小説・「塔とパイン」 #04
おもむろに食洗機からマイ・マグカップを取り出した。カップはまだ、暖かく水滴がいくつもついている。白い布巾を使って拭き取る。
実はこの作業、好きだったりするが、同時に面倒くさいとも感じる。ただマグカップを拭いているだけなのに、正の感情と負の感情が交錯する自分がちょっと嫌だなぁと感じることもある。
「さて、と。」
誰に聞かせるわけでもない、聞いて欲しいわけでもない一言を吐いて、わずかばかりの気合を入れて、コーヒーマシーンにマグカップをセットした。
コーヒーはよく飲む。毎日飲む。ブラックで。混ぜ物はあまり好きではない。ミルクを入れると、コーヒーとは別の味が口腔に広がるのが嫌だ。砂糖はカロリーを気にして。
「そんなにコーヒーばっかり飲んで、胃に悪いよ」
よく、言われたし、今でも言われる。時々、胃が痛くなることもあるけれど、健康診断を受けても胃に異常は見つからない。だから大丈夫だ。と勝手に思っている。
コーヒーが好きだから、この業界に身を置いたというのもある。甘いコーヒーは好きではないけれど、黒くて深くて苦いコーヒーを啜りながら、甘味を頬張る。自分でもそれが好きだし、お客さんが同じようにコーヒーと甘味を嗜んでもらえるのをイメージすると、仕事にもハリが出るんだ。
「そろそろ、かな」
マシーンにセットしたマグカップに、コーヒーが注がれていく。
そして、期待と満足度が心の中で上がっていく。
この瞬間も。
できた!
コーヒーは熱いうちに飲む。これがマイルール。
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