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『竹中平蔵 市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』 (講談社文庫)佐々木実著 これほど酷いとは。想像を絶する。だからこそ必読。竹中平蔵を批判するなら、まず読もう。

 『竹中平蔵 市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』 (講談社文庫) (日本語) 文庫 – 2020/9/15

Amazon内容紹介
「日本でもっとも危険な男の物語。

この国を”超格差社会”に変えてしまった中心人物はこの男だった!
「改革」の名のもと、法律を駆使しながら、社会を次々と大胆に改造してしまう。まるで政商のように利にさとく、革新官僚のごとく政治家を操る経済学者ーー。「フェイク(偽物)の時代」に先駆けた“革命家”の等身大の姿とは。

経済学者、国会議員、企業経営者の顔を巧みに使い分け、「日本の構造改革」を20年にわたり推し進めてきた“剛腕”竹中平蔵。猛烈な野心と虚実相半ばする人生を、徹底した取材で描き切る、大宅壮一ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞ダブル受賞の傑作評伝」

 この本、あんまりひどく凄かったので、Facebookに二回、感想を書いている。読んでいる途中と、読み終わってから。その両方、noteに転載します。本当は、それプラスアルファ、ちょいと書きたかったこともあるが。これほどの心の闇が、どこからどう生まれたものか。


第一部 11月4日のFacebook投稿。

 まだ途中なので読み終わったら感想文は書くが、あまりに面白いので、途中なんだけど、おすすめ投稿します。竹中平蔵、予想を百倍上回るひどいすごい最悪すぎて笑ってしまう。


 この本、大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞しているし、著者が竹中から名誉毀損で訴えられてもいないから、内容はほぼまあ事実なんだと思う。まじでひどい。人の手柄を自分のものにして博士論文にしようとするは、いろんな場面で二股かける(例えば、森首相のブレーン集団を率いながら、森さんの演説原稿書きながら、当時、民主党首の鳩山由紀夫のブレーンにもなる、森が失脚しそうになると素早く小泉に取り入る)、嘘をつく裏で手を回す、まあ、良心のかけらもなく自分の野心に利用できるものも人も利用しつくす。その間、えげつなく蓄財する、金には死ぬほど汚い(住民税払わないために毎年、一月一日海外生活していることにして国内に住民票がない状態にしていたり。とか。)


 という個人としての下劣さもひどいけれど、自分が偉くなるための手段として、新自由主義に基づくアメリカの対日政策を、ときの政権にどんどん呑ませていくことで、売国というか、日本を徹底的に貧しくしたことの罪は、万死に値すると思う。(著者はこの点については、竹中平蔵の責任というより、時代の流れであり、それをいちばん、うまく自分のために利用したのが竹中平蔵だ、というように捉えているようだが。)


 わかったつもりで竹中平蔵批判している人、読むべし。絶対、思っているのの、知ってるつもりの、百倍ひどいから。こんなやつが。また、でかい顔して、菅政権のブレーンで、維新のブレーンで、いいのか。いいわけないだろう

第二部 11月9日のFacebook投稿
 この本のすごいところは、森喜朗さんのことも、麻生太郎さんのことも、竹中平蔵にやられちゃって竹中嫌いになるところを読んで、「森さん、いいやつだな、麻生さん、かわいいやん」と思ってしまうくらい、竹中平蔵がとんでもなく嫌な奴で悪い奴だということが伝わってくるところです。

 森喜朗さんは、本当はケインズ的な経済政策をしたかったのに、竹中平蔵の書いた原稿を読むことしかできず、新自由主義的政策を加速させる役割を演じさせられてしまいます。

引用〈首相補佐官だった中村によると、竹中が森首相に振り付けた「サプライサイド政策」は必ずしも森の考えに沿うものではなかったという。「竹中さんがもってきたものを拒否してはいないけれども、無理やり分類すれば森さんのもともとの考え方はケインズ的な政策。ただ、権力者というものは誰が政策案をもってきたかなんていう手の内は見られたくないんですよ。中川秀直を通じた竹中平蔵からのラインで結局、財務省の財政再建路線のほうに切り替えられていって、小泉政権につながっていくんです。(中略)首相として竹中をブレーンにした森喜朗だったけれども、実はその後、小泉が自民党総裁に就任して組閣準備を進めていた際、竹中を閣僚としては起用しないよう小泉にアドバイスしていた。〉

 麻生太郎さんは、小泉内閣の郵政民営化のとき、総務大臣(旧・郵政大臣だから、本来は麻生総務大臣の所轄事項なのに、竹中金融改革大臣が、郵政民営化を任されていた。)

引用〈それは「郵政民営化の基本方針」を決定する直前の出来事だった。当時、総務副大臣として麻生大臣に仕えていた自民党衆議院議員、山口俊一の証言。「小泉総理のもとに関係閣僚が集められたときでした。竹中大臣が突如、『四分社化案』をポーンと出してきたんですよ。小泉さんには根回ししていたようだった。『四分社化案』を見せられたとき、郵貯と簡保を潰す気なんだと思いましたね、竹中の狙いは明らかに金融を切り離すことにあった。このとき以来ですよ、麻生さんが『竹中嫌い』になるのは。」麻生は三事業一体化経営が可能な分社化案を用意していた。小泉にも報告していて、小泉の理解を得られていると思い込んでいたのである。副大臣の山口が竹中への不信感を口にしても、「基本的なところではそれほど考えは違わない」ととりあわなかった。ところが、小泉の目の前で、竹中から唐突に「四分社化案」なるものをつきつけられて、麻生は唖然とするほかなかった。しかも、小泉は躊躇なく竹中の金融分離案を全面支持した。麻生案など一顧だにされなかった。竹中が小泉のもとに通い入念に打ち合わせていた舞台裏を知らない麻生は、道化役を演じる惨めな立場に陥ったのである。〉


この件での麻生との争いは、麻生政権になってから、郵政民営化周辺の、鳩山邦夫総務大臣が問題にした、「かんぽの宿」疑惑(異常に安くオリックス不動産に売却しようとした事件)などの際に再燃して面白い。

再び引用
〈竹中に腹を立てた麻生は、しばしば竹中と衝突した。だが「小泉首相の意向」をちらつかせながら、竹中はその後も麻生の主張をことごとく退けて行った。苛立った麻生が「いつか仕返ししてやる」と子供じみた罵詈雑言を竹中に浴びせたことさえあった。その麻生がいま、最高権力者の椅子に座っているのだ。二月五日の衆議院予算委員会、「かんぽの宿」疑惑を質された麻生首相はかつて竹中にだまし討ちにされた「四分社化案」に疑問を投げかけるような答弁を始めた。「いま四つに分断した形が本当に効率としていいのかどうかというのは、もう一回見直すべきときに来ているのではないか」麻生は小泉政権時代の恨み話まで持ち出し、「小泉総理のもとに賛成じゃありませんでしたので、私の場合は」と口にし、竹中への意趣返しのような言葉を吐いた。「総務大臣だったんだけれども、郵政民営化担当から、私は反対だとわかっていたので、私だけは外されていましたから。郵政民営化担当大臣は竹中さんだったということだけは、これだけはぜひ記憶して、妙にぬれぎぬをかぶせられると、おれもはなはだ面白くないから。」〉


 子供の喧嘩みたいでしょ。竹中は小泉さんに泣きついて、小泉さんが麻生さんを脅して、鳩山総務大臣を更迭する、という、自民党内紛になったわけ。竹中平蔵、しょうもない。

 森さんや麻生さんをコケにしても、それが国民のため、日本のためになるなら全然かまわないが、これらの振る舞いは、全部、日本の国益、資産を、アメリカに叩き売る、まさに売国行為以外の何ものでもなかったのだから、本当に腹が立つこと。なかなかこの本について、「今、読んでいる」と報告してから、読み終わらなかったのは、怒りで、すぐに本を置いてしまうからなのである。郵政民営化については、ブッシュ(子)政権の利益のために、動いていたとしか、言いようがない。

 そして、構造改革、サプライサイドの政策(金融政策)ばかりを行って、財政出動を抑え続けたのは、合理的理由と言うより、政治的に自分が有利に立ち回るためだった。小泉政権下の、この政策的アンバランスが、日本だけが異常な低賃金にとどまり、この二十年間で、OECD各国の中で、異常な低成長と低賃金の国になる原因となった。少子化だって、若年層の賃金が異常に低い水準に固定化したことの結果であり、竹中平蔵の罪、限りなしと本気で思ってしまう。

 本書、最終版では、竹中平蔵の、経済学的には根拠薄弱な、政治的思惑、自分が政権に影響力を与え続けるための、その場しのぎの方策の連鎖が、結果として、日本経済、世界経済にどれほどマイナスの影響を与えたかを、詳しく解説していく。湾岸戦争を、実質、ファイナンスしたのが、日本の米国国債購入であり、それは、竹中政策の結果である。日本の超低金利でファイナンスされた莫大な資金は、米国に流入して、米国の住宅バブルの原動力になる。サブプライムローンの遠因は、竹中立案、小泉内閣の、構造改革を超低金利で支える日本の政策が遠因である、というFRB金融政策局長だったビンセント・ハートのNHK取材へのインタビューを紹介している。

 これだけ大きな害悪を日本経済、日本社会に与えた末に得た利益を、自分や身内、協力者がどのように姑息にも山分けしていったかで、竹中の所業についての記述は終わる。怒りで体調が悪くなる。

 そして、一番最後「おわりに」で、宇沢弘文の「近代経済学の課題」という文章を、まるまる紹介する。その中身が、こうした胸糞悪い竹中の所業に対する、根源的な批判となっているからである。竹中平蔵のようなインチキ学者と正反対の、世界の経済学界で真に認められ尊敬された学者の考えを対峙させる。

 竹中平蔵が、学者の肩書で、安倍政権で再び政権中枢に近づきながら、その一方、パソナ会長という肩書を得ていることを紹介して本書は終わる。そして、次作、宇沢弘文の評伝『資本主義と闘った男』に、著者、佐々木実氏の仕事はつながっていくのである。

 文庫本のあとがきに、著者が、竹中平蔵に複数回にわたってインタビューを申し込んだが、断られたことが書かれている。利用できる相手は利用するが、敵とは会おうとしない、まったく、竹中平蔵らしい振る舞いである。これだけのことを書かれても、著者を名誉棄損で訴えたりしていないところを見ると、書かれたことは、事実なんだろうと思う。


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