小説・「塔とパイン」 #02
ドイツの冬は厳しい。
南国とまではいかないが、日本でも比較的温暖な気候で育ってきたから、雪がちらつくような寒い時期は苦手だ。
11月に入ってから雪がちらつくんじゃないかと思うような冷え込みを幾度も経験して、陰鬱な気分になったのは言うまでもない。
「そうなんだよなぁ・・・」
子供の頃はそれでも比較的人口の多い街で、自然はそれほど多く無かったけども、町中が遊び場だったし、寒さなんか全然気にして無かった。
「風邪ひくから、ちゃんと上着を着なさい!」
なんて母から叱責を受けても、全然聞いてなかったから、後でこっぴどく叱られた。
それでも、風邪ひいた記憶がない。
あの頃はなんでもできた、何も怖く無かった気がする。
「いや、雷の音だけが、とても怖かったな」
2本目のタバコの火が消えた。もう時間だ。灰皿はここにはないから、自分で始末をつけないと。携帯用のマイ灰皿に消し済みのタバコをグニグニと突っ込んで、内ポケットにしまった。
珍しく、今の従業員でタバコを吸うのは自分だけだ。
街では咬えタバコの紳士淑女もいるし、至る所に灰皿もある。だけどゴミゴミしているのは、吸い殻が散らばってるからか。
生地を練るこの手も、まだ暖房の効いてない部屋で作業するのは厳しい。
また仕事に戻るしかない。
従業員専用の裏口ドアから、仕事場に入ったとき、どこか遠くで季節外れの遠雷が聞こえたような気がした。
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