ワインソムリエ講座45/サンジョヴェーゼ
サンジョヴェーゼ(Sangiovese)は、イタリアを代表する赤ワイン用ブドウ品種で、特にトスカーナ地方での栽培が有名です。その名前は「ジュピターの血」(Sanguis Jovis)に由来し、古代ローマ時代から存在していたと考えられる長い歴史を持っています。本稿では、サンジョヴェーゼの起源、特徴、栽培条件、主要なワイン、地理的分布、醸造スタイル、ペアリング、そして現在のトレンドについて解説します。
1. 起源と歴史
サンジョヴェーゼの正確な起源は不明ですが、イタリア中部、特にトスカーナ地方がその発祥の地と考えられています。紀元前のエトルリア時代には既に栽培されていた可能性があり、その後ローマ帝国時代を通じて広がりました。
18世紀になると、「サンジョヴェーゼ」という名前が記録に登場します。当時は、現在ほど品質が高いと評価されていなかったものの、栽培の容易さと高収量から広く植えられるようになりました。近代に入ると、クオリティ向上を目指した栽培・醸造技術の改良により、サンジョヴェーゼの可能性が最大限に引き出され、今日の地位を築くに至りました。
2. サンジョヴェーゼの特徴
サンジョヴェーゼはその多様性が際立つ品種で、気候や土壌、醸造スタイルによって異なる特性を示します。
(1) 栽培特性
• 成熟の遅さ:サンジョヴェーゼは成熟に時間がかかる品種で、温暖な気候が必要です。
• 高い適応力:多様な土壌や環境に適応しますが、特に石灰質や粘土質の土壌で高品質なブドウを実らせます。
• 病害耐性:一部の病害に弱く、管理には注意が必要です。
(2) 味わいの特徴
• 酸味:高い酸が特徴で、爽やかでシャープな味わいを生み出します。
• タンニン:中程度から高いタンニンを持ち、長期熟成に向いています。
• アロマ:チェリー、プラム、ラズベリーなどの赤系果実の香りが支配的で、時間とともにタバコ、土、スパイスなどの複雑な香りが加わります。
3. サンジョヴェーゼの主要なクローン
サンジョヴェーゼは、地域や用途によって多くのクローンが存在します。代表的なものを以下に挙げます。
• サンジョヴェーゼ・グロッソ(Sangiovese Grosso)
主にトスカーナ地方で栽培され、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノやヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノに使用されます。
• サンジョヴェーゼ・ピッコロ(Sangiovese Piccolo)
粒が小さく、タンニンや酸がより集中している傾向があります。
• プルニョーロ・ジェンティーレ(Prugnolo Gentile)
ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノで使用されるサンジョヴェーゼの別名。
4. 地域と主要なワイン
サンジョヴェーゼは、イタリア全土で栽培されていますが、その中心地はトスカーナ地方です。以下に主要な地域とワインを紹介します。
(1) トスカーナ地方
• キアンティ(Chianti)
キアンティ・クラッシコを中心に、伝統的なサンジョヴェーゼの表現が楽しめます。通常は、フレッシュな赤系果実の香りとスパイス感が特徴です。
• ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ(Brunello di Montalcino)
長期熟成が可能なフルボディワイン。高い酸とタンニン、熟成による複雑な風味が魅力です。
• ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノ(Vino Nobile di Montepulciano)
プルニョーロ・ジェンティーレを主体とし、滑らかな味わいが特徴のエレガントなワイン。
(2) その他の地域
• エミリア=ロマーニャ
地元料理に合う、軽快で親しみやすいサンジョヴェーゼが生産されます。
• ウンブリア
モンテファルコ・ロッソなどで、サンジョヴェーゼが補助的に使用されることもあります。
• マルケ
ロッソ・コーネロやロッソ・ピチェーノでは、サンジョヴェーゼが重要な役割を果たします。
5. 醸造スタイルと技術
サンジョヴェーゼの多様性は、醸造スタイルの幅広さにも表れます。
(1) 伝統的な醸造
• 大樽(ボッティ)を使用し、ブドウ本来の特徴を引き出すスタイル。
• 樽香が控えめで、果実味と酸が際立つ。
(2) 現代的な醸造
• バリック(小樽)を使用して熟成。
• 樽由来のバニラやスモーキーな香りが加わり、より複雑な味わいを目指します。
(3) その他の技術
• マセラシオン期間の調整:タンニンや色調をコントロール。
• 熟成期間の多様性:フレッシュなものから長期熟成型まで多岐にわたる。
6. 食事とのペアリング
サンジョヴェーゼは、その高い酸と中程度から強いタンニンにより、幅広い料理と合わせやすいです。
• トスカーナ料理
ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ、トスカーナ風リブローストなど、肉料理が最適。
• トマトベースの料理
ピッツァやラザニアなどのトマトソースを使った料理と好相性。
• チーズ
ペコリーノ・トスカーノのような塩味のある硬質チーズ。
7. 現代のトレンドとサンジョヴェーゼの未来
近年、サンジョヴェーゼの栽培や醸造において、品質向上を目指す努力が続けられています。特に以下の点に注目が集まっています。
• サステナビリティ
オーガニックやビオディナミ栽培の導入が進んでいます。
• シングルヴィンヤードワイン
畑ごとの個性を反映した限定生産のワインが注目されています。
• 国際的評価の向上
イタリア国外でも高評価を受けるプレミアムサンジョヴェーゼが増加中です。
まとめ
サンジョヴェーゼは、イタリアワインのアイデンティティを象徴するブドウ品種であり、その多様性と可能性は計り知れません。伝統を守りながらも革新を続ける生産者たちによって、サンジョヴェーゼはこれからも世界中のワイン愛好家を魅了し続けるでしょう。