青春の賞味期限について
夢はもう見ないのかい?
明日が怖いのかい?
諦めはついたかい?
馬鹿みたいに空がきれいだぜ
これは、女性スリーピースバンド Hump Back の『拝啓、少年よ』の歌詞の歌い出しだ。2018年にリリースされたらしいのだけど、今年初めて聞いた。疾走感のある青春パンクソングで、今のところ2021年に聞いた新曲の中で一番印象に残っている。
この曲のように、「つまらないオトナになってしまうことへの恐怖や違和感」と、「あの時の(もしくは現在進行形の)怖いもの知らずで真っすぐな感情」を対比させた青春ソングは、尾崎豊 や THE BLUE HEARTS、ひょっとしたらそのもっと前から多くのアーティストが歌ってきた。これはラブソングと同様、J-POPのジャンルの1つだと思う。
これらの青春ソングが僕らの心をつかんで離さないのはなぜか?
今回のnoteはそれを探りたい。
大人になると自由が失われる、という共通認識
青春ソングが、いつの時代も若者達に支持されてきた理由の一つは、僕らの中に「大人になると自由が失われる」という共通認識があるからだと思う。
この共通認識はなぜ生まれるのだろう?どうやって青春真っただ中の若者は「大人になると自由が失われる」と感じるようになるのか。
大人になる過程のある時を境に、急に誰かがあなたの行動を積極的に制限してくるかというと、そんなことはない。悪意を持った誰かが、あなたの自由を脅かすようなことはにはならない。
その代わり、大人になると、無数の「配慮したほうが良い他者」が現れる。厳密に言うと、幼少期もそれはあったが隠されていた。
この「配慮したほうが良い他者」というのは、例えば、職場の人、上司、取引先かも知れない。家族、親戚、恋人、友人かも知れない。はたまた、関係している様々な組織や集団の(明文化されていたりしなかったりする)ルールや規則かも知れない。
こうした他者とお互いに配慮し合った関係性を築くことが、高校生・大学生・新社会人のあたりの短い期間に急激に求められるようになる。
これらの他者は、あなたに理不尽に何かを求めてくるわけではない。多くの場合、彼らには彼らの道理があり、彼らの善意に従って動いているだけだ。それぞれにルールがあり、それらは複雑に絡み合っていることもある。あなたがやりたいことをやるためには、うまく折り合いをつけて着地させる必要がある。
この作業は圧倒的に面倒くさい。特に大きいことをやろうと思えば思うほど、関わる他者が増えていく。そして、全ての他者が合理的で、正しく設計されたルールに基づいて効果的に機能しているかというと、そんなことは決してなく、それが面倒くささを倍増させる。世の中は思ったよりもいい加減にできているし、みんなが思いやりを持っているわけではない。それでも日々は進んでいく。
高校生、大学生と少しづつ大人になって行くに従って、それらのめんどくささが見えてくるのだと思う。それまではただ免除されていただけで、ようやくハンディキャップ無しのフェアなルールが適応されるだけなのだが、そんなことに気づいている若者はまずいない。少しずつ少しずつ、息苦しい大人の世界に進んでいかなければならないんだ、と感じるようになる。
これが、「大人になると自由が失われる」という感覚の正体だと思う。
青春の賞味期限とはなにか?
だから、いくつかの過激な歌を除いて、多くの青春パンクロックは「自分たちと大人の世界の二項対立」を歌っているのではなく、「いろいろめんどくさいことはあるけど、この気持ちを忘れずに、押しつぶされないで頑張っていこうぜ」という応援歌なのだと思う。
青春時代から大人の世界に足を踏み入れるとき、大きく3つの道を選択することができる。
一つは、大人の世界を受け入れずに、子供の世界に生き続ける道。この道は、かなりの困難を伴う。さっき言った「過激な歌」は、この道を勧めてくる。
他者に一切の配慮しなくても社会が受け入れざるを得ない圧倒的な実力(価値)を手に入れるか、一般的に「引きこもり」と言われるような手段で青春時代(モラトリアム)を延長するか、変わり者として社会的な繋がりを一切作らずに生きていくか(それでも不動産とか光熱費とか保険といった最低限のルールには従う必要がある)。
もう一つは、大人の世界のめんどくささに屈服し、自我を押さえつけて生きていく道。青春が終わった、ステレオタイプ的なつまらない大人の道だ。
最後は、大人の世界を受け入れ、そのめんどくささに心折れずに、粘り強く一つづつ折り合いを付けて行く道だ。これが、天才でも狂人でもない人間にとっては、青春の賞味期限を延ばす唯一の道だと思う。
冒頭に述べたように、青春の定義を「怖いもの知らずの真っすぐな感情を持ち続けて生きていくこと」だとするのであれば、青春は心の持ちようであって、環境に左右されるものではない。環境に左右されるのは、心だ。
色々なものが見えてきて世界のことが分かればわかるほど、怖いことも考慮しなければならないことも増えていく。完全な組織も人もないので、理不尽に思える干渉を受けることもあると思う。でもそれにも悪意があるわけではない。誰かが正しいと信じて行い、結果としてうまく行かなかったというだけだ。世界は本来そういう風にできている。
これらの全てのめんどくさいことに負けずに、まっすぐな感情を持ち続けたまま、一歩ずつもがきながら進んでいく。そうすることが、青春の賞味期限を延ばす唯一の方法なんだと思う。
これから先の僕人生でも、今よりずっとめんどくさいことが増えていくに違いない。やっぱもう頑張るのやめよ―かな、と思っちゃう出来事もきっと起きる。そんなときに、
馬鹿みたいに空がきれいだぜ!
と一言叫んで、前に進める人間でいたいと思う。
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