サヨナラ、3人乗り自転車
お別れは突然に
ピラティスの帰り道。
自転車に乗ろうとした瞬間、その時はやってきた。
3人乗り子乗せ自転車の後輪がショートした。
9年前、双子と乗るために買った3人乗りの電動自転車。
ここ数年は私一人で乗っていたけれど、双子が2歳の頃からどこに行くにも一緒だった。
当時住んでいた福岡でも、引っ越してきた横浜でも、自転車は私の相棒だった。
そろそろ限界だろうな。半年前にも一度タイヤのチューブ交換をしていたので、もうお別れの時期が近づいてることには気づいていた。でも、新しい自転車に買い替えることが出来なかったのだ。
自転車がないと私の生活はままならないので、家とは反対方向のサイクルショップに行くことにした。動かなくなってしまった自転車を押すと、タイヤから異音がするようになった。
ギィギィーーーーズズズズ……。
ギィギィーーーーガランガランガラン…。
音はどんどん大きくなる。
夕暮れ時、帰宅中のサラリーマンも、子連れの家族も、通りすがりの車のおじさんもこっちを見ている…。
なんとかサイクルショップにたどり着くと、店員さんはひと目見て「あー、これはもう厳しいですね〜」と言った。
タイヤ(ゴム)がだめなんだと思っていたら、車輪の金具も全部劣化していて、このまま乗っていたらそのうち飛び散っていたかもしれない…という。
怖すぎる…そんな状態の自転車に乗っていただなんて。
「タイヤ交換も出来なくはないけど…。この電池ももう作られていないので…。」
よーく分かった。
この自転車はもうしっかり古いのだ。買い替えるしかない。
新しい自転車
別れがたかった3人乗り自転車は、あっという間にお別れのときが来てしまい、新しい自転車を買うことになった。
私の住む街は坂が多いので、電動自転車がなければやっていけない。
電動自転車の耐使用年数は7〜8年だという。
30代を一緒に駆け抜けた3人乗り自転車の後継として、40代を素敵に過ごせる自転車を選ぼう。
どんな形にしようかなー。色は?かごは?
最新の自転車事情を調べた結果、パワー型の26型シティサイクルに決めた。
無事に欲しかった自転車を購入し、新しい自転車に乗って帰ることにした。
突然の喪失感
待望の新しい自転車を手に入れて、これからどんな風にカスタマイズしよう?後ろにカゴでもつけちゃおうかな〜。なんて思っていたのに…
自転車に乗った瞬間。
真っ暗になった帰り道で、急に3人乗り自転車で、前に息子、後ろに娘を乗せていた映像がフラッシュバックしてきた。
もうこの自転車には、前子乗せも、後ろ子乗せもないのに…。
我が家は双子なので、3人で一緒に乗れた期間は少ない。
それなのに、当時双子を乗せて保育園に通っていたことや、みんなでスーパーに買い物に行ったことがブワっと溢れてきて、泣きそうになってしまった。
なんだこの喪失感…。
そうか、私の子育てのステージはもう変わったんだ。ということを突きつけられているような気がして、淋しいうというかなんというか。
双子育児がしんどくて、あれだけ早く大きくなってほしいと願ってきたのに。
タイヤも大きくてなんだかしっくり来ないし、思ったほどスピードも出ないし、子乗せスペースが無くなってしまったので、荷物を載せれる場所も減ってしまった。こころなしかグリップもベタベタする気がする…。
あーあ、新しい自転車なのに。
自宅に帰ると、双子が「新しい自転車どうだった?」と聞いてくる。
ごめん、母は今そんなテンションじゃない。
「なんかちょっと悲しくなっちゃった」
そう伝えると、不思議そうにこちらを見つめてた。
私に必要だったもの
数日後、自転車で買い物に行く用事ができた。
あの日、自転車を買ってセンチメンタルな気持ちになってしまったので、ちょっと自転車に乗る気分じゃなかったけど、新しい相棒も乗っているうちに愛着が湧くだろう。
そう思って自転車に乗っていると、同じように一人乗りの電動自転車に乗った白髪のマダムが私を颯爽と追い越していった。
そうか、私もあんな風になろう。
3人乗り自転車部門は引退したので、これからは電動自転車部門で楽しくやっていこう。
そんなことを思いながら、まだ馴染まないグリップを見つめると、ギアが付いていることに気がついた。
そうだった、店員さんがギアを変えてくださいね。って言っていた。
3人乗り自転車には、ギアがついていなかったので、ギア付き自転車は10年ぶりぐらいになる。
思い切って一番重くした。
すると…
ぐんぐん進む。
とんでもないスピードで。タイヤも大きいからか、どんどん進む。
なにこれ!なにこの爽快感!
予想より早く目的地に着くことが出来た。おそるべし、ギアのパワー。
そうか、私はギアチェンジをすればよかったんだ。
子育てもフェーズが変わっていくんだから、私も変わらないとな。
正直、3人乗り自転車がいなくなってしまった喪失感は癒えないけれど、新しい相棒と新しい時間を過ごしていけそうな気がしてきた。