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コンプラ強化時代の1980年代後半にスタートした『志村けんのバカ殿様』
『志村けんのバカ殿様』は、ザ・ドリフターズのメンバーである志村けんが扮するバカな殿様を主役としたお笑い番組である。バカ殿様は歌舞伎「一条大蔵譚」のパロディとなっており、名前通りバカで、破天荒な性格の殿様。装束は殿様らしいが、顔は真っ白で口紅を塗った能面の小面のような顔をしており、ちょんまげをしている。 下ネタ・イタズラが大好きで、城内にもからくりをたくさん仕掛けている。また、超音痴(本人も自覚あり)でもあり、宴会で吉幾三の「雪国」を歌ったところ宴会場が半壊した事がある。
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元々は、 『8時だョ!全員集合』で放送されたコントであり、同時期に『ドリフ大爆笑』でもコントを行った。ザ・ドリフターズのリーダーで絶対的な権力を持っているいかりや長介と、最年少でいかりやに普段いいように使われている志村けんの立場を逆転させ、志村が演じる自由奔放なバカ殿が家老のいかりやをここぞとばかりに翻弄するという下剋上コントだった。
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1986年4月、『志村けんのバカ殿様』として『月曜ドラマランド』枠で初めて独立した番組となり、当初はいかりや仲本の代わりに東 八郎と田代まさしをレギュラーに、石野陽子らを腰元に迎え時代劇風のお笑い番組としてスタートした。ザ・ドリフターズの志村けんの冠番組で単発の特別番組として年3回、1月(年始)、春の改編期および夏の改編期(傑作選)、秋の改編期に放送される。
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当時、数多く放送されていた志村のコント番組の中では最もお色気要素の強い番組というイメージがあり、いわゆる“お色気ネタ”も放送されることが多かった。これは時代劇のドラマで女性の裸や濡れ場のシーンが出てくるのを参考にしたもので、志村けんのバカ殿様は時代劇の設定のお笑い番組で殿のイタズラによって城内で様々な出来事が起こり、その中で裸の女性が出てきて笑いを誘うという(オチ)時代劇の要素をお笑いに置き換えたものである。しかし、こうした放送内容について放送開始当初から「下品・低俗・不快」といった批判を受けていた。また、女性の裸だけでなく、志村けんも含む男性タレントの裸も放送されることがあった。
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2012年まで行われていた日本PTA全国協議会が主催するの「親が子どもに見せたくない番組」では1990年代から調査が終了した2013年まで毎回のように上位に拳がっていた。そのため、かつての様な胸の露出を含むお色気ネタは次第に廃止されていき、末期は露出が最小限に抑えられたお色気シーンが時折見られる程度になった。お色気的表現が最小限に抑えられた場合でも非難を受けることもあり、2019年の放送では「眠れないバカ殿が水着女性の“肉布団”を味わう」というコントを放送し、物議を醸した。この番組がスタートした1986年と言えば、前年の1985年に中曽根政権によって深夜のお色気番組の自主規制が厳しくなり、1990年代になると深夜のみならずゴールデンタイムの時間帯でも暴力表現、性的表現に対する風当たりが強くなった時代である。テレビ番組へのコンプライアンスはこの時期から既に始まっていたのです。ではここでもう一度、1980年代の地上波放送の自主規制 = コンプライアンスを振り返ってみましょう。
⬛1985年度 日本民間放送連盟の放送基準(性表現 5項目)
・(70)性に関する事柄は、視聴者に困惑・嫌悪の感じを抱かせないように注意する。
・(71)性衛生や性病に関する事柄は、医学上、衛生上、教育上必要な場合のほかは取り扱わない。
・(72)一般作品はもちろんのこと、たとえ芸術作品でも過度に官能的刺激を与えないように注意する。
・(73)性的犯罪や変態性欲・性的倒錯などの取り扱いは特に注意する。
※性的犯罪や変態性欲および性的倒錯は倫理的社会的見地から特に注意する。
・(74)全裸は原則として取り扱わない。肉体の一部を表現する時は、下品・卑わいの感を与えないように特に注意する。
※全裸は、それだけですでに視聴者の強い関心をひくものであり、その描写のいかんによっては、たとえ芸術作品でも、下品、卑猥の感を与えないとは限らない。現状では、まだヌードが家庭生活の中に定着しているとは言えない。このような社会的背景から見ても全裸を無造作に扱うことは避けるべきであり、また肉体の一部でも、乳房、でん部、ももなどの描写については、おのずから限界がある。
・(75)出演者の言葉・動作・姿勢・衣装などによって、卑わいな感じを与えないように注意する。
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当時、地上波で性、お色気、裸体を扱い場合はこういった基準が定められていました。ただし、必ずしも裸を放送してはいけないという事ではなく、放送基準をちゃんと厳守した上で放送する場合は問題ないとされている。1980年代 ‐ 1990年は、インターネットやSNSといったメディアがまだ普及していなかったため(パソコンやネット自体は既にあったが一般家庭にはまだ普及していなかった)、情報弱者が多く、特に放送当時に子供だった人たちはテレビには規制があることを知らずに育った人が圧倒的に多い。そもそもテレビは放送基準というルールや制約がなければ放送できないものなので本当に昭和のころに規制が無かったとしたら今頃、テレビというメディアは国から電波を与えられなくなり、無くなっていたでしょう。テレビは規制があるからこそ、現代までに生き残ることができたのです。
⬛志村けんのバカ殿様からお色気が消えた理由 / その他
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1.殿様や時代劇という設定が古すぎて今の時代に合わなくなった
昭和の頃まではまだテレビで時代劇がよく放送されており、馴染みがあるジャンルであったが、平成以降、そういったドラマが徐々に減少。殿様のいない現代、時代劇もやっていない時代にこういった設定の番組はあまり好まれなくなり、以前に比べて大きな人気は得られなくなってきているのでしょう。また腰元というのも現代では少し分かりにくい存在かもしれませんね。
2.女性蔑視に繋がる可能性がある・テレビに洗脳される
大人が視聴する分にはあまり影響がないかもしれないが、子供がバカ殿のお色気コントを視聴してしまった場合、「テレビに出ている女はハダカになってればいい!」・「女の裸は面白い!」・「テレビは女の裸を見るものだ!」といったように幼少期や10代のうちから女性を笑いモノにしたり、女性の裸を道具のように扱うのがイイ!というような女性蔑視的な価値観を持ってしまう可能性があります。裸の放送がダメなのではなく、テレビというのは受動的なメディアであり、一方通行なので正しい性教育、性知識を得る前にふざけたバラエティのエロを見てしまうと誤った価値観、誤った性知識を植え付けられてしまいます。つまり志村けんのバカ殿様を含めて日本のお色気番組やエロを扱うバラエティ番組は、男性視聴者に女性差別的意識、女性蔑視的価値観を洗脳させるためのジャンルだったのです(戦後の男性優位の社会から誕生したジャンルだったことが影響している)。『昔はおっぱいとか放送してたのに今のテレビはつまらない』、『昭和の頃はエッチな番組とか女の裸がたくさん出てて面白かったけど、今はそういう番組がない、コンプラでつまらなくなった』とか未だに言ってる人がいますが、こういう人たちはモロにテレビに洗脳された世代の例です。
3.裸になっていた女性たちの権利関係の問題
お色気コントを放送していた時期の志村けんのバカ殿様は当時、フジテレビでエキストラを募集し、オーディションを通じて選抜された者が番組内で脱ぐ役を担当していた(一応、腰元の一員という設定)。お色気コントを撮影する際は基本的にリハーサルはなく、アドリブで撮影されていたため、周りの出演者もいつエキストラの人が脱ぐのかを知らなかったという。番組内でヌードや胸の露出をしていた女性たちは、ヌードモデル・AV女優・AV女優の卵(無名)・風俗嬢など様々な業種の人たちもいましたし、アルバイトのような感覚で出演する人やバカ殿様と並行して違うお色気バラエティに出演していたという人もいました。これらの女性たちはあくまで一時的な出演だったり、番組出演後に引退するケースも多く、そして30年以上経過した現在では当時の出演者はすべて一般人となっています。コントや番組の内容よりも出演者たちの肖像権、プライバシー権、個人情報などの事情もあり、本人に許可を得られない場合もあります。局側(フジテレビ)も過去のお色気コントの映像は2008年にDVD化したのを機に破棄してしまったようです。お色気コントの再放送等ができないのはコントがエロいからではなく、出演者の承諾が得られなくなってしまったことが原因です。