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311のトラウマが日本を没落させる

 日本に帰国したのが3年前なのだが、その直後から延々とカナメとバトっている話題がある。

カナメ「あの東日本大震災で、すべて変わっちゃったんだよ。世の中全体でゼロリスクを求めるようになったのは。」

彼はあの震災が、もっと具体的に言えば原発事故そのものが、日本の津々浦々までゼロリスクを求めるようなメンタリティにしてしまったのだと言いたいらしい。

私「え?日本人がゼロリスクを求めるのって、今に始まったことじゃないやん。公園の遊具に事故があったら、すぐに使用禁止されて撤去されたのなんて、もう数十年前からやん。人間の命は地球より重いなんて、浅間山荘の頃から言われてたし。」

延々と平行線。

特に私の実家は大阪である。以前、震災後しばらく経って母とSkype経由で話をしたことがあったのだが、その時の母の言葉が印象的だった。

母「本当に大変なことだったと思うし、被害に遭われた方は気の毒だと思うけれど。でも大阪はちゃうねん。申し訳ないとは思うけど、普通の日常のまま。特に街に活気がないわけでもなく、物資が滞っていて手に入らないわけでもなく、全く以前と変わらへんねん。せやから日本全体がどんよりと暗いわけやない。」

なるほど。このあたりの話は、あまり世の中には知られていなかったかもしれないが、西日本に住む人にとっては、東日本大震災のトラウマというのは、それほど大きいものではないのである

それよりも前の阪神淡路大震災の方が影響が大きかったし、そのせいで地震に備える気持ちが徹底されるようになったので、それ以降の地震での家庭内の影響は相当に抑えられていたはずだ。すでにガラス扉の食器棚にはロックをつけていて、大型家具は固定されていたからだ。数年前の北大阪の地震でも、震源地に近い実家は無傷だったらしい。備えきっていたからだ。

それ以降も、大阪人の話を聞き、一時帰国では大阪に滞在していた私からすると、カナメの言う「日本全体が311でトラウマを受けて、一気にゼロリスク信仰に振れた」というのは、実感として当たらないと思っていたのだ。

少なくともそれは、西日本には当たらないのでは?

せやねん。関東エリアのムードが日本全体のムードを代表していると考えると、現実を見間違える。西日本は、東日本とは別の国かと思うほど、ムードが違ったりするのよ。なんか……….割と元気に見えるのよ。

カナメ「何言うてんねん、西日本の政治家もみんな原発やめるって言うてるやん。」

まぁ確かに、原発事故については、日本全体に影響があっただろうなとは思う。

カナメ「ようやく日本人も分かってきたんじゃない?自国の状況が。没落の一途を辿っていて、観光ビジネスくらいしか残っていない、かつてのタイ(日本の年金収入だけで、老後が安泰だと信じてタイに移住した高齢者がたくさんいた頃のイメージ)みたいな国に、日本はなるんだよ。」

ちなみに今のタイではない。かつてのタイ、ね。

私「うーん。よく分からないんだけど、日本の人口が減るっていうことは、すでに数十年前から予想できた未来で、それは震災があろうとなかろうと、人口なんざ増えたりしないんだから、経済的に後退する未来はどうしようもなかったんじゃないのかな。多少その時期が10年くらい前後するかもだけど。」

話をもとに戻すと、カナメは震災が日本人のメンタリティを変えたという立場に立ち、私は日本人のメンタリティは昔っから変わっていないという立場をとっている。

でも突然、カナメの言うことも一理あるなと思ったのだ。

カナメ「子供の遊具とか、そういう(ミクロな)話ではなくて、子供の命なんだから、そりゃ安全第一でしょう。それでもかつての日本はもっとリスク取ってたよ。いけると思ったら。だから経済成長もしたし。設備投資して、原発建てて、海外進出もした。」

私「え、その例って、もっと以前の話では?2010年頃の話じゃないよね。儲かってたら、設備投資するやろ、普通。」

カナメの話はザックリしすぎで、分かったような分からないような。まだ納得がいかない私。でもここで風向きが一気に変わる。

カナメ「でさ、じゃぁ仮に原発事故がなかったとするやん。そうしたら、例えばもうちょっと少子化対策で多少リスクがあるような政策でもやってみようという機運が出て、それが実現できる未来もあり得たわけよ。」

え。

そうかな?

確かに仮定の話だから分からないけど、たしかに可能性は残されていたかも。

カナメ「でもあの事故でさ。ちょっとのリスクも取れなくなったわけよ。世の中の日本人すべてが安全安心絆って言い始めて。安全はわかるよ。安全は。だけど安心ってなんだよ。絆ってなんだよ。そんな主観的なワードで、どうやって『安心』を規定できるんだよ。どこまでやっても少しでも不安があったら、もうやらないっていうメンタリティに、日本人すべてが陥っちゃったんだよ。

そこまで言われると、影響がなかったとは言えないわな。

カナメ「で、そのままコロナ禍突入で、同じようにゼロリスク求めて、日本はこうなっちゃったわけで。日本から新しい産業が生まれるわけないやん。こんなにリスク取らない人間ばっかりなんやから。」

カナメくん、めっちゃ怒ってる(汗)。

まぁ、若い人が夢を見られる社会であればと願うのがシニアの常。ってか、長い間海外にいる間に、なんで日本はこうなっちゃったのかと色々と何度も考えたのだけど、あの災害は、もともとあった内向きの日本人のメンタリティに最後のトドメを刺してしまったようなことはある。

さて。

この状況で何か突破口があるとすれば、それはその影響をあまり受けていない西日本が勝手に盛り上がって行くしかないのであーる。

で、多分東京にお住まいの方は、東京が日本の中心、いやいや心の中では世界の中心かもと感じているのかもしれないけれど、今の大阪がすごいことになっていることを、意外とご存知ないのよね。たしかに東京人からすると、地方都市が多少盛り返しても本店経済のある東京に、なにかの影響があるとは思えないだろうしね。

でも、めっちゃエネルギッシュで、まさにアジアの一大都市なのであーる。

もともとの大阪は、猥雑で下世話な街で、それがエネルギーの源だったんだけど、再開発でさらにモダンにスマートにカッコいい街に大変容していて、それを地元民たちは諸手を挙げて喜んでいる。

大阪市内の某区に住む何の特徴もない伯母の築古マンションの坪単価が、2016年あたりと比べると1.7倍くらいになっているのを見て、もう腰を抜かしそうになったよ。

世界中が笑ったかもしれない大阪の国際金融都市化構想も、信じて行動した人しか実現できないものである。

大阪には、ゼロリスクマインドなんて昔っからないし、今もない。

東京と一緒に心中する気はないから、西日本は西日本で元気にやっていこうぜ!


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