Enjoy the difference.
大学時代のとある正月に実家で読んだ新聞に、日産のカルロスゴーンさんが3ページくらいぶち抜きでインタビューに答えている特集記事があった。
その記事の中で、ひときわ僕の心に刺さった言葉がある。
それが、タイトルにある "Enjoy the difference" という言葉だ。
意味は特になんのひねりも無く、「違うことを楽しみなさい」というものだが、この言葉はその後の僕の人生に非常に大きな影響を与えることになる。
今の僕があるのは、大部分がこの言葉と出会ったからだろう、と言って差し支えないと思う。
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今では日系の大企業のTOPを海外の方が努めることは当たり前になっているが、当時は異例のことだった。しかも、あの日産が。
当時日産の業績は低迷しており、経営状態はかなり悪かった。その中でゴーンさんは、いわゆる「コストカッター」として辣腕を振るっていた。今は色々な情報が飛び交い、実際に彼がどういう人だったのか、何が起きていたのかはよく分からなくなってしまったが、当時は「日本企業の経営再建をするために、嫌われ役を買って出た経営者」という像だったと思う。
ここから先はかなり記憶が怪しく、幾度となくデータの上書きを繰り返している気がするが、その時に彼はこんなことを言っていたはずだ(と思っている)。
「日本の企業には、これまでの発展を支えてきた、私がまだ知らない良さがたくさんある。今こうしてこれだけの規模の大企業が成り立っているのだから、そこにはかならず合理的な理由があるはずだ。確かに日本企業の風習には、特に経営面で非合理的なものがあることは事実だと思うし、理解に苦しむこともたくさんある。でも私は、まずはこの日産という企業が今まで成長してきた理由を理解したいと思う。そこには必ず、私がまだ知らない合理的な理由があるはずで、それを知ることは非常に楽しいことだ。自分理解できないものと出会ったとき、自分の価値観とは異なる考え方に出会ったとき、”その違いを楽しむ=Enjoy the difference” という態度は非常に重要だ。私が日産を理解し違いを楽しむのと同じように、皆さんも私という異分子との違いを楽しんで欲しいと思う。」
この言葉が、なぜ当時の僕に刺さったのかについては、全く覚えていない。
なんとなくビビッと来たのだと思う。
そこから僕は、持ち前の突発的な行動力を発揮して、思いもよらない行動をとった。
・まず、全く知らない、自分の価値観では受け入れられないことに触れてみよう。
↓
・今の自分にとって、一番当てはまるのは「ホームレス」だよな。
↓
・じゃ、いろんなところにいるホームレスに片っ端から話かけてみよう。
という訳で、行く先の様々な駅や場所でホームレスを探しては、缶チューハイや花火を持っていって話しかける、という日々が始まった。
全部で10回くらいの接点があっただろうか。そこで僕はたくさんのことを学んだ。
・今まで怖い、絶対に話なんてできない、と思っていたホームレスの方は、至って普通の人間であって、コミュニケーションを取ることができる。
・今までホームレスとひとくくりにしか理解してこなかったが、それぞれが全く異なる性質や人格を持った個人である。
・ホームレスになった理由も本当に人それぞれで、人の数だけ理由がある。
・その理由に応じて、今自分がホームレスであることへの認識も、ネガティブからポジティブまで幅広くある。
改めて言葉にしてみるとどうにも当たり前のことばっかりだが、ホームレスを自身の世界から切り離していた当時の僕にとっては、どれも新鮮で驚きに満ちたものだった。
中でも、一番記憶に残っているのは、4年生のときにラクロス部で関西遠征に出かけたときの経験だ。その時、僕らは近くに淀川が流れる十三という町に宿泊していた。
MTGが終わった夜22時頃に宿を出て、コンビニで缶ビールと線香花火を調達して、僕は淀川の河川敷のホームレスの集落を目指した。
そこでどんな話をしたのかは全く覚えていないが、一つ衝撃的なことがあった。僕が帰ろうとしたときに、1人のホームレスが何かを荷物から取り出して、僕に渡しながらこう言った。
「坊主、面白いやつだから、これをやるよ(関西弁に適宜置き換えてください)」と言って僕に渡したものは、「ビール券」であった。
彼らの日常から察するに、ビール券は相当に貴重なものなはずだ。それを見ず知らずな東京から来た小僧にくれたのだ。
その時に、僕は自分の中にうっすらと残っていた「ホームレスを接点を持ってあげている」という感情を恥じた。僕が何かを感じ、自分の意志で行動しているのとまったく同じように、あの人たちも何かを感じ、僕に「善意」を伝えてくれた。むしろ何かをもらっていたのは、僕の方だったのだ。
この経験によって、僕は「自分の世界」が音を立てて広がっていくのを感じた。「僕の人生と繋がっているモノ」が確かに増えたのだ。
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僕らが、何か理解できない、受け入れられないものと対峙するとき、その接点には自分の世界の輪郭があるのだと思う。その先のものは、放っておけば自分の人生とは交わらない。
僕はこの経験を通じて、自分の世界の輪郭を見つけたときに嬉しさを感じるようになった。そこの向こう側には、今の自分には理解できないものが確かにあり、それと自分の世界とつながったときに、僕の人生は確かに豊かになる。
僕が良く人から「あなたはフラットだね」と言われる理由はこのあたりにあるのかも知れない。
「ダイバーシティ」という言葉が最近重要視されてきているが、「どれだけ自分と異なる多様なものを受け入れられるか」ということが、個人と組織の強さに結びつくと信じている。
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