渡邉康太郎 / Takram @『コンテクストデザイン』青山ブックセンターにて発売中

コンテクストデザイナー/Takramマネージングパートナー。慶応大学SFC特別招聘教授…

渡邉康太郎 / Takram @『コンテクストデザイン』青山ブックセンターにて発売中

コンテクストデザイナー/Takramマネージングパートナー。慶応大学SFC特別招聘教授。個人の小さな「ものがたり」が生まれる「ものづくり」=コンテクストデザインの活動。趣味は茶道、お酒、香水。J-WAVE TAKRAM RADIOナビゲーター。Twitter @waternavy

マガジン

  • #お店 記事まとめ

    • 2,569本

    思想を持ったお店をつくったり、運営、デザインをしているひとやその感想などの記事をまとめるマガジンです。

  • #デザイン 記事まとめ

    • 7,136本

    デザイン系の記事を収集してまとめるマガジン。ハッシュタグ #デザイン のついた記事などをチェックしています。広告プロモーションがメインのものは、基本的にはNGの方向で運用します。

  • コンテクストデザイン

    コンテクストとデザインについて考えています。まだ途中ですが、これはその断片です。

  • Voices from Takram

    • 47本

    Takramメンバーのnoteへの投稿をマガジンとして集めました。

最近の記事

  • 固定された記事

なぜ時間を測ることのできない砂時計をつくるのか

私は砂時計を扱う展示会を開きたいと、かねてから考えていた。 時間を測ることのできない、いわば「用のない」砂時計──。一見無用の、不要のものに思えるだろう。でもあらかじめきまった用途がないからこそ、使い手ごとに豊かなコンテクストが生じることを期待したい。 数人にこの砂時計を渡す。時計には決まった使い方は定められていない。Inscriptus はラテン語で「書かれていない」を意味する。この時計を思い思いの方法で愉しんでもらいたい。自らのために所持しても、ギフトにしてもよい。

    • 自ら「つくる」こと、たとえばバルセロナを旅するように

      大人には単なる帽子にしか見えない絵も、子供にはゾウを呑み込んだウワバミに見える──サン=テグジュペリが『星の王子さま』の冒頭で描いた逸話は、わたしたちひとり一人のなかにいるはずの、眠れる「モーツァルト」(同『人間の土地』)の存在を思い出させてくれるものです。いやまたは、思ったよりモーツァルトの眠りは深い、と気づかされるものでしょうか。 では、いままで創造性を封印していた大人たちが、自らの見えない足かせを解き、ものをつくり始めるとき、なにが起こるのでしょうか。彼ら彼女らは、そ

      • 「つくる」はどこからはじまるか──足かせ、模倣、つくらないこと

        誰に乞われずともものをつくる人もいれば、表現に憧れや苦手意識を持ってその一歩を踏み出せない人もいる。この違いは、どこからくるのでしょうか。 自らを「表現者からは遠い」とみなしている人とともに、表現について考えて、手を動かす。 2023年3月、「つくるとつくらないのあわい──非表現者のための表現ガイド」と銘打った社会人向けの連続講義・ワークショップの最初のシーズンを終えました。 「非表現者のための表現ガイド」というテーマは、実は私自身に向けたものでもありました。わたしはデザ

        • 数字と物語②──群と個、あるいは操縦士の眼差し

          「数字と物語」を色々のレンズ越しに眺めてみたい。もとは芸術と技術、自然科学と人文科学、論理と直観、有用性の問題の切り口を思い浮かべていたが、今日は少し迂回して、サン=テグジュペリの『人間の土地』で描かれている言葉をたよりに、これを考えてみたい。 『人間の土地』の冒頭に、「地理学者」と「操縦士」の眼差しの対比、とでもいえるモチーフを覗き見ることができる。一般的な知と個別の感覚、または「群」と「個」の目線にもつながっていく。 *** 三本のオレンジの樹『星の王子さま』の著者

        • 固定された記事

        マガジン

        • #お店 記事まとめ
          2,569本
        • #デザイン 記事まとめ
          7,136本
        • コンテクストデザイン
          18本
        • Voices from Takram
          47本
        • 数字と物語──再現性と一回性の波打ち際
          2本
        • 本とその個人的なコンテクスト
          3本

        記事

          数字と物語①──再現性と一回性の波打ち際

          「はかどる」と「はかない」「はかどる」と「はかない」──それぞれ「仕事の効率」と「無常の美意識」に紐づくふたつの言葉は、実は「はか」というおなじ概念でつながっている。 はか、という言葉を辞書で調べてみると、「時間に応じた、仕事の進みぐあい」とある。もとは稲を植えたり刈ったりするときの田んぼの一区画のことをいったそうだ。どれだけの米がとれるのか、どれだけ能率的か。「はか」は、なにかを「量る」ことを意味する。数字で管理することだ。 「はかどる」の言葉はここからきている。一区画

          露出過多と「意味のイノベーション」

          イノベーションに求められることは、人が見いだす価値の「意味」を変革することだ。いま、ろうそくは光源ではなくむしろ「暗源」となり、電球よりも暗闇のある時間をつくっているように──。ロベルト・ヴェルガンティ教授の「意味のイノベーション」はTakramでのものづくりと共鳴する部分がある。特に一冊だけの本屋「森岡書店」や花と手紙のギフト「FLORIOGRAPHY」など。 2018年前半は、TakramCastやTakram Radioと連動して、意味のイノベーションを引き続き取り上

          「意味のイノベーション」 TEDxプレゼンの日本語訳

          デザインとその周辺を扱うポッドキャストTakramCastでロベルト・ベルガンティ教授の「意味のイノベーション」をテーマに収録をしたところ、Twitter上でちょっとした反響がありました。 イノベーションプロジェクトではよく「デザイン思考」が用いられますが、それだけでは片手落ちです。ときによって「意味のイノベーション」を使ったり、両者の要素を組み合わせたりしていきたい。実際、欧州委員会ではこの二つをデザインの両輪として扱っています。 2017年5月25日にミラノ工科大学で

          Message Soap, in timeの強い文脈、弱い文脈

          「強い文脈、弱い文脈」の枠組みを通して、前回は一冊だけの本屋、森岡書店のことを考えた。 文脈の強弱はあくまで相対的なものだ。次の例として、向田麻衣さんという人物の活動を取り上げ、その文脈の強弱を(私の解釈や想像も少し交えて)考える。なお別項にあるように、Takramは向田麻衣さん率いるLalitpurとともに「Message Soap, in time」というプロダクトを手がけている。石けんのなかから手紙が現れるというものだ。 ■ Coffret ProjectとLali

          森岡書店の「強い文脈」、「弱い文脈」

          ■森岡書店のこと 森岡書店 銀座店は、一冊だけの本を扱う、一室だけの小さな書店だ。店主は森岡督行さん。Takramもいろいろな形で関わっているが、お店のオープンにあたり、まずロゴデザインとブランドスローガンを制作した。 森岡書店は、一冊だけの書店です。 一冊だからこそ、解釈はより深く。 森岡書店は、一室の小さな書店です。 一室だからこそ、対話はより密に。 一冊、一室。 森岡書店。 森岡書店に置かれる本は一冊だけ。一週間の期間中、本にまつわる様々なイベントが催される。主題

          Message Soap, in time ― いつ届くかわからない手紙

          これはいつ届くか、ほんとうに届くかも分からない手紙だ。いたずらや賭けにも近い。曖昧で、投瓶通信のように頼りないメッセージだからこそ、ちょっと思い切った気持ちで本音を伝えられるのかもしれない。 蝋で閉じられた封筒型の箱を差し出す。開くと、一見普通のフェイス&ボディソープが入っている。泡立ちがいいから毎日使ってと手渡す。 受け手はひと月ほど経ったある夜、角が丸く溶けた石けんのなかから、うっすら透けるキャンバス地の布を見つけるだろう。折り畳まれた布には文字。びっくりして、剥

          コンテクストデザインとは

          コンテクストデザインとは、それに触れた一人ひとりからそれぞれの「ものがたり」が生まれるような「ものづくり」の取り組みや現象を指す。換言するならば、読み手の主体的な関わりと多義的な解釈が表出することを、書き手が意図した創作活動だ。 もともと現代的なデザインは産業革命以降の大量生産・大量消費を背景に成長してきた。それは、特定の使い手を一意に想定し、特定の問題を解決するためのものだ。 デザインはふつう、正しい使い手に、正しい使い方で、正しい価値を提供することを目的とする。明確に

          デザイン界のオスカー「iF Design Award」の審査会に参加しました

          1953年から続くドイツの国際デザイン賞 iF Design Awardはデザイン界のオスカーとも呼ばれる。2018年は世界54カ国から6400点を超える応募があった。ハンブルグ市に63名の審査員が集い3日間審査をする。日本からの審査員はSONY Interactive Entertainment のシニアアートディレクター森澤さんとTakramから私の2名。 会場であるハンブルグはドイツ第二の都市で、大阪と姉妹都市、横浜港と姉妹港(姉妹港という言葉をはじめて知りました)。

          デザイン界のオスカー「iF Design Award」の審査会に参加しました

          読書リスト3『雪を作る話』と、天ぷらの語源。

          2017年初夏のころロンドンにいた。日曜日だったけど仕事が残っていた。午後三時まえ、中庭が見えるバーカウンターに席を取った。曇ったり日が差したりする、空の深呼吸を眺める。晴れ間はまさに呼気という感じで、徐々に強まる光を受けるたび、水面や菖蒲、苔が生き生きする。 photo by Kotaro Watanabe 何冊かのうちのひとつに、中谷宇吉郎の随筆を携えてきた。雪の結晶の研究で知られる中谷はあるとき、天保時代に書かれた『雪華図説』を探していたそうだ。『雪華図説』には

          強い文脈、弱い文脈

          ハムレットに登場する有名な台詞 "To be or not to be, that is the question.” は時代によって色々の訳され方をしている。 「世に在る、在らぬ、それが疑問じゃ」としたのは坪内逍遥、1909年。 「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」は小田島雄志の訳で、1972年。 「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」これは2003年の河合祥一郎訳。 このようなことはよく起こる。ある作品を研究する人のあいだでも、主流とされる解

          コンテント、コンテクスト

          パブロ・ピカソの『盲人の朝食』という絵画がある。頬のこけた盲目の男性がテーブルにつき、パンと水だけを摂っている。部屋も男性もその服も、すべて青みがかった重い空気をまとう。この絵を見て、ある美術評論家は「青の時代に描かれた一作品」と解説し、ある小学生はそれを「ちょっと不気味だ、お隣の井上さんに似てる」と思うかもしれない。ある通りすがりの鑑賞者は例えば「画家が盲人を描くということは、絵画に伴う『見る』行為そのものを問い直す営みか」と考えるかもしれない。一つの絵(コンテント)が複数

          読書リスト 2『宇宙と踊る』の料理と語源、科学と恋愛。

          #読書バトン のテーマに合わせて先に「『波打ち際』の読書リスト ― 年末に読むおすすめ」で10冊を簡単に紹介したけれど、それぞれの本にまだ尾ひれがつきそうなので、続けていく。 冒頭に「物理学と文学の波打ち際」として紹介したのはアラン・ライトマン 『宇宙と踊る』だった。 先の記事で紹介した、空っぽのオーディトリウムのステージで練習するバレリーナの動きを物理学的に観察し、その跳躍が地球の軌道にどのような影響を与えるかを書いた冒頭の短編。 計算結果や内容はぜひ本をお読みいただく

          読書リスト 2『宇宙と踊る』の料理と語源、科学と恋愛。