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はからずしてOn The Road/ジャック・ケルアック

 自己紹介文を書くとき、「ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』を読み、東京を飛び出す…」といつも書いていた。僕がケルアックに出会ったのは大学生のころだった。トム・ウェイツが大好きで彼のアルバムをすべて聴きあさり没頭していたとき。ウェイツをはじめ、僕の好きだった音楽家の多くがビートニックに影響を受けていた。必要に駆られるようにビートニックとは、と調べるうちに必然とケルアックの代表作でもありビートニック文学の金字塔、不朽の名作である『オン・ザ・ロード』(1957)に出会った。

 大学で卒論を書き始めようと考えてた3年の終わりごろ、同時に就活というものが始まり、何やら周りはソワソワし始める。就活サイト登録、キャリアセンター、就活合同説明会、ES添削。あらゆるものが就活、就活、就活。内定を何社とったかというマウントの取り合い。疲弊。どうしてこうも「今」就職先を決めておかないと、今後の人生が終わってしまうという風潮なのだろうかと違和感しか感じていなかった。
 一方で自分の中にもその焦りはあり、実のところ数社の面接は受けた。もちろん受かるはずはなく、早々に就活からドロップアウトして、バイト先にそのまま勤めることにした。見る人から見たら、きっと就活でうまくいかなかった、ついてこれなかった「負け組」だろう。

 そうした日々を送っている中で、出逢った。僕の家のリビングや廊下には本棚があり、そこには本が詰まっていた。本棚を眺めていると、ビビッドな青いカバーの分厚い本が目にとまった。『オン・ザ・ロード』ジャック・ケルアック著、青山南訳(河出書房新社)と書いてあるではないか。これか!と思い手に取ると夢中で読んだ。あの止まることのない疾走感、出逢い、破滅、時間、頭の中で渦のように流れる言葉数々。そして、飛び出そう、と思った。ビートニックが解放した。
 ビートニックはしばし「文学」と認識されることもあるが、それだけではなかった。それは文学でもあり文化であり、カウンターカルチャーだ。体制に反発し、既存の価値観への不信感を持ち、同性愛を認め合い、ドラッグやセックスを求める。モダニズムの中で抑圧された「社会規範」に警告を鳴らし、人間的に自我をを解放する哲学であり、思想でもある。

 僕が東京を出る朝、聴いたのはサル・パラダイスと同じチャーリー・パーカーのトランペットだった。

(左)『オン・ザ・ロード』J.ケルアック著、河出書房新社出版
(右)『On The Road』J.Kerouac, Penguin Books

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