発酵で知る日本の奥深さ(小倉ヒラク『日本発酵紀行』)
読んでいてなぜか懐かしさを覚える、そんな本だった。
『日本発酵紀行』は発酵デザイナーである小倉ヒラク氏が実際に47都道府県を巡って、その地の発酵食品と出会った記録だ。
発酵食品は日本では身近な食べ物。
お味噌汁、お漬物、納豆などはごく自然に毎日の食卓に並ぶ。
そしてそのバリエーションは非常に豊富で、お味噌一つとっても、赤味噌、白味噌、八丁味噌など地域によってかなり違う。
食品の違いは生活の違い。
日本は海に囲まれ、山が多く、島も多い。
また南北に長いため、その土地土地で気候はかなり違う。
その風土の違いが様々な食品を生み出してきた。
そして保存食としての役割も果たしてきた発酵食品は、その影響をもろに受けている。
大量生産品にあふれた現代においては、それらは地域にだけ存在するマイノリティだ。
でもだからそ、地域の色が濃く残っている。
そんな各地の食品について、作り方だけでなく、風土、歴史について分かりやすく解説されているので、背景が自然と知識として入ってくる。
どの食品も、こんなにも土地の特性を生かして作っているのかと驚くことばかり。
そして細かい描写と著者の心の叫び(実際に発せられている気がする)によって、全ての食品が美味しそうなのだ。(本当に全て美味しいんだと思う)
私の地元でいうと、京都大原のしば漬けが紹介されていた。
本文にもあるが、スーパーに並ぶしば漬けとは全く別物。ぜひ一度食べて見てほしい。(私はお茶漬けと食べるのが好き)
丁寧な説明は読者を想像の世界に引き込んでいく。
著者が食べた発酵食品の味
発酵食品が作られる風景
その土地の景色
日本は本当に奥深い場所だと、この本は教えてくれる。
車が普及し、電車も飛行機も発達した。電波に乗ってどこの情報も簡単に手に入る現代。
私が生きているこの数十年だけでも世の中の均質化は進んでいる。
それは効率化を生み出し、物質的な豊かさのようなものを手に入れた。
でも
行き過ぎた利便性や効率化によるトレードオフとして、失われる文化がある。
冒頭に懐かしさを覚えたと書いたが、理由はきっと私の中で失われつつある(少なくとも忘れつつあった)、子供の頃何気なくそばにあった景色を見せてもらったからなのかもしれない。
もっともっと日本を好きになる、そんな一冊だ。
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本書には、紹介されている各地の様子を収めた写真の一部が挿入されている。
それはどれも、普段出会えない不思議な写真。
そんな写真たちをまとめた写真集が発売される。
著者が見た世界を再現するために、構成、印刷までこだわり抜かれた写真集。
本書を読んで写真集を開けば、その世界観にどっぷり浸かれるはず。
こちらもぜひお手に取ってみてほしいと思う。
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