#02 メタボ解消がきっかけで栄養療法と出会う
~過去投稿はマガジンから~
そんな折、藤川院長は薬による対症療法から、
完治を目指す栄養療法の発想へと大きく舵かじを切るきっかけとなる、
糖質制限療法を知ることになった。
「勤務医時代は通勤や病棟を行き来するなど、意識せずとも適度に運動をしていました。
しかし開業以降、診察室にいる時間が長くなり、運動量が一気に減りました。
その結果、体重は7キロ増え、γ-GTPも中性脂肪も上昇、すっかりメタボ体質になってしまいました。
ジョギングをするなど意識的にメタボ改善に取り組みましたが、思うような効果が出ません。
そんな時、京都の高雄病院の江部康二先生が推奨する糖質制限療法を知り、実践してみたのです。
肉、魚、卵を中心とする生活に変えると、
半年で体重は10キロ減、γ-GTPも中性脂肪も正常値に戻り、体も頭もすっきりしました」
藤川院長は自分自身の変化を見て、江部氏の糖質制限は効果ありと実感、
関連書籍を読み漁あさった。
その過程で、それまで藤川院長があまり関心を持っていなかった、三石巌氏(物理学者、故人)や溝口徹氏(新宿溝口クリニック院長)の分子栄養学についての書籍を読破した。
「内科であればともかく、精神科の医師の多くは栄養学や栄養療法とは離れたところで患者を診察しています。
精神医学の教科書には食事のことなどいっさい書いてありませんし、そもそも医学部の学生は栄養学などほとんど教わらずに医師になっています。
私もその例外ではなかったので、三石先生や溝口先生の書籍を読むと、まさに目からウロコが落ちる思いでした」
藤川院長の分子栄養学の研究は、日本の文献にとどまらず、海外から書籍を取り寄せ、診察の合間を縫ってこれも読破していった。
「海外の文献を読み進むうちに、分子栄養学の見地からすると、
精神科治療においてもタンパク質不足や鉄不足を改善することが重要で、
そうすれば寛解ではなく完治につながるという確信を持つようになったのです」
日本の医学は、「栄養は満たされている」という前提で話が進んでいると、藤川院長は言う。
「栄養療法の価値に気づくまで、
私も栄養は満たされているという前提で患者を診察してきました。
現代は食品ロスが問題になるほど食べ物は溢れている時代です。
しかし、量的に溢れるほど食べ物がある一方で、質的な栄養不足になっているのです」
具体的にこの状態を言えば、糖質過多、必須アミノ酸不足(タンパク不足)、必須脂肪酸不足、ビタミン不足、ミネラル不足という状態だ。
「私は、これが病気になりやすい心と体を作っていると考えたのです」
藤川院長は、うつやパニック障害とフェリチン値(鉄貯蔵タンパク値)の関係性を理解したうえで、クリニックを訪れる患者に血液検査を行い、
うつやパニック障害の人は著しくフェリチン値が低いことを確認した。
「ならばと思い、うつやパニック障害に悩む患者さんたちに、高タンパクで低糖質な食事と鉄剤を摂ることをすすめました。
すると、驚くほどの改善が見られたのです」
こうした患者の変化に手応えを感じた藤川院長は、
クリニック開院の4年後、2012年の4月から、
栄養療法を取り入れた治療を本格的にスタートさせることになった。
※本コンテンツはCOCORO 23号をもとに再構成しています
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著者プロフィール
藤川 徳美(ふじかわ とくみ)
ふじかわ心療内科クリニック院長医学博士
1960年、広島県生まれ。1984年、広島大学医学部卒業。
広島大学医学部附属病院精神神経科、県立広島病院精神神経科、国立病院機構賀茂精神医療センター等に勤務。
うつ病の薬理・画像研究やMRIを用いた老年期うつ病研究を行い、
老年発症のうつ病には微小脳梗塞が多いことを世界に先駆けて発見する。
2008年、広島県廿日市市に「ふじかわ心療内科クリニック」を開院。
気分障害、不安障害、睡眠障害、ストレス性疾患、認知症などの治療にあたっている。
著書に、『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』(光文社新書)、
『分子栄養学による治療、症例集』(NextPublishingAuthors Press)がある。