投球動作の解説と各期に起こりやすい障害について

投球動作は、主にワインドアップ期、コッキング期（初期および後期）、加速期、リリース期、フォロースルー期の5つのフェーズに分けられます。それぞれの期において、動作に関与する筋肉や可動域、またその動作中に起こり得る障害について解説し、関連する論文を紹介します。

1. ワインドアップ期 (Wind-up phase)

説明: 投球動作の開始部分で、足を持ち上げ体重を支持脚に乗せ、全身をバランス良く回旋させます。
関与する筋肉: 下肢、体幹の筋肉（特に臀筋群、大腿四頭筋、腹斜筋）。
必要な可動域: 下肢および体幹の安定性と柔軟性が求められ、特に股関節の回旋、体幹の回旋可動域が必要です。
投球障害: この段階では、主に体幹や下肢の筋力不足や不均衡により、腰痛や股関節痛が生じやすいです。

2. コッキング期 (Cocking phase)

• 初期コッキング期 (Early cocking)
説明: 投球腕を肩のレベルまで引き上げ、支持脚で体重を保持し、肩関節が外旋し始めます。
関与する筋肉: 三角筋、棘上筋、棘下筋、前鋸筋など肩の安定筋群。
必要な可動域: 肩関節の外旋、肩甲骨の安定性が重要です。
投球障害: 肩甲骨の動きに問題があると、インピンジメント症候群や肩関節の痛みが生じる可能性があります【1】。
• 後期コッキング期 (Late cocking)
説明: 最大肩外旋位置に到達し、股関節と体幹をひねることでさらなる力を生成します。
関与する筋肉: 三角筋、棘上筋、棘下筋、広背筋、腹斜筋、臀筋群。
必要な可動域: 肩関節の外旋は90度以上、股関節の回旋および体幹の可動域が求められます。
投球障害: 肩関節への負担が非常に大きいため、SLAP損傷（肩関節唇損傷）やローテーターカフ損傷が生じやすい時期です【2】。

3. 加速期 (Acceleration phase)

説明: 最大肩外旋からボールをリリースする瞬間までの段階で、腕を急速に前に振り下ろし、体全体で力を加えます。
関与する筋肉: 大胸筋、三角筋、上腕三頭筋、広背筋、前鋸筋。
必要な可動域: 肩関節の内旋、肘関節の伸展、肩甲骨の回旋がスムーズに行える必要があります。
投球障害: 肘関節に強い負荷がかかるため、内側側副靭帯（UCL）の損傷や前腕の筋肉の使いすぎによる炎症が生じやすいです【3】。

4. リリース期 (Release phase)

説明: ボールを手からリリースする瞬間であり、腕の加速がピークに達します。
関与する筋肉: 大胸筋、三角筋、前腕屈筋群。
必要な可動域: 肘と肩の協調的な動きが求められます。
投球障害: ボールリリース時に肩や肘への負担がピークに達するため、肩関節や肘関節の靭帯や軟部組織に損傷が生じやすいです。具体的には、UCL損傷や回旋筋腱板の炎症などが典型的です【4】。

5. フォロースルー期 (Follow-through phase)

説明: ボールをリリースした後、体を前方に倒しながら減速させます。
関与する筋肉: 広背筋、三角筋、棘下筋、菱形筋。
必要な可動域: 肩甲骨と体幹の柔軟性、下肢の支持が重要です。
投球障害: 肩甲骨の動きが不十分だと、肩への負荷が過剰になり、インピンジメント症候群やローテーターカフの損傷につながることがあります【5】。


参考文献

• 【1】Escamilla, R.F., et al. (2007). “Shoulder muscle activity and function in common shoulder rehabilitation exercises.” Sports Medicine.
• 【2】Burkhart, S.S., et al. (2000). “The disabled throwing shoulder: Spectrum of pathology Part II: Evaluation and treatment of SLAP lesions in throwers.” Arthroscopy.
• 【3】Fleisig, G.S., et al. (1999). “Kinematics and kinetics of pitching with implications about injury mechanisms and prevention.” Sports Biomechanics.
• 【4】Cain, E.L., et al. (2010). “Elbow injuries in throwing athletes: A current concepts review.” The American Journal of Sports Medicine.
• 【5】Kibler, W.B., et al. (2013). “Biomechanical analysis of the shoulder during tennis activities.” Clinical Sports Medicine.