冴えない表情のワケ
ーオレとアチキの西方漫遊記(25)
水底まで透けて見える青く美しい"仁淀ブルー"。そのルーツとされる面河渓(おもごけい、愛媛県久万高原町)を満喫し、いよいよここともお別れだ。ただ、それほど後ろ髪を引かれる思いはない。というのも、この先、いつか再び訪れ、川遊びする予感めいたものがあるためだ。クルマのアクセルを踏み、月の名所として名高く、坂本龍馬が郷里で最も愛したという桂浜(高知県高知市)に向かう。一方、助手席に陣取る奥さん。走るクルマの中、表情がどこか冴えない。
前回のお話:「小さき黒の"救世主"」/これまでのお話:「INDEX」
教訓
"女心と秋の空"とはよく言ったものだ。サンショウウオらしき生き物を見つけて興奮し、面河渓の遊歩道に咲く草花をスマートフォンで撮りながらルンルン気分で駐車場まで戻ってきたと思ったら、今度はいきなり浮かぬ表情。何が何だか分からない。"触らぬ神に祟りなし"というたとえに従い、放置を決め込んでいたら、奥さんは溜め息混じりにつぶやく:
「お腹すいた」
確かに、この日の朝早くに民宿で朝食を取って以降、飲み物を口にした以外は何も食べていない。当初、面河渓の遊歩道の入り口にある食事処で、アマゴ料理を食べる計画だったが、ちょうど定休日だったため、そのまま遊歩道に向かったことを思い出す。川遊びの場所探しに懸命になっており、すっかり記憶から抜け落ちていた。手痛いミスである。
食い物の恨みは恐ろしい。空腹を紛らわすため、奥さんにいろいろ話を投げかけてみたが、実に素っ気ない対応が続く。その後、クマなど肉食系の動物は獲物が激減する冬になると、体力を温存するため冬眠することを思い出し、しばらく黙っていたら、奥さんは本当に船を漕ぎ出したので驚いた。今後、一緒に旅行するときの良い教訓だ。
自信
途中、道の駅に立ち寄り、奥さんはアイスクリームを食べ、幾らか機嫌を取り戻す奥さん。桂浜近くに予約した民宿は「かつお堪能!タタキてんこもり!」というボリューム満点の特別な夕食が付くプランだったので、この後、奥さんが夕食を存分に堪能できるかが気になった。奥さんにそれを問うと、自信ありげにニヤリとするばかり:
ただ、この自信によってとんだ事態に巻き込まれる。(続く)
(写真〈上から順に〉:食べられずじまいだったアマゴ料理=写真ACを基にりす作成、面河渓の遊歩道にはさまざま草花が育つ=奥さん、奥さんの機嫌を直した高知アイス〈最中〉=奥さんの画像を基にりす作成)