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「トライアングルストラテジー」が地味ゲー止まりな理由

「HD-2D表現」とオーケストラ楽器による生音BGMを使用した、美しい情景描写のドット絵ゲームシリーズの続編である。前作とは異なり、ジャンルがSRPGとなった。

 SRPGの限界を追求した素晴らしいゲームであると断言する。

 が、昨今俺たちがゲームに求めているもの……「爽快さ」「気軽さ」「ハッピーさ」「オンライン対戦」……などとは対極にあるのがSRPGというジャンルだ。何しろ、駒ひとつひとつにパラメータが与えられた将棋である。
 翌日が休みの深夜にコーヒーを飲みながら、しっぽりとやりたいゲームというわけだ。 俺たちが一般的にゲームに求めるものと、このゲームジャンルが与えてくれるものは、剥離している。
 唯一、現代人のニーズと一致しているのは「キャラ推し可能」なことくらいだろうか(ちなみに、そこを計略的に突いて売れたゲームがFE風花雪月だと思っている)。

「最高のオッサン」「良すぎるおばさん」「たまらんジジイ」などが目白押し

 繰り返しになるが、SRPGの限界を追求した素晴らしいゲームである。逆に意地の悪い言い方をすれば、SRPGはここが限界かもしれない。

シナリオ

 シナリオは凝っている。群像戦記もので、硬派オブ硬派。これ以上硬派というのも、なかなか無い。
 前作オクトパストラベラーで唯一、無条件に太鼓判を押せなかった点がシナリオだ。今作では、異様なほどに力が入っている。

どの選択肢を選んだらよいのか全くわからない。いや、正確には……
どの選択肢にも、「良さ」と「地雷っぽさ」がある。

 タイトル通り、主人公がトライアングル(3つの立場)から物事をとらえようとする場面が何度も何度も訪れる。
 3つの選択肢を突きつけられたプレイヤーに「みんな違ってみんないい」は許されない。常にいずれかの立場を取らなければならないが「Aが正しくCが過ち」という分かりやすい正誤も無い。
 ゆえに、プレイヤー自身の信念――「好み」を鋭く尖らせて研ぎ澄ましたもの――をもって選択するしかなく、あとになって「やべ~これじゃなかったかも」という思いがよぎったとしても、パワハラ上司の如く「これでいいんだよ!!」と自分に言い聞かせてシナリオを読み進めるのだ。

 このへんも、すばらしい作りではあるが、私たちがゲームに求めているものと剥離している。だってこんなん現実と同じではないか。現実と同じ苦しさを、ゲームでも味わわせるのはやめてくれ。

 登場人物一人ひとりが、もはや執念を感じるほどバカ丁寧にキャラ付けされていることも、問題に拍車をかけている。
 先ほど「プレイヤーが3つの選択肢から選ぶ」というようなことを述べたが、実は、物語の進行上特に重要な選択肢についてはプレイヤーが直接選ぶことはできない。仲間キャラクター(NPC)の投票によって多数決で選択されるのだ。

キャラクターの立場と言動に矛盾が無いよう、徹底的にキャラ付けされている

 王子の親衛隊士は、少しでも王子の身に危険が及びそうな選択肢はとってくれない。主人公の妻は被差別民族を出自としており、弱き者を虐げる選択肢には敏感だ。プレイヤーの思い通りに選択をするためには、これらのキャラクターを言葉巧みに説得し、思い通りの選択肢を選ばせる必要がある。

 最近力をつけてきた、当該ゲーム開発陣「浅野チーム」のブランド力(ぢから)を、惜しげもなく生かして起用した、ありえねーほど豪華な声優陣の迫真の演技も忘れてはならない。HD-2Dが描くキャラクターは、どうしても表情に乏しくなる。そんな彼らに命を吹き込むのは、声優の声ひとつなのだ。だからきっと、開発チームは意地でも声を当てたかったのだろう。どのような選択肢を選ぼうとシナリオ進行中は全てフルボイスという事実に、善し悪しを超えてもはや狂気すら覚える(褒め言葉)。

ゲーム性

 一方SRPGパートでは、仲間は死んでも死なないので安心して欲しい(仲間キャラはロストしない)。ただその代償として「ハイハイ、このゲーム仲間死んでも大丈夫だからね~」とでも言いたげな難易度を押し付けられる。プライドが許すならいつでも「EASY」モードにすることができるが、このゲームを購入するプレイヤーはヒルズ街の如き高いプライドを持っているだろうから、高難易度は揺るがないだろう。敵は耐久値の低い味方を集中砲火して落としに来るし、「圧倒的に強力な味方ユニット」はおらず、スパロボのチート兵器みたいなもので敵をなぎ払うことはできない。

 そのほか珍しい点としては「味方のフェイズ/敵のフェイズ」というものが存在しない。全てのキャラクターは素早さのパラメータに従い順番に、敵味方入り乱れて行動していく。またMPのようなものは存在せず、毎ターン1ずつ補充されていく「技ポイント」のようなものを使用して技を繰り出すこととなる。消費1の技は毎ターン使えるが、強力な技は3、4とポイントを消費するためクールタイムが要る。このへんのプレイ感は不思議と、ジャンルの異なる前作によく似ている。
 まあ、このあたりの目新しい要素はごく瑣末なものだ。基本的にはグラフィックとBGMを美麗にし、バランスを極限まで調整した普通のSRPGである。

 本当に素晴らしいゲームだが、ゲーム市場を訪れる人がこのようなものを求めている率が低そうなのがとにかく惜しまれる。「鬼コスパのラーメン」が求められる現世で、「極上の蕎麦」を提供している。
 せめて自分だけは極上の蕎麦を味わい尽くしたい。違いのわかる人間でありたい。そう思う人が手に取るべきゲーム、ということになるだろうか。

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