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銀河鉄道の夜

宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』。星祭の夜にジョバンニとカムパネルラが鉄道に乗り、いろいろの場所で空の星々を眺める。作中には、たくさんの地名、星座の名前が登場する。星々の南中時刻を組み合わせて分析すると、描かれているのはちょうど「8月13日」の夜であるとわかるそうだ。しかも8月13日の夜といえば、ペルセウス座大流星群。星降る夜、まさに星祭。

この童話の中には多くの星や星座が登場するが、しかし「ペルセウス座」という言葉だけは、最後まで決して出てこない。宮沢賢治は、最も大事な言葉を行間に隠したのかもしれない。

これはあるイベントで対談をご一緒したサイエンスライターの竹内薫さんから聞いた。うっかり人に話してしまいたくなる、素敵な話だ。そしてこの「うっかり」話したくなる、というのが本当に大事。聞くという受動的な行為が、能動的な発信に置き換わるきっかけになるからだ。

Illustration: Maki Ota (Takram)

宮沢賢治は、誰かがきっと見出すだろうと信じて、ペルセウス座を、文字の影に隠した。誰かが見つけてくれることを祈ったのかもしれない。そして誰かが本当に見つけた――。と、想像する。頼りないメッセージとして投瓶通信は放たれ、時を越えて確かに誰かに届いた。甘美な営みに心を奪われる。「うっかり」話したくなる。実際に僕はそれからすぐ、仕事で出会った人、友人、初対面の人、多くの人にこの話をおすそ分けした。

コンテクスト(ある逸話)がコンテント(ある童話)をより強固に魅力的に見せる、一例。

では「うっかり話したくなる」ような気持ち、主体性は、どのように芽生えるのだろうか。

(続く)

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渡邉康太郎 / Takram @『コンテクストデザイン』青山ブックセンターにて発売中
記事執筆は、周囲の人との対話に支えられています。いまの世の中のあたりまえに対する小さな違和感を、なかったことにせずに、少しずつ言葉にしながら語り合うなかで、考えがおぼろげな像を結ぶ。皆社会を誤読し行動に移す仲間です。ありがとうございます。