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幻獣戦争 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才⑪

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序章 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才⑪

 自衛軍えびの基地。鹿児島県と宮崎県の県境に位置するこの基地は、九州要塞第3戦闘師団の根拠地であり、第3戦闘師団は主に九州南部と南太平洋方面の警戒と防衛を担っている。
この日俺は珍しく執務室に戻る途中に声をかけられた。
「師団長、急報です!」
「めずらしいな。どうした?」
 執務室へ繋がる廊下で呼び止められ俺は振り向き問いかける。相手は副官の鷲谷一佐だ。

「熊本県西原村方面に幻獣出現との報告です」
「またか……規模はどの程度だ?」
 肩で息をしている一佐が落ち着くのを待ちながら俺は問う。こいつが走ってきたことは余程の事だとなのだろう。一佐は片手に持っていた一枚の報告書を差し出しこう言った。

「天照によれば軍団規模だと推測されています」
「軍団規模!? もしや、敵の大攻勢……か?」
 俺は受け取った報告書に目を通す。あがってきている報告によれば、大矢野演習場近辺に幻獣の出現が予想され、九州要塞は防衛基準態勢1を発令。熊本赤十字病院総合グラウンドに仮設指揮所、木山川沿いと布田川沿い攻撃陣地を形成するようだ。

「――ん? 戦略機部隊は稼働しとらんのか?」
「それが、部隊再編中のため準備が遅れているそうです」
「……再編ついでに休暇を与えてしまったといったところか」
 俺の問いに一佐は伝わってきている情報を報告する。俺は顎に手をやり今後の展望を思案する。
 仮に軍団規模の幻獣が出現したとして、現状の九州要塞の戦力で封じ込められるか? いや、封じ込めて殲滅してもらわねば困るが……

「師団長。事態は一刻を争います戦略機部隊の応援を送っては?」
「そうだな。急ぎ――いや、増援はダメだな」
 一佐の提案に俺は同意しかけるが冷たく告げる。現状だと増援を送るのは最善とは言えない。
「――!? 師団長は仲間を見捨てるおつもりですか!?」
「ああ、見捨てる。それよりも熊本県との県境に3重の防御陣地を形成しろ」

 激高する一佐に俺は冷静に命令を伝える。仮に応援を出して間に合えば良いが、間に合わなかった場合、戦力の逐次投入となり、潰走する部隊に巻き込まれて戦力を無駄に失う事になる。本人達は浪漫に酔いしれて満足して死ねるかもしれないが、只の馬鹿な行いでしかない。

「師団長!」
「……貴官も俺の地位に就く気があるなら、もう少し俯瞰的に物事を見れるようならんといかんなぁ」
 俺の意図をいまいち理解できていない一佐は不快気な顔をする。気持ちはわからんでもないが。

「……どういう意味でしょうか?」
「仮にだ。応援をだしたとして応援部隊が間に合わなかったらどうする?」
「それは……しかし、今から出せば間に合うかもしれないじゃないですか!」

「貴官の気持ちはわからんわけではない。だがなあ、間に合わなかった場合、戦力の逐次投入となり戦力を無駄に失うことに繋がりかねない。となれば、今我々が出来る最良の行動は、潰走する部隊の撤退を支援できるように状況を整える事だ」
「……なるほど。次善の策を講じるわけですか、わかりました。急ぎ通達します!」
 俺の考えを理解したのか一佐は納得気に答える。 

ここまでお読み頂きありがとうございます! 

次回に続く


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