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小説・「塔とパイン」 #14
昼休憩のささやかなひとときを終えてまた仕事場に戻る。「Konditorei Weise」は焼き菓子もさることながらケーキも焼いている。
工場で一貫生産することもできるようになっているが、この店のこだわりで、職人がひとつひとつ丁寧に作ることを心がけている。伝統を重んじてここまで来た自負もあるのだろう。
店舗を増やしてもいいし、多角的な経営をしても良かったはずだけど、この店はそういうのに興味はないらしい。
味で勝負!
とは言わない。
だけど何処か日本っぽいところを感じる。雰囲気もそう。だから、この店で働かせてもらっている、留まっている理由の一つだ。
宣伝もあまり得意ではない。看板も古ぼけたものをそのまま使い続けている。口コミと佇まいと、焼き菓子の甘い香りだけがPRの材料なんじゃないだろうか。それくらい、宣伝しない。広告だって見たことない。
「あ、さっきの女性、ウチの店に来て貰えばよかった」
旅行者を名乗った女性に道を聞かれて、案内してあげたのはよかったし、急いでいたようにも見えたから「いいことしたな」で満足してしまった。
商魂逞しい人なら、道案内のついでに「いや、わたし、実はお店に勤めてるんですよ。Konditorei Weiseっていうお店。ここら辺じゃ少し有名なんですよ。わたしもちょうど戻るところだったから、よかったら、ご一緒にいかがです?」なんていうこともできた。
もとより、自分の性格を考えたら、そんな申し出が口からサラサラと出るわけもない。売り上げに貢献しようというわけじゃなく、ウチの店のお菓子を食べてもらえればいい、そんな程度。
お店もそんなスタンスだから、僕もわざわざ案内することもないかな。いや、単純に頭に浮かばなかっただけだ。「自分らしいな」とこっそり呟いた。
仕事場、工房に戻る。
昼からもまた生地作りに精を出す。
生地を作るだけが仕事じゃないのだが、今日は生地作りで終わりそうな予感がする。ステファンが忙しそうに工房を駆け回っている。
いつもの光景
天窓から光が差し込んで、工房の作業台にならぶ器具がキラキラと輝いて見えた。希望の光のように。
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