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美容師とライターの共通点。裏方になりきれるか
今の美容院に通ってちょうど1年になる。40代の女性オーナー・Yさんが一人で切り盛りする完全個室サロンは、他にお客さんがいないので、気兼ねなく過ごせる。人当たりが柔らかく仕事熱心なYさんと気が合うことも、リピートしている理由の一つだ。
私は美容院に行くと必ずと言っていいほど、髪のケア方法、頭骨や骨格によって似合う髪型などについて質問し、その度に美容のプロフェッショナルならではのアドバイスを受けている。正しい知識を得ると、美容に関して目指す方向性が明確になる。数年前まではオシャレ迷子だった私が、自分のなりたい姿をイメージできるようになったのは、間違いなくYさんのおかげ。感謝しかない。
今日は2カ月に1度の美容院で髪を切る日。Yさんと仕事に関する話をしたところ、「美容師とライターの共通点」が見えてきた。
美容師の素質がない人は「自分が主役」から抜けきれない
Yさんは、美容専門学校の出身。そして今でも若い美容師と関わる機会は多い。Yさん然り、美容の道を志す人はほぼ例外なく「オシャレが好き」という共通点をもつらしい。この時点では「私」はオシャレが好き、だから美容について深く学んでみたいというモチベーションだ。
もちろん、最初の動機はこれで問題ない。ところが、厄介なのが、美容の力で「他者」を輝かせたいというモチベーションをもてない人が一定数いること。いつまでも主役は自分。美しく輝きたいのは自分だという。
華々しく見える美容業界。でも、「実際のところは、めっちゃ地味なんですよ」とYさんは語る。お客の髪質や骨格を観察し、瞬時に似合う髪型を判断する。もちろんお客の要望を聞きながら、限りなくイメージに近い形を再現する。主役はお客であり、自分ではない。
Yさんは、お客の髪色がよく見えるようにと、いつも黒いワンピースを着ている。肌が弱いらしく、カラー剤の薬品を塗布する手指は赤くひび割れていた。「職業柄、仕方ないですよね~」と明るく笑うが、。
そう、美容師とは裏方の仕事なのだ。
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ライターとは「裏方」の仕事
「裏方」として他者を輝かせるというのは、美容師に限ったことではない。ライターという仕事はまさに「裏方」の仕事の代表格だ。私は取材ライターとして活動しているが、大概は誰かにインタビューをしたうえで記事を執筆する。もちろん主役は、話し手だ。
そして、忘れてはならないのは、クライアントの存在。話し手の魅力をじゅうぶんに伝える文章は、同時にクライアントと目指すゴールをそろえなければならない。媒体によってライターの名前が出る記名記事もあれば、完全に黒子と化する記事だってある。まさに「裏方」なのだ。
ひと昔前は、ライターという仕事は、文章を書く仕事の中でも地位が低いと言われていたそうだ。作家やコラムニストが上流階級で、「私以外の誰かの言葉を翻訳する」ことを目的としたライターは下流という構図。もちろん今ならそのように解釈する人は少数派だろうけど。
実際、Yさんはライターという仕事について「なんかカッコいいですよね。スタバでノートPCを開いておしゃれに仕事してる感じ?」という漠然としたイメージを持っていると話してくれた。私としては意外だった。ライターってオシャレに思われる仕事だったのか…!
他者にスポットライトを当てる
実際のところ、美容師もライターも華やかな仕事ではないと思う。スポットライトを浴びることなく、地道にコツコツ「他者」を輝かせる。でも、私はそんな裏方的な仕事が案外気に入っている。性に合っているというのかな。
自称・書くことが好きな人が、ライター仕事って面白くないと感じるのは、自分にスポットライトを当てているからかも。そういう方は、裏方としてのライターよりも、アーティスティックな作家やエッセイストが合っているかもしれない。
書くことが好きでライターになったけどモヤモヤしている方は、ぜひこちらの記事も読んでみてください。
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