★多様性を語るとき、“汚言症”を知る。
〈汚言症〉を知っていますか?
私はつい先週までまったく知りませんでした。
チック症という病気の症状の一つで、「ちんこ」や「まんこ」などの卑猥語や「ばか」や「死ね」などの罵倒語、Wikipediaには〈汚言、醜語、糞語、猥言、猥語〉と書かれていましたが、これらを思ってもいないのに不随意的に発する症状をいうそうです。
皆さんは町中で、そういう人に会ったことがありませんか?
もう少し丁寧に説明すると、チック症には大きく〈運動チック〉と〈音声チック〉の2つがあり、以下のように分けられるそうです。
【運動チック】
顔面、首、肩の収縮、まばたきや首振り、うなずきに口のゆがみ、複雑なものは拍手、ジャンプ、四肢の屈伸など、バリエーションは数え切れず、多種多様な身体の不随意的動きが起きる
【音声チック】
・汚言症:卑猥語や罵倒語を発言する
・反響言語:他人の言った言葉を繰り返す
・反復言語:無意味な言語や同音声、同単語を繰り返す
これら両症状が1年以上持続して発症している状態を〈トゥレット症候群〉というそうです。
私にはノンストップでしゃっくりが出続けているように感じますし、きっと熟睡もできてないのではないでしょうか。
これらの症状を調べれば調べるほど知れば知るほど、当事者の苦しみや悲しみははかり知れないと感じました。
それと同時に、絶望的な気持ちにも襲われています。
私は幼少期を、ソニー、ホンダ、オムロンなどが興した〈太陽の家〉という障がい者の自立支援のための施設が並ぶコミュティの中で育ちました。
そのコミュニティではそれらの会社の工場で部品を製造する人たちもいましたし、スーパーマーケットのレジ係、銀行の窓口にも車いすの方や脳性マヒの方々も働いていました。私はバスケットボールが好きだったので、その中の体育館で車いすバスケットの練習を覗いていたこともあります。
ところが今日書いている〈トゥレット症候群〉の人たちと、これまで何度も人生で対面することがあったのに、私は思い切り彼らを拒絶し、怖がってきたと思います。
この病気を持つ方々がたくさんYouTubeで発信してくれていて、私もそこでたまたま知ったのです。皆さんもご覧になってみてください。
私はもっと早く知りたかった。なぜなら私は彼らとすれ違うとき、大きく距離を取ってきたし、電車の中では車両を移動したこともありました。
ということは、私はどれほどの人を傷つけてしまってきたのだろうかと恥じていて、懺悔の気持ちでいっぱいなのです。
彼らはしたくないのに、してはいけないことをしてしまう。はた目には精神疾患を患っているようで、周囲の人は危害を加えられるのではないかと考え、離れてしまうのだと思います。でもそれは間違いでした。彼らから遠ざかる行為が、どれほど彼らを苦しませてしまったことでしょう。
驚いたことに、現在これらの病気のワードを検索してヒットする受診科は心療内科・精神科などこころの病院がほとんどで、脳神経外科は上位に来ないのです。当の医者らの間でも、まだ情報のアップデートができていないのかも知れません。
精神科領域で診察されることが比較的多い病気であるため、精神病の一種なのではないかという見方もありましたが、科学的な知見が蓄積され、現在では誤解であることがわかってきました。
しかし、これまでよくわかっていなかったごく稀な病気であることから、トゥレット症候群というと精神症状を持っているのではないかといった誤解は未だに多く、そのことが診療上の問題となっています。
出典:MedicalNote(奈良医療センター機能的脳神経外科)
治療方法としては、服薬か、脳深部刺激療法(DBS: Deep Brain Stimulation)といって、頭蓋骨に穴を開け、脳の深部にある大脳基底核と呼ばれる部分に電極を埋め込み、微弱な電流で脳神経を刺激する手術もあるのだそうです。既にパーキンソン病やてんかんなどの疾患でも行われている手術で有効性が認められているようです。
ただ、我が国でも手術の実績はあるものの、手術可能な施設そのものがまだまだ少ないそうなのです。
この疾患を持つ患者らにも心があるし、言いたくないのに言ってしまう、動きたくないのに動いてしまい、傷つけたくないのに傷つけてしまう。
そのことを理解したからには、今後は彼らの心の痛みをこれ以上大きくしないようにしたいです。
多様性を語るとき、私たちが想像している範囲がまだまだ限定的なのだと思い知りました。私たちの身近には、まだまだ忘れられている人たちが、声を上げられずに潜在化していると思います。
私が観たYouTubeで、最も強烈な印象を残したのがこちらのドキュメンタリーです。〈トゥレット症候群〉の中でも最もひどい症例です。英語ですが、日本でも個人で手術の紹介をしてくださっている方がいるので、ぜひ調べてご覧になってみてください。
こちらは彼女が成人して、再び〈トゥレット症候群〉の症状が出てきたものの、大がかりな治療をせず、自分のキャリアを積むことに努力されています。
彼女は多くの人に理解され、すべてではないかも知れませんが、自らの望むものが手に入れられている数少ない幸福な例かも知れません。