おやつこそ人生の喜び 〜焼き菓子とほうじ茶ミルクティーの不思議な関係〜
昨日のおやつが美味しかったから今日もまた幸せでいられるし、今日のおやつが美味しかったから明日もまた幸せでいられるんだろうな。
というくらいに最近おやつが生きがいになっている。毎日それはもう単調な生活を送っているので(しかしそれを気に入ってもいる)、朝起きてから晩ごはんまでのちょうど狭間、午後4時を過ぎたくらいに食べるおやつはこれ以上ないくらいに美味しく感じる。1日の中間地点に何か一つ楽しみを設けておくだけで人はこうも楽しく毎日を過ごせるのか。
昨日のおやつは母絹代が闇市で調達してきてくれた焼き菓子2点セットだった(嘘、関西ほのぼの村に闇市はない)。お菓子が入った紙袋片手に帰還した絹代に感謝の意を告げ「これはなんていうお菓子?」と尋ねると、「私が覚えてると思う?」という想定外にしておなじみの答えが返ってきた。そうだった、彼女は何事にもこだわらない性格なのだ。
絹代プロデュースなのだからそのあたりは気にするべきではない。美味しければそれでいいのだ。そして紙袋の中に輝く2種類の焼き菓子はどちらも本当に美味しそうだった。聞けば売り切れ寸前だったのだという。改めて私は「おおきにと申します」と謝意を表明した。わざわざ買ってきていただいて、本当にありがたいことである。
これら2つのお菓子の名前は不明だが、片方はスコーンを平べったくしたような形で小麦の粒感がある茶色をしていて、もうひとつはタルトのような生地にキャラメライズしたピーカンナッツが乗ってきた。見るからに美味しそうだ。私はこのお菓子を一晩寝かせ(当日には他に食べるべき生菓子があった)、翌日の楽しみとして取っておくことにした。箪笥の上で茶色い紙袋が発光しているように見えた。ああ、明日が楽しみだ。とりあえず明日までは死んでは困る。焼き菓子は明確な「生きがい」にすらなる。
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翌日のおやつはパーティーだった。私にはめずらしく写真まで撮ってしまったのだからそのパーティーっぷりは目にも明らかだ。紙皿に油紙を敷いて、焼き菓子を2つ並べる。どう頑張ってもオシャレな乗せ方が今ひとつ分からないが、今はそれどころではない。こんなもんかな、とお菓子を並べ、片手間でお湯を沸かす(思えばこんな作業もできるようになった)。焼き菓子にはミルクティーと相場が決まっているのだ。この相場は元を辿ればイギリスで定められたもので、海を越え空を渡りこの関西ほのぼの村までやってきたのである。
100均のマグカップにほうじ茶のティーバッグとお湯を注ぎ、ある程度経ったら沸かしてきてもらったホットミルクを入れる。現在はカフェイン抜き生活を送っているためイギリス相場を忠実に守ることはできないが、ジャパニーズホウジチャ的にアレンジしたミルクティーはむしろハイカラとも言えよう。何よりほうじ茶と牛乳は相性が良いのだ。
この「雑ほうじ茶ミルクティー」はコンビニの「ほうじ茶ラテ(チルド飲料)」を飲んでいる時に思い付いたレシピで、「ラテっていう名前の割にはフォームミルクが入ってないなぁ…」と気付き、自宅でも出来るのではとやってみたところ出来たのだ。ちなみに牛乳はカップの半分くらいと多めにするのが黄金比率で、ほうじ茶は濃い目に出すのが良いのだが今は待っている暇がない。お菓子を食べている間に抽出されるだろうという寸法だ(だから写真では随分色が薄くなっているしタグも付いたままだ)。
はやる気持ちを抑えながら各種のテーブルセッティングを終え、記念に写真を撮り(机のちらかりも劇団ひとり氏のエッセイも隠しきれていない)、ソファに体を落ち着ければ、さて、魅惑のおやつタイムの始まりである。
まずは地味な方の茶色い丸いやつを口に運ぶ。これは完全に想定外だった。めちゃくちゃ美味しいのである。こんなに美味しいだなんて予想していなかったから驚いた。まず味が美味しくて、シナモンや何やらよくわからないスパイスの風味が口いっぱいに広がる。食感はスコーンよりパサッとしていて、咀嚼した時のしんめり感が少ない。そして全粒粉か何かのプツプツとした食感!「おいしいい!」と声に出してその美味しさを世界に訴え、そろそろちょうど良い濃さになってきたミルクティーを口に含むと……完全ノックアウト。KO負けのゴングが鳴り響き、私はそのあまりの美味しさに心を震わせたのだった。
イギリス相場の頃から思っていたけど、焼き菓子とお茶(できればミルクティー)ってなんでこんなに合うんだろう。イギリス人が生み出した大量幸福生産装置としか思えない。コーヒーやカフェラテと食べるお菓子も美味しいけど、小麦粉ベースの日持ちがするような焼き菓子は、やっぱりミルクティーが一番美味しい。小麦によって口中の水分を奪い、もにょもにょ咀嚼した後に流し込む水分の美味しさったら。これは砂漠のオアシスである。イギリス人は口内に砂漠とオアシスの両方を創建することに成功したのである。ああなんと素晴らしき大英帝国。どんなにごはんがイマイチと言われようが私は一生この焼き菓子部隊に着いていきます……!
頭の中が完全にトリップしているとあっという間にお菓子なんて食べ尽くしてしまう。気が付けば茶色い丸いシナモンは食べ終わり、ピーカンナッツの方も口に運んだ。これもまた非常に美味しく、ナッツの皮の渋みをキャラメルのほろ苦い甘さが上手い具合に中和している。そして生地のサクほろ感。これは一体なんというお菓子なんだ!わからないながらも大変に美味しくいただき、楽しみを長引かせるために残りは後でまた食べようと取っておいた。
もちろん後ほど2回目のおやつタイムも満喫し、私は「やはりこれぞ人生の喜び」と感慨に耽るのであった。
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