面倒な人たち
ーオレとアチキの西方漫遊記(17)
安居渓谷(高知県仁淀川町)にある水晶淵。その先にある人っ子一人いない砂防ダムで泳ぎ、「仁淀ブルー」を満喫したわが夫婦。岩場に上がって帰り支度を始めようとするも、奥さんにそうする気配がない。見たところ、冷たい水と風のせいか、奥さんの顔面は蒼白、唇も紫色。おまけに足は疲れで"ガクブル"気味で、あらためて川遊びできる状態にはない。にもかかわらず、水晶淵で泳ぐと言って譲らない。
前回のお話:「身体の異変と"不思議ちゃん"」/これまでのお話:「INDEX」
大きな子ども
「水晶淵で浮きたい。それがここに来た目的だもの」ー。帰り支度を促すと、奥さんは首を横に振ってこう言う。この淵で入水自殺したい人の言葉みたいだ。いぶかしさを感じ、首を傾げる。ただ常日頃から奥さんは妙な言葉の使い方をする。そこで、あらためて解釈を考えた。
きっと水晶淵で身体の力を抜いて水面を漂う"溺死体ごっこ"がしたいのだろう。淵の方を見やると、少し前に比べて観光客が増えている。あの中でもやるのかと奥さんに尋ねると、今度は迷いなく首を縦に振った。まったく大きな子どもだ。今回の旅行は奥さんが主役とはいえ、実に手がかかる。
漫画『名探偵コナン』に「見た目は子ども、頭脳は大人」というお馴染みのキャッチフレーズがある。想像し、面倒臭いガキだなと感じた。ただ、奥さんのように「見た目は大人、頭脳は子ども」も、かなり厄介だ:「人は成長に伴い、見た目も頭脳も大人になってもらうことが面倒がなくて良い」
期せずして、自分がよく言われる言葉の意味を知った。
予想通り
観光客の視線をもろともせず、奥さんはよりによって水晶淵の真ん中に浮かんだ。目を閉じ、ただ漂っている。溺死体ごっこどころか、溺死体そのものに見え、場違い感が半端ない。ちょっと不気味である一方、周囲を気にせず満喫している奥さんを誇らしく感じるのは意外だ。
ここで終われば、何事もなく良かったねで済むところなのだが、そうならないのが奥さんだ。水面に浮くのに飽き、浅瀬で手渡したスマートフォンで水面などを撮り始めたのだが、これまで溜めた疲労のせいか、足に力が入らず派手に転ぶ。こちらは予想通りの展開。
うつ伏せに勢いよく倒れ込む中、懸命にスマホが水に浸からないようにしたことに呆れた。大きなケガがないことを確認。それに安心したのか、「痛いー」と、ちょっと遅れて泣きそうになる奥さん。ただ、スマホが無事だったことを知ると、今度は一転、満面の笑み。もう実に面倒臭い。
奥さんに手を貸し、身体を引き起こす。周囲を見渡すと、近くに先ほど防水ダムで出会った一人旅らしき男性がいた。良かれと思って写真を撮ってあげたのに、連写モードで撮影してしまったことに"プチギレ"した通称"不思議ちゃん(※)"だ。われわれ夫婦が防水ダムを撤収したのについてきたらしい。
世の中、実に面倒な人だらけだ。(続く)
(写真〈上から順に〉:水晶淵に浮かぶ落ち葉=りす、「名探偵コナン」の主人公・江戸川コナン〈左〉が持つ工藤新一の顔=ラフアニメ!、奥さんのお気に入りプレイ"溺死体ごっこ"=写真ACの素材などを基にりす作成)
関連リンク(前回の話):
「オレとアチキの西方漫遊記」シリーズ:
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