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【コロナの感染経路と経済】住民の半分がコロナ感染した町。イタリア北部の静かな町で何が起こったのか?

第3回 イタリアー中国編です。







 イタリア北部ロンバルディア州ネンブロの中心部に、おもちゃ屋がある。シャッターは閉まっている。このシャッターが開くことはもうない。おもちゃ屋を経営していた年配のピエラさんが新型コロナウイルス感染症にかかり、死亡したのだ。隣で息子たちと共に金物屋を営んでいたピエラさんの兄弟も、コロナで亡くなった。

 これは、この小さな町を襲った多数の悲劇の一つに過ぎない。

 イタリアをはじめ、欧州の多くの国で経済活動が再開する中、ネンブロのような町はニューノーマル(新常態)を見出すのに苦労している。傷痕があまりに生々しいからだ。

 理容室を営むマニュエルさんは「月に1度通ってくれていた常連の少なくとも10人が亡くなった」と言う。「彼らに二度と会えないというのが本当に信じられない」

 ネンブロはイタリアが新型コロナウイルス流行の結果、大きな社会的・経済的代償を払ったことを示す象徴的な町だ。

 パンデミック(世界的な流行)のさなか、町の死亡率は10倍にまで膨れ上がった。イタリアの小さな共同体がここまで深い衝撃、それに悲しみを経験したのは第2次世界大戦以降初めてだった。

 人口約1万1000人のネンブロは、国内で最大の打撃を受けたロンバルディア州内で、最も被害が大きかった地域にある。

 イタリア国立統計研究所によると、ネンブロの3月最初の3週間の死者数は、昨年全体の死者数の10倍以上に上った。人口比でいうと、国内でここまで被害が甚大だった自治体はない。

 先月25日に発表されたデータでは、ネンブロは世界最大の被害を受けた町である可能性が示された。新たな検査では、人口の49%が新型コロナウイルスにかかったと推定されるという。

 ネンブロは国内有数の工業地帯、バッレセリアーナの玄関口にあり、花壇つきの邸宅や子どもの遊び場、アフタースクールつきの教会や噴水がある広場などがそろった豊かなコミュニティーだ。輸出入に依存していた企業にとって、中国とのつながりは日常的なものだった。

 英テレグラフ紙の取材に対し、ネンブロのクラウディオ・カンチェッリ市長は「3月に入ってからの15日間は、毎日10人が死亡した。誰も事態を把握できなかった」と話した。

 2月23日に隣接する町アルザーノロンバルドの病院で最初の感染が発生した時、すぐにでもロックダウン(都市封鎖)が始まるといううわさが広がった。しかし、3月8日まで何も起こらなかった。

 カンチェッリ氏は「2月末にベルガモで会議があり、他の首長も集まった」と述べた。「誰もマスクをしていなかった。今となってはまったく信じられない」


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■写真館を訪れるのは遺影を作る人のみ

 2月23日から3月30日までの間に、ネンブロでは188人が死亡した。前年同時期と比べると10倍の死者数だ。

 市長の執務室の下には、市内での出生数や死者数を記録する登記所がある。そこでは2月末に所長がせきや高熱などの症状で体調を崩した。それから数日で職員3人が同様の症状を訴えた。3月5日には、女性職員1人しか残っていなかった。この職員は翌日病院に緊急搬送され、2日後に死亡した。

 職員1人が死亡、3人が重症となり、登記所は人員を埋めることができなくなった。ネンブロ議会は急増し続けた死者数を記録できず、しまいには数えきれなくなってしまった。

 町は現在、少しずつ日常を取り戻しつつある。しかし、外出する住民はごくわずかだ。

 ソニア・クアランタさんは町の中心部で写真館を営んでいる。結婚する予定の若いカップルに人気があるため、ネンブロ住民はほぼ全員、クアランタさんと顔見知りだ。

 クアランタさんは「2月末から3月初めにかけて、みんなハエが落ちるかのように倒れてしまった」と言う。「ある時点で、亡くなった愛する人の遺影を作る客しか来なくなったことに気付いた」


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■「住民でなければ、起こったことの重みや大きさは理解できない」
 住民の多くは、この一帯での感染拡大は2月よりずっと前から始まっていたと考えている。このような疑いから、近隣のベルガモでは一帯をレッドゾーンに指定しなかったことをめぐって検察の捜査が始まった。検察によると、一帯での新型コロナウイルスの感染拡大は昨年12月ごろから始まっていたという。

 その中心地となったのがアルザーノロンバルドとネンブロだ。アルザーノロンバルドのペセンティ・フェナローニ病院では昨年末、正体不明のウイルスが流行し、40人が治療を受けた。ウイルスはその数週間後、新型コロナウイルスだと確認された。

 地域有数の葬儀社を営むステファノ・バルチェラさんは、死者数の急増を肌で感じたと言う。

 バルチェラさんはこれまで月に約120件の葬儀を取り扱ってきた。「今年に入ってからどれほどの葬儀をしたと思う?1090件だ」「今年1月から何かが明らかにおかしかった。例年の倍の葬儀を行っていて、その時点ではなぜなのか分からなかった」

 新型コロナウイルスによるイタリア全体の死者数は3万5000人を超えた(8月7日時点)。実際の死者数は間違いなくもっと多い。検査を受けることなく亡くなった人もいるからだ。

 イタリアは夏真っ盛りだ。町の狭い通りを歩いている人たちは、いまだに根気強くマスクを着用している。口はマスクでふさがれているため、住民は目で笑いかける方法を学んだ。

 ネンブロのカンチェッリ市長は「ここでは今でもほとんどの企業が輸出に依存している。その輸出がここ最近まったくできなくなった。秋になったらどうなるのか、特に懸念している」と話す。

 写真館を営むクアランタさんは「恐怖や不安が渦巻いている。ネンブロに住んでいなければ、ここで実際に起こったことの重みや大きさを理解することはできないだろう」と話した




イタリア北部の感染経路

イタリアが「欧州の武漢」に、なぜ新型コロナウイルスの感染は広がったのか

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これまでのところ、欧州で新型コロナウイルスの感染拡大が最悪の状況を迎えているのはイタリアだ。そこでは、日常生活は不気味で行き場のない静寂にとらわれている。夜を迎えればいっそう不安は募る。

ダビデ・ベネッリさんは自宅で、「救急車が行き交う音が聞える。新型ウイルスとは無関係の病人のもとに向かっているのかもしれないが、不安になることには変わりない」と話す。彼が暮らすのは、イタリア国内で封鎖状態にある「レッドゾーン」に位置する人口約1万5000人の街、カサルプステルレンゴだ。感染が拡大したのは1週間前である。

ある朝、目を覚ますと、カフェやレストラン、学校は休業状態だった。作付けの時期が迫る農家は気を揉んでいる。親たちは、子どもの退屈を紛らわせようと家の近くでゲームやお手伝いをさせたり、ときには自転車や自動車で遠出している。

イタリア北部の工業中心地がこのような麻痺状態に陥ったことをきっかけに経済の動揺は欧州全体に波及している。だがイタリアは、散発的に見える感染拡大が数日中にも拡大する可能性をどうやって抑え込むのか手探りの状態で、ユーロ圏第3位のイタリア経済はリセッションの瀬戸際に立たされている。

イタリア当局は同国で最も生産性の高い地域を封鎖し、主要な観光向けイベントの1つであるベネチアのカーニバルを中止し、ミラノのデザインの祭典「ミラノサローネ」も延期された。



イタリア金融界の中心地であるミラノを取り巻くロンバルディア州は、スイスとの国境に位置し、欧州でも最も豊かで生産性の高い地域の1つである。隣接するベネト州など、やはり新型ウイルスの感染拡大による打撃を受けている他の主要地域と合わせて、この地域はイタリアの経済生産の約3分の1を担っている。

エコノミストらの予測では、ただでさえ不振に悩んでいるイタリア経済は、この危機によって第1四半期末までにリセッションに陥り、波及的な影響は数カ月にわたって続くという。

ベネト州のルカ・ツァイア知事は、「ベネトには60万社の企業があり、年間GDPは1500億ユーロ(約18兆円)だ。もしこの州がリセッションに陥ったら、イタリア経済も沈む」と語る。

2月23日に始まった封鎖措置はロンバルディア州で10カ所、ベネト州で1カ所の街を対象としており、約5万人の住民が外の世界と隔絶されている。最低限の必需品を積んだトラックは出入り可能だが、警察が設置した障害物により、それ以外の人々は閉じ込められている。

イタリアの事例は、西側諸国の経済が予想外の外的事象に対していかに脆弱かを示している。封鎖された「レッドゾーン」とその周辺地域は、イタリア経済の縮図である。この地域では、企業の倉庫や物流センターから、チーズ・酪農加工センターに至るまで、あらゆる事業活動が見られる。

地元のエンジニアリング産業労働組合によれば、主として「レッドゾーン」で生活する約6000人の製造業労働者が自宅待機もしくは短縮勤務になっているという。

FIM-CISL労組の地元支部で事務局長を務めるアンドレア・ドネガ氏は、「非常に憂慮している。雇用への影響について信頼性の高い推計が得られるには数カ月かかるだろう。だが、当面の兆候は警戒を要する」と話す。

銀行は、住民による現金の引き出しを確保する措置をとっている。この地域の主要銀行のひとつ、バンコBPMは、他銀行の顧客が同行ATMを利用する場合、暫定的に手数料を徴収しないことにした。

ウイルスの感染がほとんど及んでいない地域にも影響が生じつつある。イタリアの観光業連盟であるアッソツーリズモによれば、3月のホテル・旅行代理店の予約キャンセルは、ローマで最大90%、シチリアで最大80%に達するという。学校の旅行や国内での会議が中止され、外国人観光客も慎重になっているためだ。

「近年、イタリアの観光業がこれほどの規模の危機に瀕したことは一度もない。最悪の時期を迎えている。9.11のときでさえ、これほどの打撃はなかった」と語るのは、アッソツーリズモを率いるビットリオ・メッシーナ氏。



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■感染拡大の理由


イタリア国民は、自国がなぜ「欧州の武漢」になってしまったのか、理由を知りたがっている。イタリアで最初の症例が発見されたのは1月末である。死に至る場合もある感染症の震源地となった武漢からの中国人観光客2人がイタリア旅行中に発症したのだ。

この夫妻は直ちに隔離され、接触のあった人は全員ウイルス検査を受けた。イタリア政府はさらなる感染を防止するため、他の欧州諸国に先駆けて、中国との直行便を発着ともすべて禁止した。上述の2人の中国人が他の誰かにウイルスを感染させたとは考えられていない。

ジュゼッペ・コンテ首相は1月31日、記者団に対し、「イタリアが実施した感染予防体制は、欧州で最も厳しいものだ」と自信ありげに語った。

だがその自信は裏切られた。

2月21日、ロンバルディア州は、ミラノ南東60キロにあるコドニョ出身の38歳のイタリア人男性が新型ウイルス陽性と診断されたと発表した(「マッティア」という名だけが発表されている)。それから1週間以内に888人の感染が確認され、そのうち21人が死亡した。

複数の新型ウイルス肺炎患者の治療に当たっているミラノのサッコ病院で感染症担当部門を率いるマッシモ・ガッリ氏は、「我が国は、最も思い切った迅速な予防措置を採った国だと考えられていた」と話す。だが同氏は、「国内感染者1号」とされるコドニョ出身の「マッティア」氏が発症するよりだいぶ前から始まっていたのではないか、と言う。

■「患者ゼロ号」
地元当局によれば、この感染症は100人に2人の割合で肺炎など生命に関わる合併症にかかるが、無症状のまま終る人もいるため、自覚のないまま多数の人に感染させる可能性のある「ステルス・キラー」を生んでしまう。

現地当局者によれば、「マッティア」氏が2月18日にコドニョの病院を訪れた時点では、中国への渡航歴がなかったため、その症状については何の警戒もしなかった、という。

だが、その結果は深刻だった。

地元の保健当局によれば、来院した日を救急処置室で他の患者に囲まれて過ごした後、自宅に戻ることを決めた。だが症状は悪化し、翌日、何の感染予防措置も施さないまま病院に戻った。

ウイルス感染を診断されたのは2月20日夜。そのときまでに5人の医療従事者と、少なくとも1人の同室患者、そして妊娠中の妻と友人1人が感染した。彼らもまた、隔離される前にウイルスを拡散させた。

同病院の看護師は27日、ロイターに対し、同氏が来院する何日も前から新型ウイルス肺炎は広まっていたのではないかと思う、と語った。

この看護師は匿名で「最初の症例が確認される少なくとも1週間前から、肺炎の症例が異常に増えていた。こうした患者は治療を受けて帰宅している」と語った。

同氏がウイルス陽性だったというニュースが報じられてから数時間は、混乱を極めていたと彼は言う。

「当初、病院経営陣は我々を30時間院内に留め置いた。それから自宅に戻って自己隔離に入るよう命じられた。そして結局、勤務に戻るよう言ってきた」と言う。「結果的に、コドニョ病院では患者よりも医療従事者の感染の方が増えてしまった」

病院も、地元の保健サービスを監督するロンバルディア州当局も、こうした状況を認めている。ロンバルディア州当局は、イタリア政府が1月末の時点で新型ウイルス感染が疑われる患者に対する検査ガイドラインを変更したという。新たなルールでは、検体を採取しなければならないのは、中国との関連のある患者に限定されていた。だが、同氏はこの条件に該当しなかった。

コンテ首相の不満に促されて、検察当局はコドニョ病院が従った手続についての捜査を開始した。だが、何らかの結論が出るには何週間もかかる可能性がある。

イタリアの富裕な北部に誰が新型ウイルス肺炎を持ち込んだのかは誰にも分からない。科学者らは当初、最近中国からの出張から戻ってきた同氏の同僚が自覚なき「患者ゼロ号」ではないかと考えた。だが、この同僚の検査は陰性であり、他にはこれといった候補が残っていない。

マリノ・ファッチーニ博士率いるミラノの専門家チームが、感染拡大の出発点を突き止める任務を与えられている。だが、数日間にわたって想定しうる感染経路を追跡したものの、成果は得られなかった。

「現時点では感染拡大の抑制に努めており、患者ゼロ号を探すことにはあまり力を入れていない。患者ゼロ号が感染したのはかなり前であり、突き止めるのは困難だ」












イタリアが「一帯一路」構想に関する覚書に署名(中国)

イタリアは3月23日、中国と「一帯一路」構想に関する覚書を締結した。これにより、イタリアはG7の中で同構想に係る覚書を交わした最初の国となった。イタリアは同構想に参画し、インフラ分野などでビジネス協力を展開するほか、中国からの投資増を促し、景気回復の一助とすることなどを狙っている。これに対して、米国やEUの一部の加盟国からは、イタリアの中国傾斜を懸念する声も上がっている。

本レポートは、「一帯一路」構想をめぐる昨今の中国とイタリアの関係緊密化の状況を紹介しつつ、両国間の経済交流が拡大していることを示す。そして、それに対する欧州各国などの見方に言及する。

中国企業がイタリア港湾事業に参画
中国の習近平国家主席は3月21日から26日、イタリア、モナコ、フランスを訪問した。その中で、習主席は同23日に、イタリアのコンテ首相とローマで会談を行い、両国は「一帯一路」構想に関する覚書を締結した。

中国外交部によると、この覚書を契機に、「一帯一路」構想と、イタリアの「北部の港建設」「イタリア投資計画」の結合を強化し、各分野での互恵協力を推進するとしている。また、密接に利益を融合させることにより、協力の最適化とレベルアップを推進し、宇宙技術、インフラ建設、交通、環境、エネルギーなどの優先分野で、早期に多くの成果を上げるとした。

覚書の中には、中国交通建設がジェノバ西リグリア港湾ネットワーク管理局や東アドリア港湾ネットワーク管理局と結んだ協定も含まれている。これにより、中国企業がイタリアの港湾事業に参画することとなった。ジェノバ西リグリア港湾ネットワーク管理局との協定には、インフラ投資のプラットフォーム構築やジェノバ港とジェノバ市のインフラのレベルアップが、アドリア港湾ネットワーク管理局との協定には、トリエステ港とモンファルコネ港の物流の改善などが盛り込まれている。

イタリアはG7の中で初めて「一帯一路」構想に関する覚書を締結した国となった。イタリア以外のG7各国などは、「一帯一路」構想に慎重な姿勢を取っていたため、さまざまなメディアがこれを大きく報じた。

中国からの投資を、低迷するイタリア経済回復の起爆剤に
イタリアは覚書締結前から、「一帯一路」構想に興味を示していた。

イタリアは2015年、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加した。AIIBはアジア太平洋地域のインフラ整備の支援を目的とした銀行で、2015年末に中国主導で設立された。現在、100近くの国・地域が参加しており、その中には英国やドイツも含まれている。イタリアの出資額は25億7,180万ドルで、2万8,252の議決権を保有している。

2017年5月に開催された第1回「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムには、イタリアのジェロンティーニ首相(当時)も参加した。その際、「『一帯一路』構想は中国とイタリア両国により幅広い分野で協力する重要な機会をもたらしてくれる。イタリアの経済発展にも大きな機会をもたらす。イタリアは『一帯一路』構想を受け入れるだけではなく、その中に積極的に参画していく」とコメントしている(「人民網」2017年5月15日)。

今回の覚書締結の1カ月後の4月、コンテ首相は北京で開かれた第2回「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラム(2019年05月22日付ビジネス短信参照)に出席し、その際、習国家主席と会談した。会談の中でコンテ首相は同フォーラムの成功に祝意を伝えるとともに、「イタリアの『一帯一路』構想への態度はゆるぎなく、この構想は世界に大きなチャンスを与えるだろう」と発言した。また、「イタリアと中国は戦略的パートナーであり、中国企業のイタリアへの投資を歓迎する。イタリアは中国企業への差別的な政策は取らない」と、イタリアへの投資を呼び掛けた。

報道などによると、イタリアが「一帯一路」構想の覚書に締結した理由の1つに、中国による投資を低迷する経済環境の回復に利用したいというイタリアの思惑がある。イタリアはリーマン・ショックや欧州債務危機以降、経済環境と財政状況が悪化しており、GDP成長率も0%前後と低水準で推移している。2016年、2017年には成長率が1.0%を超えたが、2018年には0.9%と再び減速した(図1参照)。IMFも2019年と2020年のイタリアの経済成長率をそれぞれ0.1%、0.9%と予測しており(2019年4月時点)、今後、イタリアの経済が劇的に改善するとは考えにくい。

イタリアのディマイオ副首相は、一連の覚書による経済協力規模は200億ユーロに上るとしており、中国からの投資を取り込むことで、このような局面を打開しようとしているという。

図1:イタリアGDP成長率
イタリアはリーマンショックや欧州債務危機以降、経済環境と財政状況が悪化しており、GDP成長率も0%前後と低水準で推移している。2016年、2017年には成長率が1.0%を超えたが、2018年には0.9%と再び減速した。
出所:CEIC、Istatからジェトロ作成

投資、貿易ともに増加傾向
近年は中国からイタリアへの投資が伸びている。中国対外直接投資統計公報で中国からイタリアへの投資額を見ると、2015年までは1億ドル前後で推移していたが、2016年に前年比7倍の6億3,344万ドルと急成長した。2017年には33.0%減の4億2,454万ドルとなったが、2015年以前と比較すると非常に大きな額と言える(図2参照)。

図2:中国の対イタリア投資額の推移
中国対外直接投資統計公報で中国からイタリアへの投資額を見ると、2015年までは1億ドル前後で推移していたが、2016年に前年比7倍の6億3,344万ドルと急成長した。2017年には33.0%減の4億2,454万ドルとなったが、2015年以前と比較すると非常に大きな額と言える。
出所:中国対外直接投資統計公報からジェトロ作成

中国外交部によると、中国企業や金融機関は近年、M&A、株式取得、共同出資などを通じて、イタリア企業と良好な関係を築いている。中国企業は「インテル・ミラノ」や「ACミラン」といった有名サッカークラブ、高級ヨット製造企業など、幅広い分野への投資を積極的に行っており(表1参照)、イタリアは中国企業の旺盛な投資を自国の経済成長の起爆剤にしようとしていると各種メディアが報じている。

表1:中国の対イタリア投資案件の例
年 中国企業 内容
2008 中聯重工科技発展 2億7,100万ユーロで世界第3位のコンクリート機械設備メーカー、CIFAの株式を100%取得。
2012 山東重工(濰柴集団) 3億7,400万ユーロで高級ヨット製造企業のフェレッティの株式の75%を取得。
2013 中国石油天然ガス集団 42億ドルでEni東アフリカ会社の株式の28.57%を買収。Eniはイタリア最大の資源会社。
2014 国家電網 21億100万ユーロでイタリアのCDP社からCDP RETIのの35%を取得。
2014 上海電気集団 4億ユーロでイタリアの重電企業のアンサルド・エルネジアの株式の40%を取得。
2015 中国化工集団 71億ユーロでイタリアのタイヤ大手ピレリから株式の26.2%を取得。
2016 蘇寧雲商集団 2億7,000万ユーロでイタリアのサッカークラブ「インテル・ミラノ」の70%の株式を取得。
2016 AGIC インベスト 約1億ユーロでイタリアの先端技術やロボットを手掛けるジマテックの買収を発表した。
因みに、AGICインベストは中国投資有限責任が出資するプライベート・エクイティ・ファンド。
2016 中国遠洋海運集団 5,300万ユーロでヴァード・ホールディングの株式の40%を買収すると発表。ヴァード・ホールディングは、イタリアのヴァド港でリーファー・コンテナ・ターミナルを運営していた。
2017 中国交通建設 296万ユーロで、ベネチア港務局と中国交通建設をはじめとする中国・イタリア企業連合はベネチア沖の深水港の設計について契約を締結。
2017 中欧体育投資管理 7億4,000万ユーロでイタリアのベルルスコーニ元首相一族の持ち株会社であるフィンインベストから、イタリアサッカー1部リーグ(セリエA)の「ACミラン」の株式の99.93%を取得。
出所:中国外交部、ジェトロ調査レポート、各種報道などからジェトロ作成。

また、イタリアでは投資面だけでなく、貿易面でも中国の存在感が大きくなってきている。

2018年の貿易動向についてイタリア側の統計を見ると、イタリアにとって中国は5番目の貿易相手国にして、アジア最大の貿易相手国だった(表2参照)。世界各国との貿易で中国は大きな存在感を示しているが、イタリアも例外ではない。

表2:2018年のイタリアの貿易相手国(△はマイナス値)
順位 国 貿易総額
(単位:100万ドル) 構成比
(単位:%) 前年比
(単位:%)
1 ドイツ 151,742 14.5 10.3
2 フランス 100,405 9.6 9.2
3 米国 68,931 6.6 10.1
4 スペイン 52,714 5.0 4.6
5 中国 51,866 5.0 9.4
16 日本 11,095 1.2 △ 0.2
合計 1,047,418 100.00 9.01
出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

貿易総額については、2012年以降400億ドル台で推移していたが、2018年には2011年以来7年ぶりに500億ドル台となった(図3参照)。

図3:イタリアと中国の貿易総額PDFファイル (105KB)
一方、2018年の中国側の統計を見ると、中国にとってイタリアは24番目の貿易相手国・地域であり、EUの中で5番目の貿易相手国だった。中国の貿易額全体から見ると、イタリアの占める割合は1.2%にすぎない(表3参照)(注)。

表3:2018年の中国の貿易相手国(中国側統計)
順位 相手国 貿易総額
(単位:100万ドル) 構成比
(単位:%) 前年比
(単位:%)
1 米国 631,152 13.7 9.4
2 日本 327,193 7.1 8.4
3 韓国 313,342 6.8 12.0
4 香港 310,696 6.8 8.8
5 台湾 225,392 4.9 13.4
6 ドイツ 183,933 4.0 9.8
15 オランダ 85,381 1.9 9.2
17 英国 80,686 1.8 2.5
21 フランス 62,952 1.4 16.0
24 イタリア 54,326 1.2 9.9
合計 4,600,329 100.0 13.5
出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

加えて、中国とイタリアの貿易は決して均衡を保っているとは言えない。中国側の統計を基に中国の対イタリア貿易収支を見ると、2018年は121億2,200万ドルの黒字を計上した。ここ10年間、中国は対イタリア貿易で黒字を保っており、2010年のピーク時と比べれば減少しているものの、貿易収支は近年は100億ドル前後で推移している(図4参照)。

図4:中国の対イタリア貿易収支
中国側の統計を基に中国の対イタリア貿易収支を見ると、2018年は121億2,200万ドルの黒字を計上した。
出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

ちなみに、中国側の統計から貿易上位品目を見ると、輸出入ともに84類、85類など機械類が目立つ。84類と85類は中国の対イタリア輸出の約40%、輸入の約30%を占めている(表4参照)。

表4:中国の輸出入別主要品目
中国のイタリアへの輸出品目上位5品目
順位 HS 品目名 輸入額
(単位:100万ドル) 構成比
(単位:%) 前年比
(単位:%)
1 85 電気機器およびその部分品ならびに録音機、音声再生機ならびにテレビジョンの映像および音声の記録用または再生用の機器ならびにこれらの部分品および付属品 7,026 21.1 22.9
2 84 原子炉、ボイラーおよび機械類ならびにこれらの部分品 6,093 18.3 9.0
3 62 衣類および衣類附属品(メリヤス編みまたはクロセ編みのものを除く) 1,483 4.5 2.9
4 29 有機化学品 1,436 4.3 28.5
5 72 鉄鋼 1,257 3.8 29.3
合計 33,224 100.0 14.2
中国のイタリアからの輸入上位5品目
順位 HS 品目名 輸入額
(単位:100万ドル) 構成比
(単位:%) 前年比
(単位:%)
1 84 原子炉、ボイラーおよび機械類ならびにこれらの部分品 5,455 25.8 8.3
2 30 医療用品 1,834 8.7 -0.8
3 42 革製品および動物用装着具ならびに旅行用具、ハンドバッグその他これらに類する容器ならびに腸の製品 1,244 5.9 23.8
4 85 電気機器およびその部分品ならびに録音機、音声再生機ならびにテレビジョンの映像および音声の記録用または再生用の機器ならびにこれらの部分品および附属品 1,239 5.9 16.8
5 90 光学機器、写真用機器、映画用機器、測定機器、検査機器、精密機器および医療用機器ならびにこれらの部分品および附属品 1,025 4.9 14.5

EU以外の地域からも懸念の声
中国は他の欧州諸国とも覚書などを締結している。欧州の締結国は中・東欧の旧共産主義国や、ギリシャのように債務危機に見舞われた国が多く、フランスやドイツなど欧州主要国は覚書を締結していない(参考参照)。

参考:中国と「一帯一路」構想に関わる協力文書に署名した欧州の国家一覧
EU加盟国
オーストリア
ギリシャ
ポーランド
チェコ
ブルガリア
スロバキア
クロアチア
エストニア
リトアニア
スロベニア
ハンガリー
ルーマニア
ラトビア
マルタ
ポルトガル
イタリア
ルクセンブルク

非EU加盟国
ロシア
セルビア
アルバニア
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
モンテネグロ
北マケドニア
ウクライナ
ベラルーシ
モルドバ
注:2019年4月30日時点
出所:一帯一路網からジェトロ作成

中国が欧州で影響力を強めていることがうかがえるが、このような中国の動きに対し、EUおよび一部のEU加盟国からは懸念を示す声が上がっている。

2018年10月、EUはインフラ整備などを通じて欧州とアジアのつながりを強化する新アジア戦略を採択した。戦略は財政面の持続可能性を重視するアジア支援を強調しており、中国の「一帯一路」構想を意識したものだとされている(「日本経済新聞」3月11日)。

EUの報道官は3月7日、「全加盟国はEUの結束を尊重する責任がある」とし、中国との首脳会談に臨むイタリアにEUへの配慮を求めた(同上)。

さらに、欧州委員会は3月12日、中国との関係を見直す「10項目の行動計画」を策定(2019年3月13日付ビジネス短信参照)、3月21、22日にベルギーのブリュッセルで開かれた首脳会議でそれを議論した(2019年3月25日付ビジネス短信参照)。具体策の作成には至らなかったものの、ユンケル欧州委員長は首脳会議後の記者会見で、「中国は競合相手だ」と、中国に対する警戒心を示した(「日本経済新聞」3月22日付)。フランスのマクロン大統領も同じ記者会見で、「中国は欧州の分断につけ込んでいる」と指摘した(「朝日新聞」3月28日)。なお、マクロン大統領はイタリア訪問後の習近平国家主席の訪仏を受け入れているが、その際、欧州企業の中国への要望を伝えるとともに、「『一帯一路』構想は国際規範に合致する必要がある」と述べたという(「ロイター通信」3月26日)。

懸念を示しているのはEUだけではない。米国の国家安全保障会議は日本時間3月10日、「イタリアは主要なグローバル経済であり、大きな投資先だ。『一帯一路』構想の承認は中国の略奪的なアプローチに正当性を与えることであり、イタリアの人々に何の利益ももたらさない」とツイートし、中国とイタリアを牽制した。3月15日には、ホワイトハウスの国家安全保障担当顧問の広報官が「中国の国威発揚のためのインフラ整備プロジェクトにイタリア政府がお墨付きを与える必要はない」と発言している(「ロイター通信」2019年3月20日)。

また、安倍晋三首相は4月24日、イタリアを訪問してコンテ首相と会談した。同会談では6月に大阪で行われるG20首脳会議への協力の呼びかけのほか、防衛協力の強化などで一致した。

しかし、この首脳会談は、コンテ首相が第2回「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムに出発する前日に行われたことなどから、イタリアの中国への傾斜を食い止めるために行われたと推測するメディアも多い。首脳会談後の共同記者会見で、安倍首相の掲げる「自由で開かれたインド太平洋」にコンテ首相が力強い支持を表明したことや、持続可能な質の高いインフラが経済に果たす重要性で合意したことなど、「一帯一路」構想を意識したと思われる発言があったためと思われる。

さまざまな枠組みで拡大する中国と欧州各国との協力
2017年、中国の国有企業である中国遠洋海運集団(コスコ・グループ)が、ギリシャのピレウス港を運営する港湾公社の株式67%を約3億6,850万ユーロで取得するなど、中国は「一帯一路」構想の下、インフラ分野を中心に欧州での存在感を強めている。

さらに、中国は中・東欧諸国の16カ国と「16+1サミット」を2012年以降ほぼ毎年開催し、関係も深めている。2018年はブルガリアの首都ソフィアで同サミットが行われた(2018年8月28日付地域・分析レポート参照)。

今回、イタリアが「一帯一路」構想に関する覚書を締結した狙いの1つに、中国の旺盛な投資を取り入れることで、低迷する経済の回復を図ろうとしていることがある。今後、欧州各国の経済が低迷するようなことがあれば、「一帯一路」構想に賛同、覚書を締結する国が増えることも考えられる。

欧州各国の動向に今後とも注目していく必要があるだろう。







まとめ

イタリア北部での感染経路は

武漢からの中国人観光客2人がイタリア旅行中に発症した事

イタリアを欧州での一帯一路構想の足掛かりとする中国

現に中国と「一帯一路」構想に関する覚書を締結したイタリア

その後、フランス、ドイツ、スペインと欧州で爆発的に感染が広がった

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