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公認会計士にとっての戦略人事というキャリア

0. はじめに

はじめまして。わたる@I&Dの会計士です。
SEからキャリアをスタートし、米国公認会計士(ワシントン州)を取得。Big4監査法人で外資系金融機関向けの会計監査や財務報告アドバイザリーを経験した後、DX戦略室で財務データ分析の高度化と監査業務のDXに取り組みました。
2019年に息子が生まれたタイミングで長期育休(2+4か月の計6か月)を取得。それをきっかけに、グループの戦略人事部を兼任し、男性育休推進などI&D戦略立案やエクゼクティブ(パートナー)向けI&Dコーチング、インクルーシブリーダー育成プログラムの開発にも携わりました。
人生の新たなチャレンジとして、2024年10月からは会計士・人事コンサルとして独立予定です。趣味はトライアスロンです。

※なお、本記事の内容は、私の個人的な見解に基づいており、所属団体や企業の見解を代表するものではありません。

このブログを書くきっかけ

今回は会計士としては珍しいキャリアである「戦略人事」について書いていきます。きっかけはXの会計士界隈で最近本を出版されたモニスタさん(@morningstar)のnoteを読み、私のキャリアも悩める会計士の方々の選択肢の一つになればと思い書くことにしました。ファームの戦略人事部と事業会社の戦略人事部(今回は特にI&D推進)で状況は異なると思いますが、少し推察を交えながら書いています。


1. そもそも戦略人事とは?

戦略人事部は、企業の経営戦略と人材戦略を連携させ、企業の持続的な成長と成功を支援する部門です。具体的には、人材戦略の策定と実行、組織開発、人材育成、人事制度の設計と運用、タレントマネジメントを行います。
従来の人事部とは異なり、単なる事務処理や制度運用を行うだけでなく、経営戦略の実現に貢献するための戦略的な役割を担います。そのため、経営層との連携、データ分析能力、そして社員とのコミュニケーション能力などが求められます。

2.なぜ会計士が戦略人事をやるのか?

社会に信頼を構築するためにインクルージョンを促進する

急な小見出しでビックリしますが(笑)、
昨今の会計監査を始めとした保証業務は、財務諸表だけでなく、システム、ガバナンス、サステナビリティなど、多岐にわたっています。そのため、会計士、システム専門家、アクチュアリー、サステナビリティ専門家など、様々な専門家が現在進行形で関わるようになってきています。

保証業務自体が高い専門性を持った多様な人材が集まって行う業務なので、多様性の高い業務である、といえます。
※ここでは敢えて「性別」「障がいの有無」などの属性には触れず、「専門性」を多様性と捉えて進めます

そのため、多様な人材がそれぞれの能力を最大限に発揮できる環境を構築し、組織全体の力を最大化させる「インクルージョン」が非常に重要となってきます。専門家を束ね、より良い社会を創っていくリーダーになるのが会計士としての役割とも考えています。

ちなみに、KPMGやPwCといったコンサルティングファームでは多様性(Diversity)よりもインクルージョン(Inclusion)を優先させる、という意味で、一般的な「D&I」ではなく、「I」を先にした「I&D」と表記しています。

このインクルージョンを実践する「インクルーシブリーダーシップ」の育成が、これからの企業には必要不可欠となっています。

一癖も二癖もある専門家集団をリードしてきた公認会計士が戦略人事(経営企画、経営戦略など)として携わることで、これまでの人事部にはない視点をもたらすことができると思っています。

2.公認会計士が戦略人事として活躍できる領域

では具体的に公認会計士が経営企画部などの戦略人事に携わるとどういった場で活躍できるか記載します。

1.「人」に関わるデータ分析と解決策の提案

当たり前の話ですが、公認会計士は一般的に財務諸表を読み解き、企業の現状を客観的に分析するスキルや問題を発見する力に長けていると思います。

この能力は、人事においても非常に重要で、例えば、人件費の最適化、社員の能力開発への投資効果測定、採用活動における費用対効果分析など、戦略人事では数字に基づいた意思決定が求めるため、公認会計士の分析・課題認識の能力は、こうした場面で力を発揮します。

2. 人事制度設計

企業を取り巻く法規制は複雑化しており、人事においてもコンプライアンス遵守は必須です。公認会計士は、監査を通じて法規制への深い理解があり、コンプライアンス意識が非常に高いです。この意識は、人事制度設計や労務管理において、組織を守る上で大きな強みとなります。

3. 人事業務の内部統制構築

人事部の業務は個人の機密情報を扱う仕事のため、属人化されやすい傾向があります。そのため、業務プロセスが長年変わらず、効率化が進んでいなかったり、承認ルートが適切に機能していないケースも見られます。

人的資本情報開示が始まり、今後、第三者保証としての監査が必ず実施されるようになります。その際に情報の信頼性を担保するためには、公認会計士の経験を活かして、監査に耐えうる内部統制を構築することが必要です。また、監査が入った際には、監査対応を行う人事担当者が必要となります。経理部とは異なり、人事部では監査でどのような点が問われるのかがわからず、対応に手間取ることも少なくありません。

だからこそ、監査経験を持つ公認会計士の存在が重要となります。公認会計士は、監査における視点や要点を理解しているため、人事部の監査対応をスムーズに進め、組織全体の負担を軽減することができます。

パーソルがわかりやすく戦略人事の説明をしているのでリンクを添付しておきます。

3. 戦略人事としてのキャリアを成功させるポイント

3.1. 人事に関する知識を習得する

公認会計士としての専門知識に加え、人事に関する知識を積極的に習得することが重要です。人事関連の書籍を読んだり、研修に参加したり、人事担当者と積極的にコミュニケーションを取るなど、人事に関する知識を深めるとよいです。

3.2. コミュニケーション能力を高める

戦略人事では、経営層から現場社員まで、様々な立場の人とコミュニケーションを取ることが求められます。公認会計士は、監査を通じてコミュニケーション能力を培っていると思いますが、さらにブラッシュアップすることで、円滑な人間関係を構築し、組織全体の協力を得ながら人事策を推進できると思います。

3.3. 常に変化を恐れずに挑戦する

ビジネス環境は常に変化しており、人事の役割も変化しています。会計・監査基準と同様、労務規定の変更やグローバルでの動きにアンテナを張り、最新のHRテクノロジーを積極的に活用したり、新しい人事制度に挑戦したりするなど、常に成長し続ける熱量があるとよいです。

4. 戦略人事としての事例

私自身、公認会計士から戦略人事へと身体の1/3を転身させ、様々なプロジェクトに携わってきました。その中で、特に印象に残っている事例を二つ紹介します。私の場合はI&Dの魅力に取りつかれ、とにかくI&D戦略に身を置いていたので事例には偏りがあります、ご了承ください。

  • 日本における特定領域の戦略策定PJ

ほぼゼロベースからの戦略策定スケジュール作成、業界調査・分析、仮説検証、戦略立案までをリードし、人事役員や外部パートナーとともにリリースまで導きました。日本社会においてはまだまだI&Dの観点が女性活躍で止まっており、新しいトピックが世界で始まっていてもなかなか動き出せない(正確に言えばお金が流れない)のが正直なところかと思います。

  • 経営者(パートナー)向けのI&Dコーチング

戦略人事の取り組みの一つとして、経営者(パートナー)層に対するI&Dコーチングを実施しました。多様なバックグラウンドを持つメンバーが活躍できるインクルーシブな組織文化を築くためには、リーダー層の意識改革が不可欠です。コーチングを通じて、リーダー自身がI&Dの重要性を理解し、率先して行動することで、組織全体に良い影響を与えるきっかけ作りをしていました。

PwC Japanでは戦略人事企画としての求人も行っているようなので添付します。

5. 人事担当者と会計士は異なる人種

私はファームの戦略人事に身を置く中で、人事担当者と監査の現場を経験してきた自分では、現場の課題感の解像度が異なることに気づきました。現場を知っている自分だからこそ、課題をより鮮明に捉えることができます。またデータを分析できるのも重宝されました。あと地味にエクセルスキルは喜ばれました・・・(笑)

一方で、人事担当者はあくまで「人の心」を見る人が多かったように思います。人事データの推移を分析する際、単純に傾向だけをみるのではなく「○○と考える、感じている人が多いのかもしれない」と考え進められていました。男性育休を取得しない人も、ついつい「なぜ有給が付与されるのに取らないのだ?!」と疑問、決めつけに走ったりしまいますが、人事目線からすると「もしかしたら育休を取りたい気持ちがあるけど、何らかの理由で取れない人がいるのかもしれない」と話していました。異なるバックグラウンドの人と働く面白さを感じた瞬間でした。

6. 戦略人事としてのやりがい

戦略人事の仕事は、単に目の前のKPI達成や課題を解決するだけでなく、数年後の未来や社会を想像し、経営理念に即した形で、社内の多様な人材にとって必要なヒューマンスキルを定義し、制度設計、トレーニング計画、評価、採用につなげていく、いわば「未来の専門家をデザインする」仕事です。

細分化すれば1年単位の話かもしれませんが、5年後、10年後の中期経営計画を考え、経営の人事領域を担えることは、非常に面白く、やりがいを感じていました。困難な社会の中で、未来を想像し、組織を導く戦略を描き、それを実現していくプロセスは、まさに挑戦の連続で、毎日ワクワクしていました。
※そんな戦略人事を辞めて独立するかはまた今度書こうと思います。

まとめ

公認会計士にとって、戦略人事というキャリアパスは、自身の専門性を活かしつつも人事の専門性を高めていくという点では挑戦ですが、組織の成長に貢献できる魅力的な選択肢です。データ分析や課題認識する力、コンプライアンス意識が高く、問題発見・解決能力に長けている公認会計士は、戦略人事として大きな成果を上げることができると思っています。

公認会計士のキャリアとしては戦略人事はかなりニッチな選択肢ですが、システム監査人になる会計士がいたり、サステナビリティ保証業務に転向される方もおり、公認会計士の選択の幅は広がっています。

「人の成長」や「未来の専門家をデザインする」仕事に興味がある、という方はぜひ戦略人事という新たなフィールドに挑戦してみてください。この記事が、公認会計士の皆様にとって、キャリアを考える上での一助となれば幸いです。

わたる

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