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秋ピリカグランプリ応募作品

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2024年・秋ピリカグランプリ応募作品マガジンです。
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#紙飛行機

【秋ピリカグランプリ】飛ばないくしゃくしゃ紙飛行機

お題:紙  母が亡くなった。  約三ヶ月前に末期癌と余命を宣告され、母はその残り少ない時間を目一杯謳歌し、笑顔で亡くなった。我が母ながらその胆力には驚かされたものだ。  そして諸手続きが終わり、喧騒が一段落した清秋。私は実家へと戻ってきた。兄は東京で家庭を持っているし、父は幼い頃から顔も知らない。祖父母はとうに亡くなっていて、東京で夢破れた私以外にこの生まれ育った実家を守る者がいなかったのだ、仕方がない。 「ありがとうございましたー」  昨今の静音性とは真逆のエンジン音

短編小説「約束の紙飛行機」

 静寂と夕焼けの光に包まれた放課後の教室で、僕は黙々と紙飛行機を折っていた。 「またやってるの?」 そこには同じクラスの夏美が立っていた。気だるそうにこちらを見ている。 「うん。これが落ち着くんだよね」僕は出来上がった紙飛行機を彼女に渡した。 「紙飛行機って意外と奥が深いんだ。ほら、折り方一つで飛び方も変わるし」 夏美は紙飛行機に目をやり、静かに放った。それは一瞬宙を舞い、そして、力無く落ちた。 「イマイチね」肩をすくめてそう言った彼女は、僕の机に近づき作りかけの紙飛行機を眺

『解答用紙のヒコーキ』#秋ピリカグランプリ2024

飛行機が空を滑ってゆく 身体を透過する 肉体の質感がかるくなって 水平線の向こうがみえてくる (おかあさん、こどものころ、みたかったけしきは、こんないろじゃなかった、こんなかたちじゃなかった、こんなあじじゃなかった、ずーむいんしすぎた、ああ、ずーむいんしすぎてしまった、こうえんの、ばっくぐらうんど、おとなのひみつのそうだん、かがやかしいゆうえんちの、うらがわのくらがり、ひとみにあてたゆびとゆびのすきまから、かいまみえたもの、よみせのへいてんまぎわ、そーすがこげたにおい、ばん

青き空にとぶものは【#秋ピリカグランプリ2024】

「ばっちゃ。ねえ、ばっちゃ! 見てて!」 はいはい、とベンチから頷いてみせる。 ぷくりとした頬っぺたを引き締め、マサキが大きく振りかぶった。勢いだけは立派だが、5歳の幼児が投げた紙飛行機はふらふらと飛び惑い、あえなく地面に落ちる。 「しょぼっ!」 兄のユキトが笑うや、手首をぐねりとしならせて自分の紙飛行機を放った。 6つの歳の差は大きい。風を掴んだ紙飛行機はつうぅと宙を滑り、遠く離れた芝生の上に音もなく着陸した。 「マサキの飛行機、全然飛ばねえじゃん。投げんのヘタ過ぎ

紙飛行機屋

 「へい、らっしゃい。ご注文は?   豚骨ラーメンと紙飛行機ね」  このラーメン屋のラーメンはまずい。だが、己の罪を書いて紙飛行機を飛ばすと、愛となって許されると評判なのだ。  「はい、紙ね。ペンは持ってる?ラーメンはちょっと待ってな」  客の男性は紙とペンをもらうなり、紙に勢いよく書き始めた。客が何を書くか、店主は見ない。  「書き終わったら、裏の公園で飛ばしてきな。コツ教えちゃる」  客の男性は覚束ない手つきで紙飛行機を折っていく。  「紙飛行機は風を受けて上