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「国外クライアントが7割。しかし国外支店は0。すべてをストックホルムから生み出す、その働き方とは?」 — by Stockholm Design Lab <vol.8>

会社に属して働いたことのある人であれば、必ずと言ってもいいほど目にしたことがあるであろうオフィスサプライ「アスクル」の製品。その「アスクル」オリジナル商品や配送用ダンボールなどのパッケージデザインを担当したのが、今回のインタビュー先である老舗デザイン会社 Stockholm Design Lab 。紙製品はもちろん、建物や車、飛行機などのデザインをも手がけ、クライアントはなんと国外が60–70%。にも関わらず支店を一切設けず、ストックホルムを唯一の拠点とする彼らにとっての WORKS GOOD! とは?

Question 1:
まず初めにStockholm Design Lab(以後、SDL)について教えてください。


Stockholm Design Lab は名前の通りストックホルムに拠点を置き、デザイナー、ストラテジスト、建築家の3人で20年前に設立した会社です。仕事の中心は、ブランディングとアイデンティティの醸成です。現在の社員数は20名ほどで、スウェーデンはもちろん、イギリス、オーストリア、イタリア、ロシア、ハンガリーなど、さまざまな国の出身者がいます。社内では主に英語でコミュニケーションが取られていますね。社員の半数以上はデザイナーで、その他はブランドマネージャー、プロダクションマネージャー、ストラテジストで構成されています。現在、社員として建築家はいませんが、建築系の会社やフリーの建築家と一緒に仕事をすることはあります。インテリアはもちろん、デジタルや動画のプロジェクトでも、建築家と仕事をすることは私たちにとってごく普通のことで、それが共通認識として社員の中に根付いています。私たちは、プロジェクトに必要な人材を必要に応じてアサインするので、建築家に限らず、他のエージェンシーやフリーランスの方と仕事をする機会は多いです。

また、プロジェクトの60〜70%は国外クライアントとのものですが、ストックホルム以外の場所にオフィスは構えておらず、これからもこの形を続けていくつもりです。

Question 2:
半数以上が国外のクライアントであるとのことですが、どのようにコミュニケーションを取られていますか?時差などが問題にはなることはありませんか?

時差の関係で、リアルタイムにコミュニケーションを取るのが難しい時はあります。そのため、できる限り直接会って話をするように心がけていますが、常にそうできるわけでもないので、メールやSkype、もしくは物理的な何かを送ることもあります。Skypeミーティングは頻繁に行われ、Skypeを通してプレゼンテーションをすることもあります。少し距離があるというだけで、それ以外はスウェーデン国内のクライアントとさほど変わりはないので、コミュニケーションが弊害となり問題が起こったことは今までありませんね。

Question 3:
国外のクライアントと仕事をするには、クライアントのことだけでなく、その国の文化的背景なども知っておく必要があると思うのですが、どのようにリサーチされているのでしょうか?

プロジェクトをローンチする国に関わらずリサーチは毎回しますが、もし今まで仕事をしたことがない国のクライアントである場合、ある程度念入りに初期リサーチをするようにしています。ただ昨今はグローバル化が進んだことで、国ごとというよりはグローバルな視点でのリサーチのほうが重要になってきています

Red Dot Design Award 2016で賞に輝いたアスクルのパッケージデザイン


Question 4:
プロジェクトが実際に動き出すと、どのようなフローで進んでいきますか?

私たちはいつも、クライアント、プロジェクト、そしてビジネスに対して深く洞察することからスタートします。クライアントと話をしていく中で、共通の目標を確認し、お互いがプロジェクトに何を期待しているのかをまず考えます。その後、それらの洞察によって得たものを元に、ストラテジーフェーズへと入っていきます。クライアント自らそのフェーズを終えていることもありますが、それでも私たちは毎回必ずストラテジーを立案します。プロジェクトの大きさに関係なく、です。デザインはストラテジーを考えたからこそありつける成果であり、仕事をはじめるにあたってその理解を欠かすことはできません

ストラテジーが決まったら、コンセプトを作るべく、クリエイティブフェーズへと入っていきます。コンセプトも、プロジェクトの大きさに関わらず、よく話し合いながら決めていきます。クライアントがコンセプトを承認したら、あとは完成に向けて制作を進めていきます。スムーズに進めば、最終段階で、プロジェクトの成果とその考え方についてクライアントと話し合う時間を設けています。例えば大企業の場合は、デザインによって確立した企業アイデンティティとブランドを、社員が理解できるよう教育することまでが、成果を出すためのプロセスとなります。

Question 5:
長期に渡るプロジェクトが多いと思いますが、そういった中で新しいクライアントを受け入れる余裕はあるのでしょうか?

全てのクライアントが長期の付き合いになるわけではないですし、いつ私たちの元を去って行ってしまうかは誰にも予測できません。一つのプロジェクトが終わりを迎えれば、その分新しいプロジェクトを受け入れることができます。プロジェクトは永遠に続くものではないので、割とフレキシブルに動けています。

そのために最大の課題となるのは時間の予測、つまりスケジュールを立てることです。プロジェクトにどれくらいの時間が必要なのか、少なくとも1週間は費やして考えます。それを頭に入れておくことで、新しい依頼をもらった時に適切な判断ができるようにしています。一筋縄ではいきませんが、精密なスケジュールを立てることは絶対に欠かせません。それによって私たちの健康状態も左右されてきてしまいます。オーバーワークの繰り返しは長くは続かず、それを見ているクライアントも不安になってしまうはずです。常に持続可能な計画を立て、働く環境を整えなければなりません。

スケジュールは、私( クリエイティブディレクター)とプロジェクトマネージャーが一緒に考えます。週に1回のミーティングもありますが、数日のうちに大きな変更が必要となるようなこともあるので、状況の共有とタスクの優先順位決めは毎日していますね。

Polestar


Question 6:
スケジュールを立てるために導入されているツールはありますか?

ありますが、30分ごとに何をするのか登録していくような、スケジュール管理ツールとしてはとてもお粗末なものです……。ただ、1つのプロジェクトにどれくらいの時間を費やしたのか可視化できるので、クライアントに請求をする際には役に立ちます。スケジュールを立てるというよりも、かかっている工数を把握するために導入している感じですね。プランニングのためにはもっといいものがあるはずですが、新しいツールを導入するにも学習コストがかかりますので手を出せないでいます。

Question 7:
残業をされることはありますか?

毎週数回、誰かが遅くまで会社に残っていることはあります。でも社員の大半は定時で帰れるようにしています。家族が家で帰りを待っていたり、保育園や幼稚園に子どもを迎えに行かなくてはいけないメンバーもいるので、仕事とは言え、優先順位を考え生活していかなくてはなりません。残業をするということは、そのぶんだけ他のことが後ろ倒しになってしまう。だからなるべくそうならないように、誰か1人に負荷がかかりすぎてしまった場合、他のメンバーがその人を助けられるよう気を配っています。でも、どうしてもやらなくてはいけない状況があるのも事実です。

Question 8:
以前、Björnさん(CEO)のインタビューに「活力」がある人を優先的に採用すると書かれていたのですが、これはどういった意味なんでしょうか?

おとなしいのかよく喋るのか、とかそういうことではなく、知識があり、情熱が感じられるかどうかだと思います。採用において、一緒にうまくやっていけるのか、パーソナリティを見極めることは不可欠ですが、私たちはいい出会いに恵まれてきたと思います。

入社したメンバーの多くはかなり長く一緒に働いてくれており、今まで採用で大きな壁にぶつかったことはありません。仕事は私たちの生活の大部分を占めるので、お互いがお互いを好きになれるかどうかは本当に重要なことです。

SAS (Scandinavian Airlines System)

Question 9:
どのように社員のモチベーションを保たれていますか?

難しい質問ですね(笑)私たちは似たような興味や関心を持って仕事に取り組んでいると思います。だから、誰も退屈とは感じていないんじゃないでしょうか。プロジェクトによっては、ある特定の期間だけどうしても気持ちが乗らない作業が発生する時もありますが、それも毎回ではないので。

もし誰かが、進みがあまり早くない長期のプロジェクトを担当していたら、次は短期でペースの早いプロジェクトに関わってもらうなどの工夫をし、きちんといいバランスになるように心がけています。ただ、いいクライアントといいプロジェクトに恵まれているので、そう簡単に飽きてしまうことはないと思います。

Question 10:
ビジネスの話に戻りますが、どのような形でクライアントに請求をされていますか?

例えば1年や2年などの長期にわたるプロジェクトでは、クライアントの方から月ごとの請求を頼まれることもあります。この場合、その月にどれだけ稼働したかは関係なく、あらかじめ提示した総工数をプロジェクトが終わるまでの月数で割った一定の額が毎月支払われることになります。

始まる前、中間、納品後の3回に分けて請求することもありますし、納品後に一括で請求する場合ももちろんあります。プロジェクトの規模や長さによって請求の方法は変わりますね。

Question 11:
副業は可能ですか?

数名がデザイナー兼コンサルタントとして働いているのですが、彼らは週4日勤務になっています。つまり週3日のオフには何をしてもいいことになっています。週4日分の給与しか支払われませんが、会社としては請けられないような規模の小さい仕事などを、競合にならない限り、副業として個人で請けることは特に問題にはなりません。

Question 12:
最後に、「いい仕事」をするのに一番大切なものは、会社としてなんだと思いますか?

スタッフのモチベーションと、クライアントとの関係性だと思います。仕事に興味を持ち、楽しみ、打ち込める場合、それが「いい仕事」になる可能性は高まるでしょう。

また、仕事がしやすいクライアントを持ち、彼らが私たちの仕事を理解し、彼らの信頼を得て良好な関係を築くことができれば、お互いがお互いののために努力したいと思えるようになります。それも「いい仕事」をするために欠かせないことですね。

The Nordic Museum exhibition “ Stripes, Rhythm, Direction” (2013)

※この記事内容は2018年1月公開当時のものです。


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