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「星を継ぐもの」シリーズ3部作を読んだ感想メモ

「星を継ぐもの」(J.Pホーガン/創元文庫)のシリーズ3作を読み通したネタバレあり感想メモです。いつか再読するだろう自分のためのメモでもあるので、物語りの概要みたいになっています。
 まずは、超有名作なのにあらすじも知らず、レビューも読まず、ほぼ何の情報も入れないで読めたことをありがたいなと思います。3部までの小説は1年以上かけてゆっくりと読み、星野之宣版コミカライズを2日間で読みました。

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 月面で発見された宇宙服を着た男は5万年前に死亡していた…から始まる科学ミステリ。その男チャーリーの正体と死の謎に迫る中、木星の衛星ガニメデで2500年前の異星人の宇宙船が発見され、チャーリーの謎は太陽系そのものの謎にも発展していく。
 2500万年前の地球の生き物を積んだその船の目的は?異星人はいったい何者なのか。彼ら「巨人」とのファーストコンタクトを果たした人類はどう対峙していくのか。
 登場する陣営を把握するのがややこしかった。とくに「巨人たちの星」が。本にもうちょっと詳しい登場人物表と勢力図や年表などあるとありがたいのにな~とか思いながら読んでいた。まあ、世界の様相を明らかにしていくミステリだから、そこを読み取る楽しさがあるんだけど。というわけで以下自分なりに整頓してみる。
 以下はネタバレ満載
 ・地球人… 太陽系第三惑星の現行人類。武器を捨て戦争を放棄し、国連のもとで平和な世界を築く。宇宙開発に若者の情熱を向ける。
 ・テューリアン巨人… 太古の昔、木星と火星の間の惑星ミネルヴァで進化した知的生命体。ミネルヴァの環境が合わなくなったため、ジャイスター系のテュリオスという惑星に移住している。
 ・シャピアロン巨人… 2500万年前恒星イスカリスの実験事故から脱出した船の乗組員たち。不運なウラシマ効果により、彼らの航海は体感20年だが、外の世界では2500万年が過ぎていた。ひぇ~
 ・ルナリアン… 月の裏側で発見された5万年前の人類。猿人の時に巨人によって地球からミネルヴァに運ばれ、そこで進化した。5万年前、赤い宇宙服のチャーリーと青い重装備の宇宙服で「巨人」と表される僚友コリエルは月面基地ゴーダに向かっていたが、チャーリーは途中で力尽きる。コリエルは他の生き残りと合流し、テューリアン巨人に助けられ、地球へ降り立った。
 ・セリアン… 巨人が生体実験を施した漸新世(約2500万年前)の地球産の猿人が、ミネルヴァに放置された後、進化した人類。5万年前のランビアンとの大戦争の後、月面で生き残っていたコリエルら少数が巨人の助けで地球へ移住した。その後彼らは地球で繁殖し現行人類となる。(コミカライズでは地上に降りたのは男性だけで、その中のコリエルらが原生地球人を導く姿も描かれる)
 ・ランビアン…巨人が生体実験を施した地球産の猿人が、ミネルヴァに放置された後、進化した人類。セリアンとの大戦争の後、月面で生き残った者たちが巨人の助けでジャイスター系の惑星ジェヴレンに移住した。
 ・ジェヴレン人…かつてミネルヴァでランビアンと呼ばれ、セリアンとの大戦争を起こした人類。ジェヴレン星に移住し、地球を監視して定期的にテューリアン巨人へ報告する役割を与えられている。ジェヴレン人の首相ブローヒリオはテューリアンに反抗するため策謀をめぐらすが、その作戦は地球人やシャピアロン号の巨人らによって暴かれる。ダンチェッカー教授のアイデアに基づいた対抗措置によって、ブローヒリオら5隻の宇宙艦隊はブラックホールワープに失敗し、過去のミネルヴァ付近にタイムスリップしてしまう。ブローヒリオらはミネルヴァの勢力の片方ランビアンとなり、戦乱をもたらす原因となる。(コミカライズではブローヒリオ艦隊はブラックホールワープの失敗で5万年前のミネルヴァに突っ込み、惑星を直接破壊した原因として描かれる)

▶科学と神
 SFだから当然なんだろうけど、提示された謎を科学的論理的思考をもって考察する部分は読んでいて楽しい。生物進化についてのダンチェッカー教授の冷静さや、チャーリーの手帳を解読する言語班のマドスン博士の解析力、各方面の分析結果を総合して柔軟に流れを見極めようとするハント博士。いいよね~
 三作目「巨人たちの星」の、アメリカの国連代表カレン・ヘラーの演説が印象深かった。科学に対する影の部分として迷信や宗教、魔術などが挙げられていた。彼女はそれらは人類の科学的な興味を阻害するものだと言う。そして非科学的な文化が地球人類に蔓延ったのは、かつて対立したセリアン陣営への憎しみから、その末裔である人類の進歩を遅らせるために、ランビアン(ジェヴレン人)が仕組んだ歴史干渉の陰謀であったと… ええっ?!気が長いなランビアン…というツッコミはさておき、人類の歴史が操作されたものであった、とか、古代文明や伝説物語は陰謀による結果だった…というのには、なんだか人間の文化や豊かな想像力を否定されたような気にはなったな。
 けれど最近の現実世界でも見られた、非科学的な宗教指導を頑なに実行する人間や、コロナワクチンの陰謀説がしつこく残ってるのとか見ると、あーやっぱり科学と科学的思考は光、ライトサイドだなあ…とか思う。
 そして「外部からの操作」という設定。SFの定番だし面白いと思う。だけどそこには、科学的な考察で否定し続けなきゃならないくらい強く、「神」や「創造主」や「上位者」の存在が欧米人に根付いていることを感じさせる。ヘラーの強い言い方に、進化生物学者のリチャード・ドーキンス先生の攻撃的なまでの宗教と創造論の否定を思い出したりしていた。
 人類を実験対象として操作した巨人たちには「上位的存在」のイメージもある。彼らが人類の果敢さを認めて地球人類は「星を継ぐもの」にふさわしいと賞賛するところで、わたしの大好きな「戦闘妖精・雪風アンブロークンアロー」のアメリカ人のクーリィ准将が「父」という上位的存在に自分を認めさせたいと思っていた、という話も思い出してた。神と人もそういう関係なのかな。

▶太陽系のロマン
 火星と木星の間の小惑星帯が、元は月を持つ惑星ミネルヴァだった!というのはワクワクする話だった。破壊されたミネルヴァの一部が冥王星になり、その月がなんと地球にやってきて、そのまま地球の衛星になった…とかロマン~☆
 でも、たった5万年前まで地球に月が無かった…ことになっちゃったから、コミカライズで強風に適した進化をした恐竜の話に、わー、えっ?本気で?ロマン〜となった。実際のところ仮定としてどうなんだろ。
 わたしは月の誕生は、有機生物誕生前の初期の地球に小惑星が衝突してふたつに分かれた、という兄弟説を信じる派です。
 異星の巨人たちテューリアンの進化も興味深かった。争いを好まず穏やかで知的な巨人たちの性質が、怪我ができない自家中毒体質の生物だったから…という理由はおもしろかった。テューリアンのカラザ―たち現行巨人と、2500万年前のシャピアロン号のガルースたちの外見がすこし違っていることも描かれていて、彼らの進化はゆっくりなのかな…とか、寿命はかなり長そうだな…とかいろいろ想像したり。

▶戦争のない世界と罪の子
 小説の舞台は21世紀2028年。今2024年。もうすぐなんだよね~。現実を見ると悲しくなる。小説の地球世界では、人類は戦争を放棄し武器を捨て、貧困を絶ち、科学と合理性に満ちた世界を築いている。若者の活力は争いではなく宇宙への探索に向けられている。…夢で終わらせないでと願いたい。
 「星を継ぐもの」シリーズは、巨人たちが古代の地球から動物とともに猿人を連れ出し、それに施した生体実験の成れの果てが人類の祖だった~!という衝撃的なお話である。与えられた酵素によって進化は速くなったが攻撃性を増した人類の祖は木星と火星の間にあった惑星ミネルヴァでセリアンとランビアンの陣営に分かれて星を破壊するほどの大戦争を起こす。その生き残りがミネルヴァの月に居たルナリアンで、故郷ミネルヴァを失った彼らは、巨人たちの助けで少数のセリアンが地球に、多数のランビアンは別の惑星へと移住した。
 人類の好戦的な理由が、実験で投与された酵素にあった…というのも、へぇ~だったなあ。もうその酵素の力は薄れていて、今の人類にはなくなっているらしい。巨人たちの罪の子の末裔である人類は、巨人たちに見捨てられても自らの力で立ち、ダンチェッカー博士いわく「自分たちの運命と立派に対決できるのだということを、人類は身をもって証した」(「ガニメデの優しい巨人」より)というわけだ。
 ところが、三作目「巨人たちの星」ではその武器を放棄して戦争を止めた人類…という状況すら、画策されたものであった。となるの、どうなの…面白かったからいいけど。
 武器を持たない地球人が、ランビアンの末裔であるジェヴレン人とどう戦うのか。ダンチェッカー博士の頭脳冴えわたる作戦は、相手が何より信頼する人工知性を騙すことだった!

▶人工知性コンピュータ
 2作目「ガニメデの優しい巨人」から登場する、巨人たちの進んだ科学が生んだAIは3体ある。
 2500万年前のシャピアロン号のコンピュータ「ゾラック」は船のコンピュータ。通訳をしたり交渉の緩衝役もする。イギリス空軍の映画を見てタリホー(パイロットが目視で敵を見つけた時に言う掛け声)って言ってみたりと、けっこうおちゃめな性格。
 ジェヴレン星に移住したランビアンが使っていたのが「ジェヴェックス」かつて敵対していたセリアンをなんとしても排除してやりたい、という攻撃的なプログラムを背景に持ち、長きにわたってジェヴレン人の政策に影響を与えてきた。
 そしてテューリアン巨人たちのスゴイコンピュータ「ヴィザー」どうやって動いてるかもわかんない、遠く離れたジャイスター系テュリオスと地球のハント博士らを、脳神経に作用するパーセプトロンという通信機でタイムラグなしに会話させたり、仮想空間でさまざまな映像を見せたり体験させたりできる。
 3部作の最後の作戦は「ジェヴェックス」をハッキングして欺瞞情報をブローヒリオらに流すことだった。AIのお告げを信じ切っていたブローヒリオは混乱し、わりとあっさり自滅した。

▶原作とコミカライズ
 絵の力ってすごいな!と思う。情報が多いし、絵で瞬時に理解できる事も多い。
 ハント博士は私の中でスタートレックのカーク船長だったのでカッコよくて良かった!ひげも好き。ダンチェッカー博士はタイムマシンを発明したドクなイメージだったけど、星野版の髪が少な目の博士、生物学者っぽくて好きだな!コールドウェルが女性になったのは良かったなと思う。これはあらかじめ聞いていた情報だったので、小説読んでいたときから、女性ぽいイメージもしていた。肝が据わっていて包容力あるっていうかね、そういうところ。スヴェレンセンが北欧の冷たい王子様みたいな見た目じゃなかったのは少し残念だったかも。初めからスヴェレンセンらジェヴレン人が、平和委員会という名の組織で登場しているのはわかり易くていいな、と思った。地球人類の祖となる生き残りのセリアンを率いた背高で大柄なコリエルは、小説と同じくカッコよくて、「巨人」のように賢く優しい人として描かれていたのはよかった。

 海外SFや古典をほとんど読んでないし、それらに影響受けた他の作品もよく知らない。科学の知識もあんまりないので、浅〜い感想メモなんだけど、この本が好き!とお勧めしてくださったいい予感がする図書伝道師様や、コミカライズもあるよ!と教えてくれたニューフロアーな友や、読む順番を教えてくださったMMDがカッコイイ雪風の先輩に感謝です!
 続編もあるという事でまた読んでみたいと思います。

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