家計のバランスシートと人的資本
前回、こちらの記事で家計のバランスシートの会社との比較についてお話しました。今回は、家計のバランスシートについて深掘りして、人的資本についても触れたいと思います。
企業にとっての資産は、第一にお金(貨幣)、第二にお金で評価できる将来得られるお金です。将来得られるお金は、設備や土地など商品の生産に使われる「モノ」だったり、債券や株式などは将来利子や配当などのお金を受け取る「権利」だったりします。お金で評価できるというのは、貨幣(円)を尺度として評価でき、換金できるということで、将来のお金も現在の価値で評価して換金できます(現在価値)。一方、負債は、将来支払うお金(お金を支払う義務)です。
企業において、ソフトウェア開発でエンジニアに支払う給与をソフトウェア仮勘定として資産に計上したりします。そのソフトウェアは将来キャッシュフローを生み出します。また、企業では将来の退職金のための退職給付引当金を負債に計上したり、保険会社が将来の保険金支払いのために責任準備金を負債に計上したりします。
では、個人にとっての資産や負債とは何でしょうか。資産はもちろんお金です。ただ、将来得られるお金、すなわち、将来収入を稼ぐ自分自身も資産といえます。一方、負債は住宅ローンなど将来出ていくお金です。そして、将来消費にお金を使う自分自身も負債の性質を持っています。
自分を資産と言ったり、負債と言ったりするのは違和感があるかもしれません。食べたり笑ったりして生きている自分と経済主体としての自分は切り離して考えるのが良いです。経済主体としての自分は資産であり負債です。
経済学では、人間を資産と捉えたり、資本と捉えて分析することがあります。その際、人的資産とか人的資本などといったりします。人的資本の研究では、経済学者ゲイリー・ベッカーが有名です。
財務諸表に載るのは金融資産であったり、資産価値評価しやすい資産です。住宅ローンは将来の返済額が決まっています。保険は払込保険料や解約返戻金で考えることができます。
将来の収入を人的資産として価値評価したり、将来の支出を人的負債として価値評価するのは、金融資産と比べて難しいもののある程度推定することはできそうです。
例えば収入は家計調査などから年齢ごとの年収上昇率がおよそ分かるので、現在の年収から将来の収入を推定できます。「なくなる仕事」やリスキリングなど言われますが、多くの日本企業は今しばらくは年功序列型の給与が続きそうで、比較的推定から外れにくいと思われます。一方、プログラミングスキルや会計スキルなどの専門スキルを身につけることは将来給与向上に寄与し、将来給与キャッシュフローの現在価値である人的資産を増加させます。
また、将来の消費は負債の性質があり、例えば食費はほぼ必ず毎月かかる費用です。レストランでの外食など贅沢費用を除けば、将来の一人あたりの食費はある程度はばらつきが少なく推定できそうです。将来の結婚資金や旅行のための準備資金を、退職給付引当金や責任準備金のように、ライフイベント準備金や旅行準備金として計上し資産側を預金などで用意することで、金融負債の住宅ローンなどに限らず、家計をマネジメントしやすくなります。まさに会社経営のバランスシートのマネジメントのように。
人的資本を考慮した家計のバランスシートのマネジメントにおいて、人的資産や人的負債の推定精度を高めるには将来給与、将来食費、将来ライフイベント準備金など各勘定科目ごとの特徴に合わせて考える必要があったり、状況変化で推定が当てにならなくなることも起こりうるので推定の定期的な見直しといったことは重要ですが、その点はおいおい記事にしたいと思います。
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