「間違った答えなどない。だから全ての可能性を見逃さず、最高のアイディアが引き出せる。」 — by Sosolimited <vol.12>
12回目のインタビューに登場するのは、主にデータを用いたインタラクティブな造形物制作を得意とする Sosolimited 。バンドからはじまった彼らがいかにして、2012年ロンドンオリンピック開催中のロンドンアイや、スーパーボウル開催中のエンパイアステートビルにインスタレーションを仕掛けることができたのか、可能性やアイディアを最大限に引き上げる働き方について詳しく話を聞いてみた。
Question 1:
まず初めにSosolimitedについて教えてください。
私たち Sosolimited はボストンから始まり、現在はボストンとサンディエゴの2箇所でオフィスを構えています。サンディエゴではボストンよりもソフトウェア開発などのテクノロジーに力を入れていて、ボストンの方はもう少しデザイン寄りになっています。
創業メンバーの3人はマサチューセッツ工科大学(MIT)で知り合いました。アートや音楽に関して3人とも同じ趣味を持っており、自分たちが没頭できるような音楽、もしくは音楽を使ったパフォーマンスがその当時存在していなかったので、自分たちでバンドをはじめました。最初はバンドとしてスタートしましたが、バンドとは別にオーディオビジュアルの仕事が舞い込むようになり、バンドからメディアインスタレーションの会社へと変化していきました。
ビジネスになり始めたのは2008年からで、最初のクライアントはHBO(※1)でした。それから、当時していた仕事を辞めて、Sosolimitedをバンドから会社にすることができました。
※1 アメリカの衛星、および、ケーブルテレビ局。代表作に『Sex and the City』や『Game of Thrones』などがある。
Question 2:
バンドから今の仕事への変遷をもう少し詳しく教えてください。
私たちのバンドのライブをNew York Timesが記事として取り上げてくれたことがきっかけで、HBOの仕事のオファーをいただきました。バンドでは、自分たちの音楽と一緒にライブで流す映像を制作するだけでしたが、のちにテレビの映像をリミックスするライブを始めたんです。その時に、大統領選挙の討論会をリミックスし(下記動画参照)、このパフォーマンスがメディアの間で話題になりました。そこからたくさんの仕事のオファーをいただき、今に繋がっていると思います。
ReConstitution 2008
会社設立当時は、自分たちでソフトウェアやハードウェアを作ったり、イベントにおける体験のデザインや、オペラの照明デザイン、店舗の展示やインスタレーションを制作していました。現在は、データドリブンなアートワークやソフトウェアの制作にフォーカスしていて、リアルタイムの情報を使ったアートや、映像でデータを可視化することで物語を伝えたり、といったプロジェクトが多いですね。
現在はフルタイムの社員が10人いますが、プログラミングや電気回路の製造など専門知識が必要となれば、外部のパートナーに依頼することも多いですし、コラボレーションは活発に行なわれています。
Question 3:
仕事を受ける基準はどういったものですか?
私たちは、何か面白いストーリーを伝えることのできる組織、例えば博物館や報道機関などと一緒に仕事をしたいと思っています。そのため、クライアントの製品を売るための手伝いをすることに興味はなく、イノベーションや環境、医学や知的財産などに興味があります。ただ、表現手法に制限はなく、その仕事のテーマとなるストーリーが興味深いもので、それを表現するのににwebサイトが必要であればwebサイトも作ります。物理的なものでも、バーチャルでも、スクリーンベースでも構いません。
Question 4:
クライアントの国内/国外比率を教えてください。
以前は国外からの仕事が多かったのですが、最近は90%ほどがアメリカ国内からになりました。5年前はインタラクティブな性質のデザインや開発ができる会社が世界的にみても少なかったのですが、最近ではどの国にも増えてきているので、このような傾向になったのかもしれませんね。
Question 5:
クライアントへの見積もりはどのように計算されていますか?
過去の事例でのコスト感を共有し、どのくらい予算があるのか聞きます。もし予算が$200,000あると言われたら、その予算でできることをやりましょうと答えます。私たちの場合、クライアントがいくら費やせるかを先に提示してくれることが多いですが、もし予算を提示できないのであれば、そこまで真剣に考えていないんだなと捉えています。
Question 6:
予算が少なくても、もしプロジェクトがとても面白いものであれば受けますか?
予算と作りたいものが見合っていなければ、「使えないデバイスや技術があるかもしれない。ただ、美しいものを作ります。」と伝えます。提示された予算で何がができるのか、きちんと合意を取ることは重要です。予算が極端に少なければ受けられませんが、何か別の手段でお手伝いできないか、ということは考えます。
Question 7:
コンペはやられますか?
提案フィーが支払われないようであればやりません。クリエイティブに関わる仕事を無料で受けること自体が間違いだと考えています。
Question 8:
クライアントとはどんなスキームで契約を結ばれていますか?
柔軟に対応します。もしクライアントに、先に払ってしまいたい事情があればそれに従います。ただ最近では、少額の予算からスタートすることが多くなってきています。新しいクライアントの場合は特にそうですね。アートプロジェクトを購入した経験がなかったり、私たちがやっていることを詳しく知らない人が、上司から許可をもらったり、大きな予算を確保することは難しいので。最初に得た予算で、まずは基本の構想設計と調査に着手します。
Question 9:
プロジェクトにおいて誰に決定権がありますか?
最終的にはクライアントですし、制作チームにも指揮を取るスタッフはいますが、全員に当事者意識を持って欲しいと思っています。デザインについてはデザイナーが、技術的な分野に関してはエンジニアが、それぞれに責任を持って仕事をしているので、あまり口出しはしません。一方で、クライアントとの、もしくはチーム内での相談を密に行うことも重要です。
個人の名前が看板に貼り付けられて、その人が全ての判断を下すようなアーティストスタジオとは違って、私たちはコラボレーションを重視するようにしています。
Question 10:
外部の人と一緒に仕事をすることが多いとのことですが、もし意見の対立が生じた時にどのように対処していますか?
いい質問ですね。重要なのは、意見を個人的なものだと捉えないことと、対立している両者に勝敗をつけようとしているわけではない、という姿勢を明らかにすることです。クライアントの目的や戦略、伝えたいことを、力強く世の中に発信する。その目標に近づくように、常に相談しながら作業を進めています。
Question 11:
造形物を作る時などは特に、オフィスではない様々な場所での作業が多くなると想像できます。その場合、コミュニケーションを円滑にするためにどのような工夫をされていますか?
常にビデオチャットをしていますね。また、つまらない答えになってしまいますが、オフィス以外の場所での作業がある場合、SlackやG Suiteなどを使って常にコミュニケーションを取れる状態にしています。コミュニケーションのために特別なツールは導入していませんが、計画を立て、その計画に沿ってプロジェクトを円滑に進めるのは上手い方だと思います。
Question 12:
SlackやG Suite以外に使っているツールについて教えてください。
GitHubは使っていますね。コラボレーションワークに向いている重要なツールです。その他だと、HarvestとForecastを使っています。プロジェクトの計画フェーズや実行フェーズ、そしてプロジェクトが完了した後に、時間やその他のコストを有効的に使えているか、と問いかけることはとても大事なことです。 何ヶ月も先の業務計画を立てるのにはForecastを使用し、やり遂げた業務を分析するのにHarvestを使っています。
臨機応変なだけで会社を経営できるのもせいぜい5年くらいです。それ以上続くなら、各プロジェクトに対してきちんと評価をしないといけません。
Question 13:
家で仕事をすることは許可していますか?また、副業についてはどうですか?
みんながオフィスで仕事をする方がいいと思っていますが、もし家で働かなくてはいけない理由があれば、それは許可することにしています。
副業については、フルタイムワーク的な副業はしてほしくないと思っていますが、少しだけやる分には気にしません。ただ、ほとんどの社員がパーソナルプロジェクトを抱えていて、1週間休みをとってそれを進めたりすることはあります。
Question 14:
スタッフの働きやすさのために取り入れている制度はありますか?
週40時間働けば良いということにしています。これはアメリカ国内、特にテック系の会社ではあまり多くないことで、夜遅くまでの残業が一般的ですが、私たちは9時-17時半の勤務です。
正直、インスタレーション制作など、現場での作業が発生する際にやむを得ない残業はあります。ただ、Harvestを使って働いた時間は管理しているので、もし働きすぎてしまった日があったら、その分の時間は好きな日に休めるようにしています。
Question 15:
最後に、「いい仕事」をするのに一番大切なものは、会社として何だと考えていますか?
自由だと思います。この自由とは、既成概念にとらわれない思考プロセスに入り込める環境のことです。間違った答えは絶対にないので、大勢のメンバーが言いたいことを言い合って、目標にたどり着くために、全ての可能性を絞り出すことが重要です。これは言わない方がいい、これは非現実的だ、と考えて自分自身にブレーキをかけると、最高のアイディアは引き出せません。
※この記事内容は2018年5月公開当時のものです。
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