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【読書記録5】五味洋治『英語と中国語10年後の勝者は』を読んで、これからの言語教育について考えてみた
どんな人におすすめか
タイトルを見て面白そうだったので、中身をパラパラ見てみることさえせず、図書館で借りてきて読んでみました!
この本の初版は2023年2月なので、ここでいう10年後とはだいたい2033年頃になります。
英語と中国語のどちらが10年後の世界の勝者になっているか、この本を読めばわかるのだな!と思ってしまうようなキャッチーなタイトルがついていますが、全体の8割は、英語と中国語が、日本を含む世界でどのように学ばれているのかについて、様々な事例を挙げながら紹介し、残りの2割で日本語の現状と未来について触れる、という構成になっています。
というわけで、英語と中国語、勝者をいますぐハッキリさせたい!英語と中国語がどこの国でどんなふうに学ばれていようと知ったこっちゃないわい!という方には期待外れの内容かもしれません。
逆に、いま現在語学学習を楽しまれている方や、中国語を勉強し始めてみようかなと迷われている方にはとてもオススメです◎
レビューを見ると、筆者の主張に乏しいという感想も散見されますが、個人的には非常に学びの多い1冊だったので、まとめてみます。
私のバックグラウンドについて
私は日本生まれ、日本育ちの日本人で、母語は日本語。
現在は別の仕事に従事していますが、中高の国語科の教員免許と日本語教師の資格を保有しています。
これとは別に中高の中国語の教員免許も所持しており、英語も得意ではありませんがそれなりに好きで、細々と勉強を続けています。
そもそも、昔から言語そのものが好きでした。
高校時代は、暇を見つけて図書室に通っては、昭和中期から後期にかけて収録された全国の方言の音声データを聴きまくっていました。大量の音声データを聴き続けた結果、イントネーションやアクセントの位置を手掛かりに、初対面の方のおおまかな出身地を当てられるようになりました。
大学時代にはうちなーぐち、モンゴル語、広東語、チベット語をかじっていたこともあります。また、海外旅行に行く前にはかならず、基本的な挨拶や数字など、ごく初歩的な表現だけでも現地の言葉を覚えるようにしていました。
21歳の夏に、10か月間の交換留学を終えて中国から日本に帰国したのですが、その際、新しいことに挑戦したいと思い、そこから2か月間の独学を経て日本語教師の資格を取りました。その後は、中国人留学生が9割弱を占める日本語学校で日本語教師として授業を担当させてもらいましたが、私の担当クラスは中国人学生が1人しかいないレアなクラスで、そのほかはベトナム人、バングラデシュ人、ネパール人、フィリピン人の学生たちでした。
全員が私よりも年上の学生さんでしたが、どの学生も母国の文化や言葉を親切に教えてくれて、ほんとうに、大学時代にかけがえのない貴重な経験をさせてもらったなといまでも有難く思っています。
そんな私が言語を学ぶ理由はとても単純で、ただ単に好きだから。
これに尽きます。実際、いまの仕事でも英語や中国語を使う機会はありますが、実務に役立てたいという思いよりも圧倒的に、ただ好きで話せるようになりたい、原書で本を読みたい、現地の人と現地の言葉で話したい、という思いが強いのです。
それはなぜかというと、海外旅行や留学生活の中で、「言葉が通じた嬉しさは一瞬で消えていくけれど、心が通じた嬉しさは一生消えずに残る」ということを身をもって知ったからです。
筆者にとって勝者はどちらなのか
ただただ言語が好きでそれを学ぶことが好きなだけの私は、あくまで興味本位でこの本を読み始めました。
決して、英語と中国語、どちらの言語が10年後の世界を制するかを見極め、その言語を集中的に学ぼう!と息巻いて読み始めたわけではないのです。
しかし、この本はタイトルで提起されている問いについての解答までの道のりが、いささか複雑でわかりにくいので、ここではじめに筆者の結論をバーンと提示してしまおうと思います。
もちろん現時点で選ぶなら英語だろう。しかし、中国市場や中国語圏を意識してビジネスをしたいのなら、中国語に軍配が上がる。50年、100年という長いタームで考えれば、中国語が世界語になっているかもしれない。
………いやいや、ほんなら肝心の10年後の勝者はどっちやねん!と突っ込みたくなるふわっとした結論ではあります。
私なりの解釈ですが、筆者は10年後の勝者は英語だが、それより先の未来の世界では中国語が勝者になるのでは?と言いたいのだと思いました。
筆者はさらに続けます。
同じエネルギーを割くのなら、私は中国語を学ぶことを勧めたい。えこひいきしているわけではない。競争相手の多い英語よりも、中国語を深く学べば、今後、仕事の幅が広がる。中国の拡大は警戒すべきだが、相手を知るためにも、言葉を学ぶことは重要になる。
「えこひいきしているわけではない」と断りを入れているとはいえ、やはり、新聞社の中国総局に勤務した経験があり、中国人の妻をもつ筆者の背景を考えれば、多少中国語に肩入れしている点は否めないとは思います。
娘たちの今後の言語教育について考えた
どんな本でもそうだと思いますが、筆者自身の主張をしっかりと受け止めた上で、自分自身の考え方や意見はどうなのか、一度立ち止まってじっくり考えてみること、その時間をきちんと確保することがやはり重要になってくると、この本を読んで改めて思いました。
私の場合、今後どのように言語教育を進めていくかという問題は、自分自身の仕事に直結する分野であるというだけでなく、2人の娘を育てる親としても、向き合い続けなければいけない大きな課題です。
30歳の私は現在、娘たちの言語教育についてこのように考えています。
早期外国語教育よりも、まずは母語の習得に力を入れたい
頭を使うことも大事だが、体全体を使って行う経験をたくさんさせたい
ただし、本人が楽しめるのであれば、歌や実際のコミュニケーションを通して、外国語の音に自然に触れさせてあげたい
本書でも、英語教育が浸透しているフィリピンが抱える意外な問題が提起されていました。
国際的に学力を比較するために行われるテスト、PISA(国際学習到達度調査)で、フィリピンの受験生の点数が極端に低かったのだ。(中略)フィリピンでは、この試験は公用語のひとつである英語で行われた。ところが、数学的リテラシーと科学的リテラシーの成績が、参加79か国中78位。読解力に至っては最下位だった。
多くのフィリピン人にとって英語は第二言語ですが、小学校から大学まで、タガログ語と歴史以外の授業をすべて英語で受けるため、フィリピンは一般的には英語が流暢な人が多い国とされています。
しかし、第一言語(母語)の習得が不十分なままイマージョン教育(immersion program:外国語で教科を学ぶことで、その言語に浸りながら母語と同程度の語学力習得を目指す教育法)を行うと、第一言語も第二言語も低いレベルのままにとどまってしまうという指摘があります。
フィリピンがまさにこの状態で、母語も英語も習得が中途半端になってしまった結果、PISAの点数が伸び悩んでいるのではという考察がなされており、とても考えさせられました。
娘たちが学童期に入ったら、本書でも紹介されていた宇賢教育学院のような学童クラブや習い事に通わせることも検討したいなと思ってはいるのですが、やはりまずは母語の土台をしっかりと築いてあげられるよう、親としてできることは惜しまずすべてやっていこうと思いました。
具体的にはこういったことを継続していきたいと考えています。
読み聞かせ(子どもの頃から年下の子どもたちに読み聞かせをしたり、学生時代はボランティアで児童館等での読み聞かせもしていたので、20年くらいのキャリアがあります笑)を続ける
どんなに忙しくても、保育園の送迎時、食事、入浴、就寝時にきちんと娘と会話する時間を確保する
なるべくいろいろな年代のいろいろな人の日本語に触れさせる
でもでも、欲を言えば、私は中国語の音楽のような響きに惹かれて中国語を学び始め、世界がだいぶ広がったので、ゆくゆくは娘にも、自分の好きな言語を見つけて世界をどんどん広げていってほしいなとも思います。
ただそれは完全に私の勝手な願いなので、しばらくは、日本語を操り始めたばかりの長女と、これから一語一語獲得していく次女との時間を大切に過ごすことに集中します!
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![寺内温子 / 育休中のママ編集者](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168630730/profile_f7760f5b1af91b60cb306756ec4b4961.jpg?width=600&crop=1:1,smart)