musigny)
コート・ド・ニュイの中でも最もエレガントで洗練されたワインを生む村です。ボンヌ・マール(Bonnes Mares)とミュジニー(Musigny)という2つのグラン・クリュを有し、特にミュジニーは赤・白ともに生産される稀有なグラン・クリュです。
4. ヴージョ(Vougeot)
この村には、グラン・クリュ「クロ・ヴージョ(Clos de Vougeot)」があります。クロ・ヴージョは50ha以上の広大な単一畑で、多くの生産者によって分割されており、その品質やスタイルにはばらつきがあります。ただし、優れた生産者によるクロ・ヴージョは、力強さと複雑さを兼ね備えた素晴らしいワインとなります。
5. ヴォーヌ・ロマネ(Vosne-Romanée)
ブルゴーニュの中でも「最も偉大なワイン」を生み出す村とされています。ロマネ・コンティ(Romanée-Conti)やラ・ターシュ(La Tâche)、リシュブール(Richebourg)といった世界最高峰のグラン・クリュを有し、これらのワインは圧倒的な芳香と深い味わいを誇ります。
6. ニュイ=サン=ジョルジュ(Nuits-Saint-Georges)
コート・ド・ニュイの南端に位置する村で、村名はコート・ド・ニュイ全体の名前の由来となっています。グラン・クリュはありませんが、優れたプルミエ・クリュ(一級畑)が数多く存在し、力強さとしっかりとした構造を持つワインが特徴です。
コート・ド・ニュイのワインの特徴
コート・ド・ニュイで生産されるワインは、その土地ごとの個性が際立っていますが、共通して以下のような特徴があります。
1. 芳醇な香り
ピノ・ノワール由来の赤系果実(チェリー、ラズベリー)の香りに加え、熟成によりスパイスやトリュフ、湿った土のニュアンスが現れます。
2. 繊細な酸と滑らかなタンニン
冷涼な気候が生み出す酸味がワインに爽やかさを与え、時間とともに滑らかになるタンニンが洗練された飲み口を実現します。
3. テロワールの反映
ブルゴーニュワインの特徴として、畑ごとの違いがワインに顕著に現れます。同じ村でも、グラン・クリュ、プルミエ・クリュ、村名ワイン(Village Wine)によってスタイルや複雑さが異なります。
4. 長期熟成のポテンシャル
コート・ド・ニュイのワインは、特にグラン・クリュや優れたプルミエ・クリュにおいて、10年から20年、それ以上の熟成ポテンシャルを持っています。熟成により果実味が穏やかになり、複雑な風味が現れます。
ワイン生産者と代表的なドメーヌ
コート・ド・ニュイには、多くの著名な生産者が存在します。以下にその一部を挙げます。
• ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)
世界で最も高価で希少なワインを生産する生産者で、ロマネ・コンティやラ・ターシュを手がけます。
• アルマン・ルソー(Armand Rousseau)
ジュヴレ・シャンベルタンを代表する生産者で、シャンベルタンやクロ・ド・ベーズのトップクラスのワインを生産します。
• ジャック=フレデリック・ミュニエ(Jacques-Frédéric Mugnier)
シャンボール・ミュジニーの名門で、ミュジニーを中心にエレガントなワインを生産します。
まとめ
コート・ド・ニュイは、世界でも最も評価の高い赤ワインを生み出す地域です。ピノ・ノワールという難しい品種を、冷涼な気候と独特の土壌を活かして育て上げ、複雑で繊細なワインを生産しています。村ごとの個性が明確で、グラン・クリュから村名ワインまで幅広い選択肢があることも魅力の一つです。長い歴史の中で培われた伝統とテロワールへの深い敬意が、コート・ド・ニュイのワインを唯一無二の存在にしています。