#1. 最愛 【虹の彼方に】
2020年9月25日 午後15時06分
最愛の妻が懸命の闘病の末、空に旅立ってしまった。
癌だと発覚してから、たったの3ヶ月だった。
出逢ってから約4年、入籍をして1年と3ヶ月弱、結婚式を挙げてからわずか10ヶ月目のことだった。
妻の最期のその瞬間まで、ボクは彼女の手をずっとずっと握り続けていた。
世間一般的にいえばあまりにも短すぎる彼女の人生だった。
彼女はいつも強く想い描いていた・・・
たくさんの夢や希望に満ちた幸せな未来を・・・
それら道半ばで旅立ってしまった彼女を想えば想うほど、巨大な悲しみが暗雲のようにボクの心に覆い被さってきて、じわりじわりと強く全身を締め付けてくる。
なんでオレじゃなかったんだ?
どうして彼女なんだ?
彼女はまだまだたくさんの人に、愛を与え続ける役割の人なのに・・・
代われるものなら本当に代わってあげたかった・・・
絶対に助けてあげると約束したのに守れなかった・・・
そんな罪悪感にも似た感情が、いつも鋭く喉元に突きつけられている。
彼女が空に旅立ってから、一日だって、一時間だって、一分一秒だって忘れた事はない。
容赦無く襲いかかってくる強烈な喪失感と虚無感に・・・
少しでも気を抜けば自身に刃を向けそうになるのを必死で堪えている・・・
生きていくために必要なモチベーションを保つためには、きっと相応の燃料が必要で、ボクにとってはそれが最愛の妻であり、ボクたち家族の存在だった。
その燃料が今の自分にとっては残された愛犬ワンキチとウサギのちくわ、そして「彼女に対して恥ずかしくない生活を送らなければいけない」という少し強引な義務感に代わり、どうにかこうにか自分を保っていた。
せっかく「底辺」から掬い上げてもらった人生なのだから、ちゃんと生活を送らないと彼女に叱られる・・・
そう思い込むことで、強引に自我を保って日々の生活を送っているのだ。
でもその均衡はいつ崩れてもおかしくないくらいに脆く拮抗していて、いつ何どきも容赦なく襲いかかってくる苛烈で深い悲しみから少しでも心を解放しないと、きっとボク自身が早々に壊れてしまう。
深い悲しみから必死で踏ん張る気持ちとは裏腹に、徐々に生活は荒れはじめ、やがて感情のコントロールができなくなってきた。
とにかくこの気持ちを外に吐き出さないと・・・
だからボクは彼女との貴重な生活を文字に起こすことにした。
アウトプットすることで何かが変わるような気がした。
彼女という素敵な存在がそこにいたという証を残そう・・・
そう思った。
そうすることでまた誰かの心に少しでも刺さったり、誰かの人生の好転に役立つきっかけになれば嬉しく思う。
そう、ボクが彼女に人生を大きく変えてもらえたように・・・
そしていつも誰かの「幸せ」を願っていた彼女も、きっと喜んでくれると思うから・・・
綴ってゆくに当たって、まずボクたち家族の紹介をしておこう。
ボクは通称「ジョニー」
そんなあだ名だが、ただのブサイクなオッサンである。
彼女はボクの事を「ジョニーさん」と呼んでいた。
これを書いている今現在は47歳だ。
ボクという人間については、良くも悪くも追々記していく事になる。
最愛の妻「愛子」
ボクは「あいぽん」と呼んでいた。
享年43歳。
ボクがいうのもアレだが、とても美人でスタイルも良く、いつも笑顔を絶やさない太陽のような女性だ。
ほとんど化粧もせず、いつもほぼスッピンで生活するひとだった。
とにかく仕事が好きで、携帯電話を常時3台持ち歩き、スケジュールを詰め込み過ぎては時間に追われ、いつも走り回っているイメージ。
低血糖体質の大食いで、いつも食べ物を持ち歩き、時間に追われてるから移動しながら食べるという特技?を持っていた。
世間体や体裁、人の目をあまり気にしないタイプで、何かに流されることのない強い女性だった。
長男「ワンキチ」
0歳で保護犬だったワンキチを彼女がお迎えしてからもうすぐ13歳になる、ボクたちにとっては息子同然の愛犬だ。
ジャックラッセルテリアの見た目だけど、ミックスな気もするが詳細はわからない。
虐待によって左前脚の先端が欠損しているが、日常生活に支障もなく、元気に走り回っている。
彼女の育て方が良かったせいかとても利口で頭が良く、人の話す言葉をある程度理解しているように思う。
可愛らしいルックスと仕草で、近所にファンがたくさんいる人気者だ。
ゴハンと女性が大好き。
次男「ちくわ」
3歳の保護ウサギの男の子だ。
引越しで飼えなくなってしまったという前の飼い主をネット掲示板で見つけて、当時一人暮らしだったボクが譲り受けた。
お迎えした当初はとても臆病な子だったのだが、彼女と結婚をして一緒に住むようになってから、かなりたくましくなってきた。
ワンキチ同様に女性が大好きで、ボクには未だに抱っこさせてくれないが、女性だと簡単に抱っこさせる。
名前の由来は「ワンキチ・・・ちくわ・・・ワンキチ!永遠にしりとりできるやん!ちくわにしよう!」っという彼女の発想で決まった。
そんなボクたち家族の「過去」「出逢い」「結婚」そして「別れ」までを不定期に綴ってゆこうと思う。