"現場百遍"
ーオレとアチキの西方漫遊記(23)
面河渓(おもごけい、愛媛県久万高原町)で"仁淀ブルー"を満喫するー。その思いを叶えるのに黄信号が点いていた。渓流に沿って上流に向かう遊歩道では、終点の虎が滝に着くまでに、川遊びできる場所を見つけられなかった。さらに虎が滝から先に行くには、装備が不十分でこれ以上進めない。打開策を見つけるか、それとも諦めて引き返すか。虎が滝の手前にある四阿(休憩所)まで戻って知恵を絞る。これまで撮り溜めたスマートフォンの写真を見てニヤニヤしている奥さんを尻目に、虎が滝までもう一度歩き、周辺をくまなく観察。困ったときの"現場百遍"は、事件捜査だけに通じる言葉ではない。そして、その突破口を見つける。
前回のお話:「このまま終われない」/これまでのお話:「INDEX」
雲泥の差
遊歩道に立ち止まって虎が滝のある上流方向をじっくり見ると、滝の手前に崖がせり出しており、さらにその崖の手前がちょっとした渕になっている。渕に向かう斜面は、これまで見た下熊渕、上熊渕に比べて緩やかで、木々や雑草などの障害物が少ない。降る難易度は雲泥の差だ。しかも一部は舗装されている。土砂崩れを防ぐためだろう。
これはイケる。さすがに両手が塞がっているままでは危ないので、荷物の一つを奥さんに預け、試しに渕の際付近まで降りてみる。大丈夫そうだ。窪みを探し、そこにいったん荷物を置く。それから、少し戻って奥さんが両手に持っていた荷物を受け取り、その後に奥さんを窪みに迎え入れた。ここまで来れば、川遊び開始までカウントダウンだ。
遊歩道で見かけた鳥居のことが一瞬頭を過ぎり、ここで川遊びするのは禁忌に触れる気がしたが、それは敢えて無視する。エントリーしやすい地形を見る限り、今でこそ誰もいないが、盛夏にはきっと多くの人が泳いだだろう。斜面を滑る要領で水面まで降りて慎重に足を入れる。見た目は浅く感じるが、予想通りそこそこ深い。
意外な姿
マスクとシュノーケルを付け、今度は水中から眺める。奥に行くほど深いのは当然にしても、最奥はかなり深く、水深2m以上ありそうだ。そして、これも当然ながら、とにかく水が冷たい。こうした情報を奥さんに伝えると、奥さんは恐る恐る水に入ってきた。いつもの奥さんからはとても想像できないほど慎重だ。もっとも、ケガをするよりは余程この方が良い。
結局、このときは奥さん。水面に漂う"溺死体ごっこ"はおろか、髪の毛を濡らしさえしなかった。後日、その理由を聞くと、「この後、いつお風呂に入れるか分からなかったのが大きいかな」と、十分に気持ちを整理しきれていない様子で答える。少なくとも、きれいにしておきたい女性としての意識が、川遊びの魅力を上回ったようだ。
意外すぎて、今だにこの言葉を信じていない。
(写真〈上から順に〉:虎が滝の手前にある渕に浮かぶ影。マスクとシュノーケルを付けている=りす、上流に向かって右手の斜面は降りやすそうに見える=りす、水深2m以上ありそうな渕の最奥部=りす)
関連リンク(前回の話):
「オレとアチキの西方漫遊記」シリーズ:
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