妻が、今朝、教えてくれた、昨夜のETV特集 「人類はこの危機を乗り切ることができるのか?」 ETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~」、すごかった。特に、ジャック・アタリ氏。

妻が、今朝、教えてくれた、昨夜のETV特集
「人類はこの危機を乗り切ることができるのか?」
ETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~」

歴史学者…ユヴァル・ノア・ハラリ,経済学者・思想家…ジャック・アタリ,政治学者…イアン・ブレマー,
【キャスター】道傳愛子

もう必見というか、見ない人とは話をしませんレベルで必見。と思ったが、オンデマンドにまだ上がっていないな。

NHKがこれを制作し放送するということが、どれほどの勇気あることか。NHKの、残された最後の良心が作った番組です。
そして、インタビュアーとしての道傳さんの、すばらしい仕事。

ハラリ氏、アタリ氏が、特に。本当に素晴らしい。
その中でも、ジャック・アタリ氏が、もう本当に素晴らしすぎる。妻はアタリじいさまに惚れてしまったと思う。心配。

オンデマンドで上がっていない。今のところ再放送も予定されていないので、大事なところの字幕を書き写し、文字おこししました。まずはハラリ氏パート。

「次の2か月から3か月の間に私たちは世界を根底から変える壮大な社会的・政治的実権を行うことになるでしょう。」
「この緊急事態において自由市場にだけ頼ることができないのは誰の目にも明らかです。一部の国は経済システムと雇用システムをより良いものに作り変えるいい機会となりうるでしょう。私たちは選択肢が数多くあることを理解すべきです。そしてそれらは政治的選択です。これは事前に決まっていることではありません。ウイルスが私たちに替わって決断するわけでもありません。それは政治家の仕事であり、政治家を監視する市民の仕事です。」
「メディアと一般の人たちはウイルスの流行にだけ関心を持つべきではないと言いたいです。「今日は感染者は何人だった」とか「病院に何台の人工呼吸器がある」といった話は重要ですが、政治状況にも焦点を当てるべきです。」
「全体主義的な体制が台頭する危険性があります。ハンガリーが良い例です。形式的にはハンガリーは民主国家ですがオルバン政権は独裁的ともいえる権力を握りました。それも無期限の独裁的権力です。緊急事態がいつ終わるかはオルバン首相が決めます。ほかの国にも同様の傾向があります。非常に危険です。通常、民主主義は平時には崩壊しません。崩壊するのは決まって緊急事態の時なのです。」
以下、番組VTR
また、ハラリ氏の母国イスラエルのネタニエフ首相の支持勢力が総選挙で過半数を割り、暫定首相になったネタニエフ氏は、感染防止対策を理由に野党が多数を占める議会の閉会を命じようとした。この動きに、ふだんは政治的発言をしないハラリ氏が政治的意見を表明。「コロナは民主主義を殺した。ネタニエフは選挙に敗れたのに立法府を閉じ市民に家に留まるよう緊急命令を発した。これは独裁政権だ。これにネタニエフの息子ヤイールが強く反発。「あなたは専門分野では尊敬されているかもしれないが政治に関しては完全に愚かだ。あなたは嘘つきだ。そしてあなたの国イスラエルを憎んでいる」結局、国民から大きな反発を受け、ネタニエフ氏は議会の閉鎖を断念した。
ハラリ氏インタビューつづき
「この時は非常に危険な瞬間でした。ウイルスの流行と戦うという口実を使った政治的クーデターでした。実際、首相は「議員の健康を守るために議会を閉鎖する」と言いました。とんでもない話です。幸いにも国民やメディア 対立する政党から大きな反発があって首相は閉鎖を撤回しました。いま議会は再開され、非常時を乗り切るための大連立工作が進んでいます。しかし一時はイスラエルがハンガリーのようなコロナ独裁国家になる危険もありました。コロナウイルスと戦うという口実の独裁制です。一人の人物に強大な権力を与えると、その人物が間違った時にもたらされる結果ははるかに重大なものになります。独裁者は効率が良いし迅速に行動できます。誰とも相談する必要がないからです。しかし間違いを犯して決して認めません。間違いを隠蔽します。メディアをコントロールしているので隠蔽するのが簡単だからです。ほかの手法を試すのでなく間違いをさらに重ねます。そして責任を他の人に転嫁します。そうやってますます権力を強化していきます。そしてさらに間違いを重ねていくのです。民主主義に大切なのは政府が間違いを起こしたときに自らそれを正すこと。そして政府が間違いを正そうとしない時に、政府を抑制する力を持つ別の権力が存在するということです。イスラエルでは1948年(第一次中東戦争)に出された緊急事態の宣言がまだ続いています。多くの緊急命令がいまだに法的に有効です。緊急措置が適用されるのは危機の間で、危機が去れはいつも通りに戻るものと思いがちですがそれは幻想です。緊急時だからこそ民主主義が必要です。チェック&バランスが維持されなければならない。」
道傳さん質問「イスラエルは緊急事態の時に情報をどう使っているのでしょうか。イスラエルは治安機関に監視技術の運用を容認していますね。」
ハラリ氏「大変憂慮すべき事態だと思います。特にそれを行っているのが治安機関だからです。私は監視を支持しますが、このタイプマ監視は警察や秘密警察に依存しないように神経をとがらせなければなりません。それは独立した保健部門の機関が実施すべきです。警察とのつながりのない機関です。」
番組説明VTR「新型コロナ感染拡大を防ぐため、イスラエル政府が利用したのがテロリストの行動を追跡するために国中に張り巡らした世界最先端の監視システム。感染者の携帯電話が保健省から警察に送られます。警察は位置情報から過去の行動履歴を割り出します。さらにその人物の近くにいた人々を割り出し、接触者を特定していきます。保健省が必要と判断すれば警察は接触者を収容し、隔離することもできるのです。」
ハラリ氏インタビュー。「私は監視に反対してはいません。むしろ感染拡大を食い止めるために新しい技術を利用することには賛成しています。しかし監視は政府だけではなく一般市民にも二つの方法で力を与えるべきだと思います。第一に私自身や他の人の身体の状態に関するデータを政府が集めて保管することは許されません。私には自分の健康状態に関するデータにアクセスする権利が与えられるべきです。私自身の健康管理についてよりよい判断を下すためにです。また自分の健康データにアクセスできれば政府が採用している政策が有効か否かを自分の身をもって試すことができます。これがイランのような全体主義国家だと死者の数や今回感染拡大に関して国が信用に足るデータを公表しているかどうかさえ国民は知る由もありません。データは透明性を確保されるべきです。そしてもうひとつ、政府の決定にも透明性がなければいけません。私は自国の政府の決定を監視できなくてはなりません。アメリカの交付金の分配状況を例にとりましょう。政府は先日2.2兆ドルの救済策を決めました。ではその交付金を受け取るのは誰でしょう。私がもしアメリカの市民権を持っていたら、こうした金がどこに行くのか。この金をもらえるのは誰で、もらえないのは誰なのかを監視する力が欲しいと思うでしょう。ですから監視は両方向であるべきです。これが市民が持つべき力です。このような情報にアクセスできれば市民はより大きな力を持つというわけです。」

道傳さん質問「あなたは人々のエンパワーについて話されました。今の状況は市民につきつけらけた試練だと思います。市民の側にはどのような行動が求められますか。何かを待っている余裕はないはずです。」

ハラリ氏
「確かにこのような状況では市民にも多くの責任が生じます。ひとつは情報や行動のレベルです。信ずるべき情報を慎重に吟味し科学に基づいた情報を信頼すること。そして科学的裏付けのあるガイドラインを実行すること。市民が科学的な指針に従えば、緊急時に独裁的に手法を取る必要が少なくなります。これは非常に重要です。私たち一人一人の務めは、現在の状況や誰を信じるべきかについて知識をつけ、大学や保健省など信頼に足る組織から出された指針を忠実に守り、陰謀論の罠に陥らないことです。この危機的状況の中で市民に課せられた2つ目の務めは、政治的状況に目を光らせておくということです。その決定に参加し政治家たちの行動を監視することがとても重要です。

ちょっとここだけ、僕の意見をはさんでしまいますね・
「科学的権威のことは信じて従え」と「政権のことは批判的に監視しろ」ということを言うが、日本の場合は「御用学者という科学的権威を独裁的政治権力が活用することでの間違ったコントロールのリスクがある」という、もうひとひねりした状況について、国民は意識しないといけないのである。「誰の情報を信じるか」「政府が隠蔽やごまかしをしようとしがちな独裁的傾向」「その政権が科学者、権威を利用する」場合、この、ハラリ氏の提言を、どう組み合わせて実行するか、日本国民は、なかなか難しい判断を、日々、迫られているのである。

この後、ハラリさんのインタビュー、結び部分は、この前のハラリ氏、日経投稿記事と同じ「世界が連帯し、科学を信頼すれば、乗り切れる。人類が進んだ種になれる。もし独裁や孤立を選べば悲惨なことになる。」というちょいときれいごとでしたので、割愛。あちらを読んでください。

きれいごと的なことでいえば、アタリ氏の方が、もっとかっこよかった。個性の違いですが、心に響くものがありました。世界が連帯するとは具体的にどういうことか、人類が進んだ種になるというのはどういうことか、よりポジティブかつ具体的な未来への提言をアタリ氏は語ってくれました。

が、ちょっと疲れたので、大事な後半パートだけ。

道傳さん質問
「緊急事態が民主主義に与えるインパクトについてお尋ねします。緊急時にはたとえ民主的な指導者であっても前例のない権力を手に入れることがあり、大衆も厳しい政策を支持することがあります。それは民主主義にとってどのような意味を持つのでしょうか」

アタリ氏
「確かに安全か自由かという選択肢があれば、人は必ず自由ではなく安全を選びます。それは強い政府が必要とされていることを意味します。しかし強い政府と民主主義は両立しうるものです。第二次世界大戦のさなかのイギリスが良い例です。強力な政府を持ちながら民主主義でもありました。

道傳さん
「このパンデミックの中で差別や分断が以前より目立ってきているのではないかと懸念しています。それには同意しますか」

アタリ氏
「はい。連帯のルールが破られる危険性が極めて高い。つまりは利己主義です。経済的な孤立主義が高まる危険もあります。他の国に依存しすぎるべきでないというのは一面の真実です。たとえば「どうかエチオピアにマスクを売ってくれ」と中国に懇願しなくてもすむように。しかし、だからといって、国境を閉ざしてしまうべきではありません。私たちはもっとバランスの取れた連帯を必要としているのです。」

番組VTR  「Altruism 利他主義」映像にナレーション
「今こそ連帯が必要だというアタリ氏は、これまで利他主義という思想を主張してきました。今回の危機を受けて改めて利他主義への転換を広く呼び掛けています。「パンデミックと言う深刻な危機に直面した今こそ「他者のために生きる」という人間の本質に立ち返らねばならない。協力は競争よりも価値があり、人類は一つであることを理解すべきだ。利他主義という理想への転換こそが人類サバイバルのカギである。」
「Cheers for Life 生命 万歳」「Think and Live Positive  ポジティブに考えて行きよう」という、アタリ氏のブログ表紙科増の映像を背景にナレーション
「危機的な状況の中でもアタリ氏の選ぶ言葉はあくまで前向きです。頻繁に使われるポジティブという言葉は、利他主義と並ぶキーワードです。」

道傳さん
「あなたのブログほずっと読んでいますが、その一貫した楽観主義が印象に残りました。例えば『生命万歳!』とか『ポジティブに考えて生きよう』とか。そのポジティピズムや楽観主義はどこから来るのですか」
アタリ氏
「まず、ポジティピズムはオプティミズム(楽観主義)とは異なります。たとえば、観客として試合を見ながら「自分のチームが勝ちそうだな」と考えるのが楽観主義です。一方、ボジティミズムは、自らが試合に参加し「うまくプレイできればこの試合に勝てるぞ」と考えることです。そういう意味では私はポジティブであると言えるでしょう。私は人類すべてがこの戦いに勝てると考えています。自分たちの安全のために最善を尽くし、世界規模で経済を変革させていくことができればきっと勝てるでしょう。今の状況は私が「ポジティブ経済」と呼ぶものに向かうとても良いチャンスだと思っています。ポジティブ経済とは、長期的な視野に立ち、私が「命の産業」と呼ぶものに重点をおく経済です。生きるために必要な、食料、医療、教育、情報、研究、イノベーション、デジタルなどの産業です。生きるのに本当に必要なものに集中することです。」

道傳さん
「共感と利他主義について語っておられますが、人々がパニックになって買占めを行ったり、国境を封鎖したりする中で、利他主義とはどのような意味を持つのでしょうか。あなたのことを「無私の聖人」のようにいう人もいるのでは」

アタリ氏
「いえいえ、利他主義は合理的利己主義にほかなりません。自らが感染の脅威にさらされないためには他人の感染を確実に防ぐ必要があります。利他的であることは、ひいては自分の利益となるのです。また、他の国々か感染していないことも自国の利益になります。たとえば日本の場合も世界の国々が栄えていれば、市場が拡大し、長期的にみると国益につながりますよね」

道傳さん
「利他主義とは他者の利益のためにすべてを犠牲にすることではなく他者を守ることこそが我が身を守ることであり家族コミュニティ 国 そして人類の利益にもつながるのですね」

アタリ氏
「その通りです。利他主義とは最も合理的で自己中心的な行動なのです。今回の危機は乗り越えられると思います。薬やワクチンが見つかるかはわかりませんが、数か月の間に打ち勝てるでしょう。医師ではないので何か月かかるかはわかりませんが。ただし、長期的にみるとこのままでは勝利は望めません。経済を全く新しい方向に設定しなおす必要があるのです。戦時中の経済では自動車から、爆弾や戦闘機へ企業は生産を切り替えなければなりません。今回も同じように移行すべきです。ただし、爆弾や武器を生産するのではありません。医療機器、病院、住宅、水、良質な食糧などの生産を長期的に行うのです。多くの産業で大規模な転換が求められます。はたして私たちにできるかはわかりません。パンデミックの後、人々が以前のような行動様式に戻ってしまうかもしれませんから」

道傳さん
「歴史を見ると、人類は恐怖を感じるときのにのみ、大きく進化すると以前おっしゃっていました。私たちは、まさにいま進化するためにこれまでの生き方を見直すべきと思いますか」
アタリ氏
「まさしくそう思います。前身するために恐怖や大惨事が必要だというのでもありません。私は破滅的な状況は望みません。むしろ魔法で今すぐにでもパンデミックが終息してほしいです。しかし良き方向に進むためには今の状況をうまく生かすしかありません。利他的な経済や社会、つまり私が「ポジティブな社会」「共感のサービス」と呼ぶ方向に向かうために。しかし人類は未来について考える力がとても乏しく、また忘れっぽくもあります。問題を引き起こしている物事を忘れてしまうことも多いのです。過去の負の遺産を嫌うため、それが取り除かれると、これまで通りの生活に戻ってしまうのです。人類が今、そのような弱さを持たないよう願っています。私たち全員が次の世代の利益を大切にする必要があります。それがカギです。誰もが、親として、消費者として、労働者として、慈善家として、そしてまた一市民として投票を行うときにも、次世代の利益となるよう行動をとることができれば、それが希望となるでしょう。」

アタリ氏の、知的で深い洞察と、未来に向けたポジティブな態度、語り口、もう素敵としか言いようがない。120%賛成できる。私と妻が、原発事故後考えて生きたこと、こう行きたいと思ってきたことのすべてを、このインタビューで、アタリ氏が語ってくれていると思いました。アタリ氏最高。

それにしても、再放送してくれないかな。

くだらないワイドショーで芸能人MCとお笑いタレントがコロナ問題について愚にもつかない言い合いをしているのを見ることに何の意味があるのでしょう。
ハラリ氏の言う通り、国内ニュースで、感染者がどれだけ増えた減ったの情報は一日一回見れは十分です。

そんな時間があったら、世界のニュースを見て、こうした、NHKの中の良識ある人が、勇気をもって作った番組を、見逃さないようにしましょう。


しかし、これはNHKの最後の良心が、いのちがけで作った番組たと思うので、もしかすると再放送は許されないかもしれない。
そう思ったので、今日、半日かけて文字おこし、しました。


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