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短編◆宜候~よーそろー~

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とある大型客船の旅は順調そうに見えた。

船長は楽園にみんなを連れていける……そう確信して舵を取っていた。

しかし、緩やかに変化はやってきた。

世界は荒れ狂い、客船は荒波に呑まれ難破船と成り果てたのだ。

それでも船長は「大丈夫」と他の乗務員にも乗客にも言い続け舵を離さなかった。

「宜候」

何処に向かったらいいかなんて解らない。

荒波に呑まれているうちに地図を無くし、コンパスまで壊れてしまっていた。

「宜候」

でも、大海原の真ん中で止まる訳にはいかなかったのだ。

「宜候!!」

自分が舵を取りオールを漕がなければ、皆は海の藻屑になるしかならなくなる。

そんな事にはさせたくない、させない!

北極星の光だけを頼りに進み続けた。

感情を押し殺した船長は誰よりも大人びて見え、だが、誰よりも幼子にも見える。

そんな船長の変化にやがて船員たちは気付き出す。

そして、船長は決断したのだ。

「船を降りよう」……と。

英断だったのに。

理解出来ない乗客も沢山いた、「楽園に連れて行ってくれるんじゃなかったのか?」と。

でも、もう闇雲に船を漕ぐにも燃料も食料も尽きてしまっていたのだ。

船長は近くに見えた陸地へ皆を降ろした。

申し訳なさと悔しさを目一杯抱えて。

でも、そこは目的地ではなくてあくまで通過点なのだ。

「絶対に皆を楽園へ連れて行く!」

すぐに船長は動き出した。

新たな地図を手に入れる為に、一人で旅に出ることにしたのだ。

「大丈夫」

いつかの痩せ我慢の捨て台詞ではない。

希望に満ちた前向きな台詞だった。

「宜候!」

自分が進まなきゃ、このまま陸に住み着いてちゃ新たな地図など見つからない。

新たな地図を手に入れて、みんなを迎えに戻るのだ。

「宜候!」

淡い期待を胸に、船長は一人小さな船に乗り舵を取る。

「宜候!」

相変わらず海は荒れ狂ったままだった。

だが、この命はまだまだ尽きるには早すぎる。

陸に住むことは命尽きるのと同じ事。

「宜候!」

地図も持たず小さな船で漕ぎ出す船長を無謀だと非難する者もいたが、船長を見守りたいとついていく者もいた。

「宜候!」

いつしか、船長の小さな船の周りには同じように楽園の地図を見つけようとする沢山の小さな船が寄ってくるようになった。

「宜候!」

『一人じゃない』ー大型客船の舵を取っていた時はそれが負担でもあったのだが、今は心強いだけだ。

「宜候ーーー!!」

『いつか楽園に辿り着いてみせる!』……船長の旅は続くのだった。



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なんかちょっとショートストーリーっぽいものが頭の中に浮かんだので書いてみましたが、実はこれ小説でもなんでもないです、本当は。

数年前のとある動画を観てたらなんとなく書きたくなっただけのものです。

なんですけどねー、ショートストーリーとして少しでも楽しんでいただけたら幸いです😊


私はずっと船長に付いていくし、船長の味方だ!