高橋亘/Wataru Takahashi

旅の紀行や読んだ本、観た映画、考えていることなどについて書いてみたいと思います。 最近…

高橋亘/Wataru Takahashi

旅の紀行や読んだ本、観た映画、考えていることなどについて書いてみたいと思います。 最近の旅行先は中央アジアでした。好きは本はビートニック文学、好きな映画はアキカウリスマキ、ケンローチ、キアロスタミなどなど。

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いつか見た日

 外気は三十六度を超え、全国的に猛暑日となった。肌が痛くなるほどのカンカン照りの日差しに、熱せられたアスファルトに乗っていた自転車のタイヤのゴムも溶けだしそうだ。空を見上げる度に帽子のつばから差し込む太陽に、家族と出かけた遠い海や山の木陰、声が枯れるまで叫んだ高校生の夏の思い出が浮かび、これから一ヶ月、いや二ヶ月は続くこの暑さにうんざりし始めたところだった。  僕は自転車で仕事場に戻る途中、大通りの横断歩道を渡りきれないおじいさんの姿を見た。向こう側まであと三分の一ぐらい。

    • ちいさい人のあいさつ

      蟻さんのおむつと牛さんのおむつをつくりながら 足の裏でうごく砂浜の貝殻のかたさ うちあげる波のひんやりとした冷たさは 遥か四五億年前の記憶からのあいさつ 潮風が鼻を駆け抜けたとき ネクターピーチが対岸から読んでいる おおきな川にお船が浮かんでぐんぐんスピードをあげた 島のむこうがわに沈んでいく夕陽からのあいさつ 明石焼きと言うふわふわが小さい口の中をでんぐりがえし ごちそうさまでした おおきい人もあいさつをする もういっかい ごちそうさまでした! ねえ、白い毛のヤギさん

      • ヨールカの上の生死

         ビシュケクのオシュ・バザールはアルマトイのセリョンン・バザール以上に、僕にとって魅力的だった。アルマトイのバザールも大好きだけど、ビシュケクのバザールはそれ以上にワクワクした。年末ということもあってそこに押し掛けるひとの活気がものすごかったからかもしれない。バザールの周りを取り囲むように露店も出ていて、僕はそこでバブシュカ(おばあちゃん)から暖かそうなウールの靴下を買った。森の中のトナカイの模様がかわいらしかった。言葉はキルギス語かロシア語であんまりわからなかったが、とにか

        • カザフのステップからビシュケクの道端へ/後編

           4時間ほど走り、キルギスとの国境付近のコルダイという小さな町まできた。ここで一度バスを降りて手荷物検査とパスポートコントロールを通過し、歩いてキルギスに入る。大きなゲートがあり、軍服を着た男たちが立っている横をアーチ型に囲われた通路を通る。建物の中に入り雑な手荷物検査を通過すると、その先の狭い部屋には行列ができていて、すし詰め状態だった。なかなか順番は回ってこないが、そこにいるいろんな顔の人間の中の一人として、ただ何者でもない、強いて言えば日本から来た日本人、としてそこにい

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        記事

          カザフのステップからビシュケクの道端へ/前編

            ─── 雪の降るビシュケクの道端で、頼りないプラスチックのコップに注がれたショーロを片手に乾杯した。  もうすでに出かけた人の足跡が綺麗な雪の上に残っていた。アルマトイの街の西側にあるアフトヴァグザール・サイランから国境を越えてキルギスのビシュケクへ向かう。近くのバス停でおりて、ターミナルへ向かう途中、「ビシュケク!ビシュケク!」とバックパックを持っている僕に大きな声をかけてくる男たちがいる。ここでも客引きだ。アルマトイからビシュケクまでは長距離バスで5時間半から6時間

          カザフのステップからビシュケクの道端へ/前編

          はからずしてOn The Road/ジャック・ケルアック

           自己紹介文を書くとき、「ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』を読み、東京を飛び出す…」といつも書いていた。僕がケルアックに出会ったのは大学生のころだった。トム・ウェイツが大好きで彼のアルバムをすべて聴きあさり没頭していたとき。ウェイツをはじめ、僕の好きだった音楽家の多くがビートニックに影響を受けていた。必要に駆られるようにビートニックとは、と調べるうちに必然とケルアックの代表作でもありビートニック文学の金字塔、不朽の名作である『オン・ザ・ロード』(1957)に出会った

          はからずしてOn The Road/ジャック・ケルアック

          若い青年のことば

           セルゲイとは昼下がりの街で別れた。よく晴れた気持ちのいい天気だった。青く高貴なモスクに積もった雪に太陽の光が幾度となく屈折して煌めく。相変わらず、なにをそんなに急ぐことがあるのかと思うくらいに車の波が押し寄せてくる。だけど山々の美しさが身体の中に染み込んでいたから心は豊かだった。宿に帰ってゆっくり休みながら明日向かうビシュケクの下調べをしようと思う。  夜になってキッチンに降りると数人が食事をしていた。「よっ、仕事どうだった?」。僕が聞くと、まあまあだねっという仕草でセルゲ

          若い青年のことば

          稜線を越えて、シルクロード

           約束通り、朝4時に目を覚ます。山に行くということで少しいつもより着込んでおこうと思う。1階に降りて物音のしない静まり返った部屋のソファに座った。遠くから、犬が吠える声が聞こえてくる。この街には野良犬もいるみたいだ。その声を聞いていると、どうしてか切なくなる。なかなかセルゲイが降りてこない。まあ急ぐこともないし、予定がずれることは承知の上での約束だ。5時を過ぎてようやくセルゲイが降りてくる。「ごめん、昨日寝たのが遅くて寝坊した」と言う。5時半に出ることになり、あたりが暗い中僕

          稜線を越えて、シルクロード

          カザフスタンの大地を歩く/「唯一の被爆国」日本とカザフスタン

          カザフスタンの大地を歩いて  旅で訪れるカザフスタンにどんな歴史があったのか、訪れる前に知りたくて調べていました。単に観光地巡りがしたいわけではなくて、どんな歴史があって、どんな人たちの想いがあるのか、僕にとってはとても大切なことでした。かつてカザフスタンにはソ連に抑留された6万人近い日本人がいて、アルマトイの街の外れにはそこで命を落とした201人の日本人のお墓もあります。日本は「唯一の被爆国」とも言われていますが、実は日本だけではなくカザフスタンにもその被害を受けた人たち

          カザフスタンの大地を歩く/「唯一の被爆国」日本とカザフスタン

          イラン映画に誘われて 世界を広げる作品たち

           イラン映画界の巨匠アッバス・キアロスタミ(1940-2016)の映画を見た途端、その芸術性の高さ、言葉と映像の端々に込められた哲学と詩にあっという間に魅了されました。初めて見たのは『風が吹くまま』(1999)でした。珍しい葬儀をするというクルド民族の住む小さな村にテレビクルーが訪れが、思うように撮影が進まず…。坂を転がるリンゴや裏返った亀、詩的な描写。それにフレームインしていない人たちのセリフがとても印象的で今でも思い出します。  僕はキアロスタミの映画は化学調味料の入っ

          イラン映画に誘われて 世界を広げる作品たち

          天に登るコーランと羊の頭

           昨日は遅くに眠った。日本時間だと多分、夜中の4時ごろだろう。しかし時差の関係か、早くに目が覚める。アルマトイの時間で朝7時ごろには目を覚ます。夜明けを待つ青白い空。冬の時期の陽の出は朝8時半ごろのようで、日本に比べてずいぶん遅い。ベッドから窓の外を薄目で見ていると、外には背の高い針葉樹が2本、雪をかぶっているのが見える。  外の空気を吸おうと、着替えをして、玄関の扉を開けると白い雪に反射する光が目を刺激した。一夜明けた朝はとても気持ちがいい。あたりを散歩してみようと歩き始め

          天に登るコーランと羊の頭

          決別と白い息とアルマトイの街

          朝8時に目を覚ました。冬の寒さに身震いをして着替えをする。この日12時20分のフライトで韓国ソウル仁川空港を経由して、カザフスタンのアルマトイを目指す。実に7年ぶりに海外へ行く。なぜ、カザフスタンかと?それは僕にもわからないが、なにもわからないところに行ってみたいと心が動いたからである。ロシア語を話すことが出来る友人から教えてもらった簡単な挨拶や質問の仕方など、わずかな知識を備えて飛行機に乗り込んだ。数日前から呼んでいた沢木耕太郎さんの『深夜特急第4巻シルクロード編』に出てく

          決別と白い息とアルマトイの街