人はそんなに変わってないんだろうな(世阿弥『風姿花伝』今こそ名著版)
「能」、「世阿弥」、「風姿花伝」と聞いても、日本史で勉強した程度の人は多いと思う。
かくいう私もその一人だ。
『風姿花伝』は能の大家である世阿弥が書いた「能の奥義書」と言えるものだ。
彼の経験や父である観阿弥からの教えを基に、能との向き合い方、上手くなるコツ、弟子の育て方などといったことが簡潔に書かれている。
本書は今回初めて読んだのだが、こんなにも現代に通じる内容なのかと驚いた。
「生業」や「仕事」ひいては生き方の要諦は700年以上前でも変わらない。
これを知ることができたのは、今回大きな発見だった。
例えばこういったことが書いてある。
「この一時の花を本当の花と勘違いしてしまう心こそ、真実の花から遠ざけてしまうのである」(第一 年来稽古条々)
若い頃に自惚た結果、伸び悩んでしまう。スポーツでよく聞く話だし、仕事においても気をつけるべきことだ。
「だから、花を知ろうと思ったら、まず種のなんたるかを知るべきだ。花は心の工夫で咲かせるもので、種はその工夫を可能にする稽古のことなのである」(第三 問答条々)
基礎を疎かにしては、小手先で結果は出せても、本当に良い結果は生まれない。
世阿弥は能において表に出て観客を魅了する様を「花」と表現している。
これは仕事においては「打ち手の鮮やかさ」と言えるものではないだろうか。
仕事の成果ではなくプロセスの鮮やかさ。
同じ成果でも、鮮やかさの違いで手に入る経験値は変わる。
より鮮やかに成果を出すためには、準備や勉強、経験が必要となる。
そのためには、仕事に対して誠実に向き合う姿勢がまず大事だ。
こういったことが「花」という比喩を用いて簡潔にまとめられている。
もちろん本書の内容は仕事だけではなく、すべての物事への向き合い方とも考えることができる。
結局、なにかを突き詰めるために必要なものは、どんなに昔であろうがそのプロセスは変わらない。
日本の古典が今に通じることが単純にうれしかった。
人間何百年たっても変らない、とも言えるけど。
こちらの本はかなり分かりやすい現代語訳にしてあってスラスラ読むことができた。
こういう本が入り口になって、文学以外の古典を読む人が増えるのは良いなぁと思う。
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