【ネタバレ】「ラストマイル」誰もがその人生において“主役”なのだと。
2024年8月23日公開の映画「ラストマイル」を観てきました。
本文はバリバリのネタバレを含んでいるため、ご注意ください。
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豪華すぎるシェアードユニバースムービー
ここで書くまでもないことだけど、本作はTBSのドラマ「アンナチュラル(2018年)」と「MIU404(2020年)」の世界観を踏襲しています。とにかく登場人物が豪華すぎて、果たしてこのメンツで内容がまとまるのか!?と思いました。思いましたよ。
だって、石原さとみに井浦新、市川実日子に窪田正孝、綾野剛に星野源、麻生久美子のスケジュールをおさえるだけじゃなくって、メインに満島ひかり、岡田将生、さらにディーン・フジオカ、阿部サダヲをもってくるなんて、どんなマジックを使っているの!?と思うじゃないですか(個人的には火野正平と宇野祥平が出るなんて最高すぎた)。
でも、観て一週間経った今でも心の中にずっと残っているくらい一人ひとりの人生がきちんと描かれていて、その人生に思いを馳せることができる映画でした。
エレナ(満島ひかり)一体何者なのか?
この作品、「物流」という社会の歯車にさまざまな人の人生を絡ませているのだけど、主たる人は満島ひかり演じる「舟渡エレナ」。
私は正直、最後までエレナという人物をつかむことができませんでした。
でも、歯車に巻き込まれ、心身を抉られ、ボロボロになりながらも立っている様子は、観ているうちに歯を食いしばってしまったくらいにキツかったです。
何かのインタビューを見ましたが、エレナのあの赤いコートやエルメスのバーキン、あらゆる指にはめている指輪は「あえて」そのようにしていたそう。それは本当に効果的で、ボロボロの心を武装しているかのように見えました。
最初のほうで、爆弾の予告動画を警察に通報するかどうか、というとき。NYの市場のことを気にかけている様子は、「あれ?この人はカイシャ側の人なの?(つまり、あまりいいひとではなさそう?)」と思いました。
でも、自身が爆弾に直面したときの様子から、意外に人間っぽいのかも?と見方が変わりました。
一番はジムでディーン・フジオカに対峙したとき。2枚の書類で会社にも大打撃を与えていた様は、地味に見えながらも痛快でした。あの構想はいつからしていたんだろう?
だからこそ、エレナは「何者なの?」と。心身を病んで休職までした人間が、ここまで動けるものなのかな?私自身、休職明けということもあり、その点は少しリアリティがなかったかもしれません。
あんなイケメンの社員いる?
岡田将生演じる梨本孔は、なんかちょっと社会に働くことに疲れた感じの社員(ブラック企業出身とのこと)。
途中、エレナの不審な様子を見て孔が会社のシステムをハックする…という描写がありましたが、前職でホワイトハッカーだったとのことで、「え、都合よすぎない!?」と思った人は私だけではないはず…。
でもいいんです。
イケメンだから。
なにやっても許される。
画面がもつ。
最後のシーン、重い重い、本当に負担の大きな荷物を背負わされた様子は、初めて「歯車の大きさが変わった重圧」を感じました。
ホワイトハッカーという出自にみえる「都合のよさ」を除けば、なんか物事に深入りしたくない若手の社員、という像がうまく描かれていたのかな、と思いました。
泣けるほうの阿部サダヲ
阿部サダヲには、笑えるほうと泣けるほうがいると思っています(笑えるほう代表は「謝罪の王様」とか)。
本作では「泣けるほう」の阿部サダヲでした。
配送会社の中間管理職として、会社からクライアント(主にエレナ)から叩きに叩かれ、この人死んじゃうんじゃないかと思うくらい、追い詰められていたところで、ストライキに転じたところは拍手喝采でした(エレナの発案だけど)。そして最後の、部長も社長もドライバーになります!と大声をあげたところ。スタンディングオベーションでした。日本の全中間管理職がそうだったんじゃないでしょうか。
(X線の機材を導入する際の手さばきからして、有能な人なんだろうな…と思いました。こんな上司がほしかった。)
号泣箇所はここだ「ダブルしょうへい」
個人的に宇野祥平が大好きで(「罪の声」の役は声が出なくなるくらい泣きました)、今回も楽しみにしていました。
その期待は裏切らなかった…!
務めていた電機メーカーがつぶれてしまい、父親(火野正平)と一緒に配送業を営む、息子。
自分たちが運んでいる荷物の中に爆弾が入っているかもしれない、そんな不安の中で、起きてしまった爆発。
息子が巻き込まれた。亘…!亘…!と駆け寄る父親は、無事だった息子を見て、思わず所長に掴みかかる。でも、そんな所長も爆発に巻き込まれた一人。即座にそのことを思い出し、「あんたも無事でよかったよ…」と所長を抱きしめる父親。一番の泣き所はここでした。
疲れすぎてるシングルマザー・安藤玉惠
安藤玉惠ほど、「不倫されたけど旦那からも女からも慰謝料をもらわず、毎日家事に追われ、子どもからは不満を言われ、実母からは戻ってこいといわれる四面楚歌のお母さん」がハマる俳優さんいます?
切羽詰まって、切羽詰まって、つい子どもに当たってしまう。でも、子どもの話を聞いて「ハッ」とする。ここで気づけるのなら、まだ大丈夫なんじゃないかな、といち観客は思いました。
何より、わけわからない(いや、配達の人だけど)人がわけわからない感じで押しかけてきたときの、あの子どもを守ろうとする姿。逃げろと言われて子どもを守りながら逃げる姿。この、最後の爆弾のシーンはいろんな登場人物の「守る姿」が印象的でした。
最大の泣き所・エンディング「がらくた」
私が最も泣いたところは、エンディング「がらくた」が流れたとき。私はあの曲は山崎佑と筧まりかを投影したものと思いながら聞いていました。
「僕のそばで生きていてよ」という部分が、すごく切なくて、この部分は山崎佑が目覚めたときに、すべてを知ってしまったときに思うことなのではと。
「Lemon」も「感電」も、作品に合った、聞くと大切なシーンが蘇るような素晴らしい曲ですが、この「がらくた」も同じく素晴らしいな、と。
ただ、ボツになったという1曲目も聞いてみたいのは私だけでしょうか。
この作品を通して、物流のシステムが抱える問題や、私のようなヘビーユーザーである生活者の対し方など思うところがすごく多くて、まずは置き配をセットするようにしよう…と。そういうことを、この作品を観た一人ひとりが行うことで、ちょっとは変化があるのかなと。そんな思いにさせるこの作品、影響力すごいなと思いました。
監督、脚本化、プロデューサーの3人が女性であることが重視されがちなのだけど、それが「普通」になればいいのにな、とも思いました。
<了>
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