幻獣戦争 2章 2-3 英雄は灰の中より立ち上がる③
2023.04.06『幻獣戦争』絶賛販売中
アマゾン売れ筋ランキング部門別1位獲得!
縦書き版はこちら
※著作権等は放棄しておりませんので、転載等はやめてください。
Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited.
(当サイトのテキスト・画像の無断転載・複製を固く禁じます。)
幻獣戦争 英雄は灰の中より立ち上がる③
格納庫を出て、俺は居住区画へ足を運び朱雀の自室に赴く。
伊勢の居住区画は部隊員と部隊長、司令官クラスで区画が分けられており、部隊長と司令官クラスには個室が与えられている。俺は部隊長ブロックに赴き朱雀の部屋であるドアをノックする。在室中だったのか朱雀はドアを開け出迎えてくれた。
「よっ。少し話でもしないか?」
出てきた朱雀に俺は気さくに声をかける。
「陸将! えっと、どうしたんですか?」
「どうもしないさ。ここでは何だ。少し海風に吹かれないか?」
驚き気味に言う朱雀に俺は指を甲板に向け外に出るよう促す。
「……わかりました」
朱雀は俺が突然やってきたことに戸惑いが隠せず、困り気味に同意すると自室から出てドアを施錠する。
「じゃあ、いくか」
そう声を掛け俺達は甲板へ上がる。
船内から甲板に出ると見事までの快晴で、海が透き通った深い青でひときわ鮮やかな色合いを放ち、心地よい風が頬を撫でる。後ろに続く朱雀は、甲板からの光の反射で眩しそうに眼を遮う。
「朱雀。マニュアルはもう読んだのか?」
「はい。僕の機体にリンクさせて射撃できるようになるそうです」
甲板脇の通路を歩きながら問う俺に、後ろを歩く朱雀はそう答える。
「信じているからな。朱雀」
俺は足を止め、脇の落下防止の手すりに手を置き、正面に広がる海に目を向け告げる。
「……陸将。やはり自分には荷が重い気がします」
朱雀は足を止め、少し間をおきポツリと言葉を貰す。荷が重い、か。そりゃ誰にだって荷が重いことに変わりはない。つまるところ責任を取るか、逃げるかの選択でしかない……俺が居る限り本当の意味でこいつが責任を受け入れる。自信を持つことに繋がらないかもしれない。だからといって死んでやるわけにもいかんしなぁ。
「――そうか。なら、俺と変わるか?」
「えっ!?」
カマをかける俺に朱雀は驚きの声を上げる。若干声が上ずっているな。そりゃ責任から逃れられるなら誰でもうれしいか……
「だがな、俺はお前ほど長距離射撃がうまくはない。最悪隊が壊滅するかもな」
俺は朱雀に振り向きわざとらしく言って見つめる。一樹が少し矯正したと言っていたが、肝心な場面ではまだ及び腰、か。
「陸将なら大丈夫です。奇蹟を起こした人なんですから、今回もきっとうまくいきます」
「何故そう言い切れるんだ? 俺は奇蹟なんぞ起こしたことは一度もない。ただ、責任を果たしてきただけだ。はたから見ればそれが奇蹟に見えているだけだろう。朱雀、お前は責任をとれないのか?」
すがるような目をして言う朱雀に俺は不快気に問う。奇蹟か、俺は一度だってそんなもの起こしたとはない。
「それは……自分には責任を果たせる自信がありません」
朱雀は目を泳がせ悲し気に答える。誰だってそうだ。俺だって自信なんぞない。最後はやるか、やめるかの問題なんだぞ、朱雀。
「俺だって自信はないさ。ただなあ、俺は死んでいった仲間に約束してしまっているからな」
俺はさみしく述べ視線を海へ向ける。こんな時、信康が居ればなあ、こいつに余計な負担を強いることもなかったんだが……どうして、俺だけ残されてしまったんだろうな……どうしようもない寂しさが胸に去来する。
「約束?」
「絶対にあきらめない英雄で居るってな。おかしいだろ?」
朱雀の問いに俺は寂しく笑みを向け答える。
「そんな。おかしくなんかありません! 陸将は僕たちの英雄なのですから!」
「――そうか。じゃあ、お前達の英雄で居てやるから朱雀。お前は俺の英雄になってくれよ」
被りを振り否定する朱雀に、俺は笑みを消し真摯に見つめ告げる。
「それは……」
「英雄はな、一人じゃなくて良いんだ朱雀。お前だって、真那だって、霞だって英雄になって良いんだ。そう思えないか?」
返答に詰まる朱雀に俺はさらに言葉を続ける。
「それでも自分は……」
「大丈夫。お前ならやれる。仮に失敗したら俺が何とかしてやる。だから、失敗するなら派手に失敗しろ」
「酷いですね。陸将」
俺の言葉にたまらず朱雀は困り気味に笑みを浮かべる。
「もっと気楽に考えろ。お前が失敗しても誰も責める人間はいない。というか責めれない。もし、責める人間が居たらそいつは俺が殺す」
俺はそう背中を押し朱雀に近づき肩にバシッと手をおく。
「ありがとうございます。陸将」
「お前は自分の事を夕暮れと思っているだろうが、違う。お前は夜明けさ」
頼りなさげに言う朱雀に俺は笑みを浮かべ続ける。
「夜明け?」
「そう、これから昇るんだ。落ちるんじゃない。夕暮れなのはむしろ俺さ。ま、俺は夜になっても諦めんがね」
朱雀の問いに俺はそう答え肩に腕を回し隣に抱き寄せる。
「夜明け、ですか。陸将らしい例えですね」
「だろう? ……お前の技術と培ってきた経験は大丈夫だ。自分の判断を信じろ。良いな?」
どこか恥ずかし気に呟く朱雀に俺は腕を離し鼓舞する。
「……微力を、尽くします」
しばらく間をおいて朱雀はそう言葉を紡ぎだした。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
次回に続く
2023.04.06『幻獣戦争』より絶賛発売中
アマゾン売れ筋ランキング部門別1位獲得!