YOASOBIが歌うクランチロールの祭典は、日本にどんな意味があるのか
3月2日、「クランチロール・アニメアワード 2024」にプレスとして行ってきました!
クランチロールは「日本アニメ」を世界各国・地域に配信している企業です。
アニメ配信をする世界企業はNetflixやDisney+など多々ありますが、特徴的なのは「アニメファン」を中心に据えようというスタンスです。
日本では配信をしていないので馴染みがないのですが、元々はアメリカのファンサブ(ファンがアニメに字幕を付けて動画を流すこと)から始まり、正規配信を始め、ソニーグループの傘下に入ったという経緯があります。現在は、映画の配給やゲームなども世界に展開しています。
日本アニメのニュース記事を上げるほか、SNSも作られており、各国ファンが好きな作品について感想を書いています。世界中に「クランチロールコミュニティ」が作られている状態です。
「クランチロール アニメアワード」も、ファンが投票で年間のベストアニメを決める祭典です。
今年、各国から集まった票数はなんと3400万票! これは「一日一回投票できる」システムであることと関係しており、より熱心なファンが推し作品に投票し続けることも可能です。
それとは別に、クランチロールからオファーを受けた「審査員」が各国にいます。私(渡辺)も日本人の審査員のひとりになっています。審査員の投票は、ファンの票数とは異なる計算で加点されています。
アワードではまず各部門ごとに「ノミネート作品」が選ばれて発表されます。各部門につき6作品。その段階で「優秀賞」として発表されます。さらに、その6作品にファンと審査員が投票して、「最優秀賞」が決定するという流れになります。
日本でノミネートに選ばれたアニメ作品の公式アカウントも「優秀賞を取ったので、ぜひ投票を」と呼びかけていました。クランチロールのサービスがない日本でも投票できるので、来年から皆さんもぜひ。
惜しむらくは、日本では知名度が大きくないため「クランチロールのアワードが何をもたらすのか」がまだ伝わっていないこと。今年のアワードでYOASOBIさんやLiSAさんが来場して多くのメディアが取材していたので変化が起きるかもですね。
(クランチロール日本さんが公式アカウントを作って日本語で告知とかしていただけるとありがたい)
にしても3400万票を集めるのはすごいです。ソニーグループの吉田憲一郎会長がアワード開会の挨拶で、「200カ国と地域から、昨年の2倍の投票があった」とスピーチされていました。
それにしても、3400万票はのべ換算でもすごいです。
ファンが熱心にアワードへの投票する理由はなんでしょうか?
昨年、クランチロールのCOOであるギータ・レバプラガダさんにインタビューをさせていただきました。
私の関心事である「ファンの熱量とコミュニティ」「なぜ巨費を投じてタイムズスクエアに全面広告を出したのか」「グッズ海外販路の獲得などマルチ展開」についてうかがったので、ご関心あればぜひ。
で、なぜファンがアワードに熱心に投票するのか。ギータさんのお話によると、
「日本のクリエイターが表彰されるところが見たいから」だそうです!
クランチロールに加入して日本アニメを観ているような熱心なアニメファンは、作り手にとても興味を持っている。だから作品が表彰されることで“推しクリエイターがステージに上がってくれる”期待があるのだそうです。
アニメアワードはもう第8回だそうですが、授賞式の本会場を「日本」にしたのは、昨年2023年からです。毎年いろんな国【アメリカの各都市で】で開催していましたが、昨年と今年は日本になっています。わざわざアメリカからスタッフや業界関係者、セレブリティが100人近く来日。日本アカデミー賞でも使われる格式の高いグランドプリンスホテル新高輪の会場を借りて開催するのは大きな費用がかかります。
すべては「日本アニメのクリエイターをステージに上げる」ため。
たしかに日本から業界人400名をアメリカに招待するよりは遥かに現実的です。また、日本アニメのクリエイターはものすごく忙しいので、海外に行く時間が取りにくいことも要因としてあると思います。
■アニメ・アワード2024、一日レポート
ではアワードの現地レポいきます!
⚫オレンジカーペット
最初に行なわれるのが「オレンジカーペット」フォトセッション。アカデミー賞などのレッドカーペットと同様、登壇者ゲストをマスコミが撮影するためのものです。今年はテレビ局、新聞、雑誌、Web媒体など様々なメディアが参加。昨年の倍以上は来ていたと思います。
オレンジカーペットは回廊型になっていて、ゲストはまず「フォトゾーン」(撮影エリア)で写真や動画のカメラに応えてポーズ。そのあと、その後に任意で「ミックスゾーン」(取材あり)のカーペットに向かい、記者の質問にコメントを返してくれる形です。とは言え取材は任意なので、撮影だけで終わるゲストも多かったそうです。
私は「フォトゾーン」で申請していたので、「カメラ位置抽選」に参加。
掴んだ数字は「2」。スタッフの方に「おめでとうございます」と言われ、
案内された位置が最前どセンター!! ひぃーーーー!!! 隣の隣には、本国から来たであろう公式カメラマンさんがいました。
大きなレンズが居並ぶメディア陣の中に混じるスマホの私……。
ここにレポートを上げようとしているのは、せめてもの罪滅ぼしなのでした。。
「まだそこ空いてるだろ!?」背後から、歴が長そうなカメラマンさんの声が飛んできました。たしかにまだスペースに余裕あったので、急遽、左側にも最前列が作られることに。スタッフ様お疲れ様です。そして左側にも最前列ができて大変ほっとしました。
オレンジカーペットの撮影は今年からブラッシュアップされて、事前に「誰が何時に登場するか」のタイムスケジュールが配布されていました。さらに、ゲスト登場の前にネームプレートをスタッフさんが掲げてくれました。アニメ以外の海外セレブや芸能人の方に疎い私は本当に助かりました。
もっとも、近くにいたカメラマンさんに、私が「クランチロールという会社は……」と説明し始めたら、「あ、うちは○○さんと○○さんが撮影できればそれでいいです。スポーツ紙なので」と返ってきて、異なる文化圏のメディアまで報道してくれることがアワードの意義でもあるんだ! と認識した次第です。
本当に多くのゲストの方を撮影させていただきました。どの方も素晴らしく、晴れがましい表情、素敵なポーズ、うっとりするドレス姿などなど……。
そして個人的に良き!と思ったのが、「ノミナー(ノミネートされた方)」の方々の「慣れていないけど嬉しそうにはにかんだ表情」と「その様子に笑顔になるカメラマンさんたち」!
祝われる人、祝う人が醸し出す“一体感”。
アワードの良さと意義は、こうしたところにもあるのではないでしょうか。
⚫プレスルーム
オレンジカーペットが終わると、カメラマンさんは帰社して、原稿を書く記者はプレスルームへ案内されました。昨年よりすごい豪華! 今回は大きな部屋にモニターが4台! 記者も50人くらいいるでしょうか。
昨年は小部屋にモニター1台で、アニメなどのコンテンツ媒体と、ソニー会長を取材したい新聞社さんの計10人くらいでした。
昨年は記者の数が少なかったので、海外からのインフルエンサーさんも混じって自己紹介をしたんです。会話が英語になったとたん、私の友人記者たちは英語で朗々と自己紹介を始めて、英語がしゃべれなかったのは私だけと判明! 痛恨でした。。(場違いすぎる)
あまりの衝撃に、その日から英語の教科書を少しずつ読み始め、今年は英語での自己紹介をあらかじめ準備!
ところが今年は記者が多すぎて、自己紹介コーナーはありませんでした……!
■授賞式
そして授賞式の前に「囲み取材」組は記者会見ルームに移動。受賞が決まりステージに上がった後のクリエイターにインタビューをするためです。
(『 Web Newtype』さんにもすでに写真入りの記事が載っています! 私が書いたのではないですが、編集者が友人のため宣伝です~)
残った私たちは、モニターから授賞式を見守ります。
授賞式より1時間前である18時から配信が始まって焦りましたが、こちらは「各国別のランキング」【言語別の「最優秀声優賞」】発表でした。国【言語圏】ごとに一番になる作品やキャラクター【推しの声優】は異なり、お国柄が見て取れました。
特にフランス【フランス語圏】の一番は『呪術廻戦』夏油傑!【の声優】 五条さんじゃなくて夏油さんというひねくr…独創的なところがフランス【フランス語文化圏】らしいなと思いました。
《追記…授賞式前に始まるのは「プレショー」と言うそうです。そして行なわれていたのは、「各言語別の声優賞」なのだそうです。クランチロールは吹き替えに注力しているとインタビューでもうかがったので、世界各言語での声優賞はその結実だと感じました!》
授賞式の様子はぜひこちらの動画でご覧下さい。
⚫ステージ
アワードの開幕とともに、作曲家の澤野弘之さんとKOHTA YAMAMOTOさんが作曲したアワードオフィシャルテーマ曲がオーケストラ演奏されました。このおふたりは「『進撃の巨人』の音楽の~」と紹介されますが、個人的にマイブームの『86-エイティシックス-』も手がけており、作品も音楽も素晴らしいんです!
そして最優秀アニソン賞に『推しの子』OP主題歌「アイドル」が受賞。YOASOBIさんが登壇しました。
そしてスペシャルステージとして「アイドル」が……!
生歌がプレスルームにも聞こえてきて感動しました。
⚫歴史に思いを馳せる
今回は受賞者とは別に、テーマでまとめられたステージもありました。テーマは「歴史」です。
ひとつは『サムライチャンプルー』20周年記念。OP曲「battlecry」を、Shing02とOMA、DJのSPIN MASTER A-1さんが披露。アニメ映像との組み合わせでめちゃかっこよ! そもそもアニメがカッコいいので、背後に映像を合わせることでより素敵に見えました!
また、今年節目(「○周年記念」)を迎える歴史的作品について、オーケストラによるメドレー演奏もありました。『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』『ドラゴンボールZ』『ONE PIECE』の最初のOP、そして『鋼の錬金術師』第1シリーズの第4期「リライト」(第1期の「メリッサ」じゃなかった)。
どれも「日本アニメ人気の原点」作品だと言えるので、よしよし、と思うなどしました。
アワードなどの人気投票では焦点が「今」だけになりがちです。だから、日本アニメに触れた時期や作品が異なる各国のアニメファンに「日本のアニメの歴史」を知ってもらうことは重要だと思います。
■受賞についての感想・考察
ノミネート作品と、受賞した作品はこちらです!
⚫日本人気と海外人気は異なる!?
個人的に注目していた「最優秀オリジナルアニメ賞」は『Buddy Daddies』が受賞! 富山のアニメスタジオP.A.WORKSさんは私の推しでもあるので嬉しいです!
そして私の推し作品『機動戦士ガンダム 水星の魔女』もノミネートされていましたが、最優秀賞には届かずでした(『水星の魔女』は、主人公スレッタ・マーキュリーが「何があっても守りたいキャラクター賞」にもノミネートされていました!)。
興味深いのが、エックス(Twitter)の日本公式アカウントのフォロワー数との相関です。『Buddy Daddies』は32700フォロワー。『水星の魔女』は476270フォロワー。
日本人気とはまた異なる人気が海外にある、というところが、アニメの幅広さが感じられて良かったです。
⚫アニメは日本音楽のショーウィンドウ
『【推しの子】』は、各部門のノミネート(候補)に作品名がズラリと並んでいましたが、意外にも最優秀賞に輝いたのはアニソン部門のみとなりました。最近は日本の楽曲が、アニメのオープリング、エンディングを通して世界に広まる現象が起こっています。今も『マッシュル-MASHLE-』第2期OP「Bling-Bang-Bang-Born」(Creepy Nuts)が世界で大流行中ですが、アニメは海外にも即時配信されるので、日本の楽曲を紹介するショーウィンドウの役割も果たすようになっています。
⚫原作を世界展開する「少年ジャンプ」バトル作品強し!
『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折編」が、なんと9【11冠】!の受賞。
アニメ・オブ・ザ・イヤー 最優秀キャラクターデザイン賞 最優秀監督賞、最優秀アクション作品賞……などなど、驚くばかりです。
想像できるのは、「少年ジャンプ原作の認知度の高さ」です。昨年は『鬼滅の刃 遊郭編』が5部門受賞しています。
アニメはオリジナルよりも「原作付き」が多いため、アニメ作品の認知度は、「原作マンガの認知度」と直結しています。けれども「マンガ」の世界展開は、アニメに比べると進んでいないのが現状です。
紙の単行本の翻訳版は長く制作、流通してきましたが、書店に行く機会が限られる国ではなかなか普及が難しく、電子書籍は国内でのプラットフォーム競争が続いていました。
大きく変化したのが2019年1月。集英社がマンガ配信アプリ・WEBサービス「MANGA Plus by SHUEISHA」を開始。「週刊少年ジャンプ」作品などを世界同時に配信するようになりました。23年には講談社も後に続き、アメリカ向けマンガアプリ「K MANGA」(2023年5月10日開始)の英語版配信をスタート。講談社には『進撃の巨人』『東京リベンジャーズ』などのビッグタイトルがありますが、現時点ではジャンプ作品が強い状況にあります。
マンガ原作で先に知っているから物語やキャラクターにも感情移入しやすくなる。
それはどの国でも同じだと思います。
アニメアワードでの人気も、この原作認知度の違いを反映していると考えられます。
⚫日本文化の“お約束”(コンテクスト)が共有されたアニメが強い
そして認知度という意味では、日本アニメが持つ“お約束”が、世界各国に通じているかどうか?
ここも勝負を分けたところだと思います。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は、「ガンダム」シリーズの魅力でもある複雑なストーリーが、アニメを観始めたばかりの国や地域では馴染みがないかもしれません。
『【推しの子】』も、各部門に多数ノミネートされながらも受賞はアニソン部門のみ。「推しのアイドルに転生した」「芸能界の裏側を描く」という設定が、日本のアイドル文化に馴染みのない地域には伝わりにくいのかもしれません。
一方で、『呪術廻戦』が9【11】冠。先に紹介したギータCOOのインタビューで「中南米のほか中東と北アフリカでは、少年マンガ系のクラシックなビッグタイトルが好まれています」という回答と合わせて考えると、少年マンガの「仲間と一緒に戦って勝つ」フォーマットは、世界の様々な地域で共有されている“お約束”なのだと考えられます。
日本アニメのファンにわかりやすいフォーマットに「学園もの」がありますが、近年は「異世界もの」が加わっています。「パーティーを組んで魔王やモンスターを倒して勇者になる」というRPGの世界観がゲームなどで浸透しているのだと思いました。現在異世界アニメが激増し、日本のファンからすると多すぎるとの声もありますが、日本のアニメ業界では、日本人気以上に世界人気(配信権販売)を重視しているのかもしれません。
■日本には関係がないのか?
ここまで一気にお伝えしてきましたが、「海外ファンのための賞だから、日本には直接関係ないですよね」と感じる方もいらっしゃると思います。実際私もそのひとりでした。
でも、クランチロールという企業と「アワード」を2年ほど調査・取材して気づいたことがあります。
アニメ作品人気には、原作や日本文化の認知度も影響するとお伝えしましたが、認知度が限られている作品でも、ノミネートに入ったとしたら、認知度が低い国でも「アワードにはこの作品が入ったのか。じゃあ観てみようかな」とその国でのお客さんが増える可能性もあるわけです。
配信でも視聴率のデータが取られていて、視聴率が高い作品は続編シリーズへの期待も高まる。出資する企業も増えるだろうし、製作委員会が販売する「配信権」の値段も上げられるかも知れない。
めざせ配信視聴率アップ! 日本の作品公式アカウントも、アワードへの投票を呼びかけているのはそうした理由もあるのかもしれません。
日本のコンテンツは、すでに日本だけでなく、世界中の人に向けられています。
海外のアワードを通して“アニメ発信地”としての日本が今後どのように展開していくかが見えてくるとも思います。
追記…クランチロールの方から実際とは異なる点をおうかがいしました。 間違いには訂正線を引き、正しい表記を【 】内に記しました。よろしくお願いします!