見出し画像

幻獣戦争 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才⑨

縦書き版はこちら

※著作権等は放棄しておりませんので、転載等はやめてください。
Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited.
(当サイトのテキスト・画像の無断転載・複製を固く禁じます。)

序章 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才⑨

「桜井君! 来ていたのかね!」
「はい。お久しぶりです本部長。今さっき着いたばかりです」
 私が驚き交じりに応じると桜井君は軽く微笑み答えた。
「来て早々てんやわんやですまないな、桜井」
「ほんとそうですよ。とりあえず僕と星野と井上が何とか出撃できますので、臨時小隊を編制して応援に向かいます」
 見ていた若本君がバツ悪そうに応じると、桜井君はそう答え2名の通信を繋ぐ。

「久しぶりの再会が戦場ってロマンチックですよねえ」
「ああ、実にワクワクするな」
 新たに大型モニターに表示された井上君と星野君はそう同意する。二人共元気そうで何よりだ。 
「では、桜井朱雀二佐、星野真那二佐、井上霞二佐、君達臨時第一小隊は比良坂陸将達試験部隊と合流後、神代博士達撤収の護衛を頼む。後続部隊が君達と合流後、再び臨時編制を実施し比良坂陸将達を援護。以降は彼の指示に従ってくれ」
「待ってください。僕達が撤収の護衛に回ったら陸将達はどうするんですか?」
 そう命じる若本君に桜井が2人を代表して訊き返す。

「やむを得んが、踏ん張ってもらう。これは俺の予想だが、恐らく君達が合流したことによって、護衛に回っているはずの小野一樹一佐が戦線に戻れるはずだ」
「――だろうな。陸将は粘り強い人だからな」
 若本君の予想に星野君が察したよう意見を述べる。彼の事だ撤退しろと言っても聞かないだろう。
「僕としては一緒に退避してきていてほしいなあ」
「そうねえ。それが一番でしょうけど、あの人はそう言う事出来なくなった人ですものねえ」

 若本君の言葉を察してか桜井君とさらに井上君が残念そうに嘆く。我々の心配をよそに彼はいつだって状況を理解して最大限出来る無茶を実行する。多くの隊員はそんな彼の姿を見て奮い立つ。だからこそ彼は英雄と呼ばれるのだ。
「ところで、君達が来ているという事は水原も一緒ではないのか?」
 若本君は恐らく居たであろうもう一人の女性について訊ねる。彼女も呼んでいたのか。

「水原黄泉一佐なら――逃げましたよ。臨時指揮所の指揮をするって」
「なるほど、賢明な判断だな。攻撃部隊の砲撃準備が速やかに済めば彼の援護が出来る」
 不満げに言う桜井君に、不穏な空気を感じた私は話を切り上げるよう割って入った。今はそれどころではない。
「そうだと良いですけど。では、出撃します」
「あの人たちの問題だというのに、まったく……」
 桜井君の応対に苦笑すると星野君も同じく敬礼して通信を切った。
「あのぉ、麗奈ちゃんは出さないんですか?」
 二人が消えたことを確認して、井上君が気になっていたことを質問してきた。

「天宮麗奈一佐はまだ謹慎中だ。当分出す予定はない」
「……そうですか、でも、その方が良いかもしれませんね」
 私の代わりに若本君が短く答えると、察したか井上君は頷くと敬礼して通信を切った。
「――良いのかね?」
「はい。実をいうと出撃してほしいのですが、ここで出してしまったら後で比良坂に何か言われても弁明できませんからね」
 通信が終わったことを確認して私が訊くと、若本君はそう答え肩をすくめた。

 防衛基準態勢1が発令され、要塞より準備が整った16式機動戦闘車、10式戦車、99式自走榴弾砲、MLRS車両が続々と熊本赤十字病院総合グラウンドへ向け移動を開始。集結先の熊本赤十字病院総合グラウンドには、周辺住民の避難誘導にあたっている部隊の一部が臨時指揮所を設営。その中には指揮を執る水原黄泉一佐の姿があり、到着した機甲車両は順に木山川沿い展開。住民の避難誘導と、部隊の出動が重なる混乱の最中攻撃態勢を整えつつあった。

ここまでお読み頂きありがとうございます! 

次回に続く


他記事はこちら

よろしければサポートお願いします。頂いた費用は創作活動などに使わせて頂きます。