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5mで切る必要はない。巨木の景観を活かした「大きな木のある公民館」を

その木は、畑のわきにポツンと生えた「名もなき木」でした。1970年代、木の近くに住宅団地が建設され、多くの子どもたちがこの「丸い木」の横を通って小学校に通いました。私もその一人でした。

その後、過疎化が進み、卒業生の多くは地元を離れていきました。私も離れていました。

小学校は2015年に廃校になりました。
でも、木だけはどんどん大きくなり、道路に枝がはみ出るほどの、見事な大木になっていきました。いつの間にか、町内最大、県内でも有数の樹冠(枝張り28m)をもつ、立派なセンダンの巨木に成長していたのです。

2022年、その隣に公民館が移設されることに決まりました。木の周囲には、広い畑と湿地がありましたが、行政は「名もなき木」を伐採し、広大な駐車場と公民館をつくる計画を立てました。

私が故郷にUターンしたのは、そんな時でした(→5/23過去記事)。

「あの木は切る木ではないです」

郷土景観の中心となるランドマークで、田布施町の名木46選に選ばれ、環境省の巨樹・巨木林データベースにも登録される巨樹です。地元の人たちが毎日眺めてきた思い入れも詰まっています。シンボル的存在の「大きな木」を残して公民館に活かせば、木陰で人が憩い、市場もできるし、子どもたちも遊べる。最高の公民館ができるではないですか?!

千葉の大学で造園設計を専攻し、東京の出版社で『ランドケープデザイン』の雑誌編集を務め、樹木図鑑作家として国内外の木をたくさん見てきた私は、目の前で起きている不合理な伐採計画を見過ごすわけにはいきません。

伐採を決めた町長さん、副町長さん、公民館長さん、文化財審議会委員さん、町議さん、自治会長さん、地域団体の代表者さんらに直接会い、このセンダンの価値を説明して回りました。
「そんなに価値のある木なら残そう」
と言ってくれた方々もいますが、残すことに反対する意見の人も多くて驚きました。

「邪魔だから仕方ない」
「高齢化で大変なのに、誰が管理するのか?」
「台風で枝が折れて事故が起きたら責任取れるのか?」
「毒の実がつくらしいが、もし子供が食べたらどうする?」
「公民館は避難所だから木はいらない」
「木のせいで建設が遅れたらどうするんだ?」
「木を残してもこんな田舎には誰も集まらない」
「もう決まったことだから」

どうしてそんなにネガティブでマイナス思考になってしまうのか、僕には理解できません。でも、こうした意見を言うのは、大半が60代以上の男性でした。(もちろん、残してほしいという人も、どっちでもいいという人もいます)

私の周囲で、地元の若い世代や女性、普通の住民に意見を聞くと、過半数の人はセンダンを残した方がいいと言います。実際に、センダンに隣接する住宅団地の自治会が行った住民アンケートでも、3分の2の人がセンダンを「残す」と回答しています(下記)。

見田団地自治会で行われたアンケート結果の報告(2023月10月配布の回覧板より)

ところが、こうした若い世代や女性、一般市民の意見を、公民館計画に取り入れる仕組みがなかったのです。計画は、議事録もない非公開の会合や、行政の指名する特定団体だけで話し合われ、決まってから公表されるのです。

こんなやり方はおかしい!
と私は訴えましたが、「この町はそんなものだよ」と、何人もの人に言われました。私は何度も役場に行きましたが、意見は受け入れてもらえず、疲れるし、関係が悪くなりそうです。景観の保全を義務づける「美しいまちづくり推進条例」もありますが、町の職員さんは「それとこれとは関係ない」と平然と言われてしまいます。話が通じないから、住民はあきらめていくのでしょうか・・・

故郷に感じていた愛着が、切られる木とともに、消えていきそうです。
なぜ、地域を良くするはずの公民館を、地域の財産と景観を壊してつくるのでしょう?

赤線が麻里府公民館建設のために田布施町が購入した敷地。当初計画では、環境保全と温暖化の時代に逆行し、センダン巨木を伐採し、全面舗装の広い駐車場が計画されていた。私たちの呼びかけにより、現在はセンダンの一部を残す方向で検討されている(おかゆらんどTV「麻里府のセンダン今日」YouTube動画に林将之が書き加えて簡略的に作成)

これまで、私や住民グループ「センダンの会」の呼びかけで、完全伐採はまぬがれることができました。しかしその後、田布施町は幹を高さ2mで切る案を示しました(→10/19過去記事)。

それに対し多くの批判が集まると、今度は6mで切る案が説明会で示されました。ただでさえ、周囲が埋め立てられ、根も大きく切られるので、2mにしろ6mにしろ、幹を大きく切れば枯れるリスクも高まります。広い土地に伸び伸び生えた雄大な巨木を、なぜ、わざわざ狭い庭木のように小さくする必要があるのでしょう?

左:現在のセンダン 右:町が想定していると思われる管理イメージ(林将之作成)

私たちセンダンの会は、専門的見地から樹木医3名の助言も仰いだ上で、枯死のリスクや管理の手間を考慮しても、樹高15mのまま残し、建物の邪魔になる横枝のみ切る方法が最善として、2023年11月末に、具体的な図面をつけて要望書を町に提出しました。前回12/4の記事で書いたのはここまでです。

その後、12月下旬、田布施町は、麻里府のセンダン巨木を高さ5〜6mで切る方針を町議会で発表し、2023年12月24日付の中国新聞に記事が出ました。15mのまま残す私たちの要望は、採用されなかったのです。

出典:2023年12月24日 中国新聞

センダンの巨樹、高さ5~6メートルで残し保存へ 田布施町、公民館は位置ずらし建設(2023年12月24日 中国新聞)

記事内では、「誰も喜ばない」という私のコメントが出ています。補足すると、木を残してくれる判断はとても嬉しいし、感謝しています。でも、私たちは「美しい巨木とその景観」を残したいとお願いしているのに、町は幹を高さ5〜6mで切り(横枝もばっさり切る想定)、その後も高さ5〜6m以上にならないように枝を切り続ける方針を示しているのです。

これでは、木陰もできないし、景観も巨木の価値も台なしです。私たちはそんな残し方を望んでいるのではないし、とても喜べない、という意味です。

役場総務課に、私たちの要望が通らなかった理由を尋ねたところ、「センダンの会は急きょできた団体」「地元の団体ではない」などと言われ、最初から5〜6mで切ることは決まっていたような雰囲気でした。でも、私たちが要望書は関係部署内で共有され、暗渠排水管や未舗装面の確保、盛土や転圧を極力避けること、樹木医に監督を依頼することなど、私たちが提案したいくつかは採用を検討中と聞いており、それは有り難いことです。

なおこの要望書は、2024年2月には田布施町の教育長宛にも提出しました。教育委員会が発行する「田布施の名木」に選定され、文化財や名勝的な価値もあるセンダン巨木を、公民館建設のためにこのまま切ってよいのか、文化財審議会の見解も聞きたくて、回答を待っているところです。

盛土をして造成工事が進む麻里府公民館予定地(2024年3月)

現在は、公民館敷地の造成工事が進んでおり、湿地を埋め立てるために、ショベルカーが動き回り、ダンプカーが次々と土を運び入れています。

工事前に、造成作業の支障になる最低限の低い枝を切断することは、私たちも現場で造成業者と同席して確認しています。しかし2月下旬には、切断予定ではなかった枝まで、恐らく重機で折られているのを確認しました。樹木への配慮が十分でない状態で、こうした重機による破損や転圧によって、センダンがなし崩し的にダメージを受けていくリスクも十分考えられます。

2月下旬に確認されたセンダンの枝の破損箇所

私はこの問題を、木1本の小さなローカル問題とは思っていません。なぜなら、植物や自然環境に対する価値観、行政の進め方、過疎・高齢化社会、経済合理性で進む開発、どれをとっても、現代日本が抱える大きな問題の縮図のように思えてならないからです。

「どの木も切るな!」と、極端な自然保護運動をしている訳ではありません。木材自給率40%以下の日本は、もっと木を切って活用すべき人工林が膨大にありますし、公共の福祉のために切らざるを得ない木だってたくさんあるでしょう。しかし、この麻里府のセンダンについては、樹姿、景観、立地、公民館建設という特性上、保護して活かした方がよいことは、木の価値がわかる人なら見てすぐわかります。

樹木や自然への理解を広めるために、研修会、観察会、講演会などの講師を各地で務めることが多い私は、このセンダン問題を外にも広く発信することにしました。内だけで呼びかけても、状況はなかなか変わりません。町は少しずつ歩み寄ってくれていますが、スケジュールありきで、先に木が切られてしまいそうです。

Think globally, Act locally.
Think locally, Act globally.

目の前の木1本も守れないなら、日本や地球の自然だって守れないでしょう。どんな結末になったとしても、このセンダン問題に直面して得た学びを広く共有し、社会に活かしたいと思います。

12月下旬には、ドローンで撮影してもらったセンダンの動画(記事冒頭)が、YouTubeのチャンネル・おかゆらんどTVで公開されました。センダンの雄大さ、麻里府地区ののどかな環境がよく分かる、貴重な動画です。

2024年2月10日には、東京・新宿で開かれた環境講座(主催:公益財団法人ニッセイ緑の財団)で、「クマ問題や樹木伐採問題から考える日本の生態系と自然観」というテーマで講演を行いました。明治神宮外苑の樹木伐採問題や、クマ出没問題と絡めて、麻里府のセンダン巨木問題も大きく紹介し、こうした問題の背景にある課題や考えを述べました。大きな反響がありました。環境NGO、自然保護団体、ジャーナリスト、造園関係者、教育関係者など、多くの方に声をかけていただき、問題意識を共有する輪が広がりました。

ニッセイ緑の環境講座の会場(2024年2月10日 新宿NSビル)

そしてセンダンの会では、3月11日から開かれる田布施町の3月議会に向け、田布施町議会議長と町長宛に、センダンの樹冠と景観を守るよう求める陳情書を提出しました。

このセンダン問題を一部関係者だけで決めてしまうのではなく、田布施町の財産や景観の問題として、すべての議員さんにも考えてほしいし、住民全体で考える機会をつくってほしいのです。

田布施町議会議長と町長に提出した陳情書「麻里府のセンダン巨木の樹冠保護と景観保持に関する陳情」

陳情書の提出にあたり、私とセンダンの会メンバーの2名で、町長さんや副町長さん、関係部署の担当者さんらと面会してきました。でも、昨年5月に面会した時と同じように、やはり話の途中で、町長さんの発言に腰を折られました。

「いろいろな考えがあるから」
「一部の人が切るのに反対と言ってるだけでしょう」
「説明会で理解を得ているから変えられない」
(※実際は過去2回の説明会で決を採ったり話がまとまった訳ではない)

と。巨木や景観の価値を理解してもらうための建設的な話し合いは、今回もできませんでした。

4月13日には、麻里府のセンダン巨木を含めた町内3ヵ所の巨木を観察してまわる「巨木ツアー」も企画されています。田布施町の教育委員会や観光協会も後援してくれ、メディアも注目してくれ、すぐに満席になりました。

私たちは、地元だからこそ気づきにくい「名もなき大きな木」の魅力と価値を再発見し、地域の活性化に繋がるポジティブな活動、プラス思考の取り組みを広げ続けたいと思います。

第1回たぶせ巨木ツアー 講師:林将之 主催:田布施町まるごと公園化プロジェクト

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